「単純な疑問なんだけどね」

 メローネはいくつかの小瓶に採取した血液を光に照らして振ってみたり、パソコン(じゃあなくてスタンドだけど)にカタカタ何かデータを打ち込んだりと忙しそうにしていた。なので頬杖ついてそれを観察していた私が話しかけたときも、メローネはこちらを見向きもしなかった。ただ一応耳に入れる気はあるようで、目も合わせないまま「ン?」と言った。

「そのスタンド、なんで私では試さないの?」

 全然作業を止めなかったメローネなのに、突然ぴたりと動きが止まった。すかさず「誤解しないで聞いてほしいんだけど」と私は断りを入れる。べつに是非とも私の体で試してくれ!とか言いたいわけではないのだ。

「いや、だって一応私、生物学的には女なわけじゃない?チーム内で唯一。その能力、めちゃくちゃ手間かかるじゃない?一番身近な女の体を利用するのが一番手っ取り早くない?毎回いちいちそこらへんの女襲うの、めんどくさくない?まあそれが趣味だって言うならとめないけどさ」
「…ハァー、わかってないな。女ならどれでもいいってわけじゃあないんだよ」

 やれやれと心底呆れた溜息を吐いて、メローネは言う。敵との相性、母体の健康状態、性格、生年月日、血液型、もろもろを照合した上でうんぬんかんぬん。なるほど、けっして女性襲いたがりのヤバイ奴だというわけではなくて、いろいろとプロフェッショナルに合理的に『息子』を生み出しているわけで。「なんでもよくない?私でもよくない?」と軽く言ったのは彼のこだわりに対しては失礼だったかもしれない。そっか、けどさあ、と私は思う。

「私わりと健康だしいい物件だと思うんだけどなあ…サンプル一つ試さないんだもの」
「…へえ?そんなに興味があるとは意外だったな」
「うぅん。それくらいだったら役に立つかな、と思って」
「…
「女であること、それ以外に役に立たなくない?」

 私は腕を組んで首を捻ってそう軽く言ったのだけど、メローネはまた手を止めて、私の顔をじっと見た。へんてこマスクで片目しか見えないので表情を読み取るのはいつも難しいけれど、わりかしジィッと見つめてくる。何か言おうとしてメローネが口を開いて―…けどパソコン画面の異変に気付いてパッとそちらに顔を向けて、液晶に浮かぶ文字に興奮気味に言った。「よし!いい子供が生まれたようだ!あの母親に目をつけて正解だったッ!」と。私は唇を尖らせる。同じ女でも、私よりチームと関係ないその女の方が、よっぽどチームの仕事に貢献しているらしい、というのがなんとなく面白くなかった。
 しかしすぐにメローネが「ええと、何の話だったか?ああ、そうだ」と話に戻った。

「いいかい?確かにオレは『ベイビィ・フェイス』の母親として魅力的である女性を求めている。巡り合わせというのは重要だ。…まあ、地球上に女が一人になった場合には、その個体しか選択肢はないが…」
「うん、まあそうね。良い女との出会いがあるといいわね。24時間365日」
「だが。オレは君に対してまったく!『母親』にしたいという気持ちはない!一度のお試しだって嫌だね、絶対に」
「えっそんなに嫌!?そんっなに魅力ないかね!なんだか切ないのだけど!オンナとして!」
「ああ!こんな形で好きなキスの仕方や好きな体位なんてまったく聞き出す気にならない」
「……、…はあ」
「君に頼むとするならこうだろう。『母親』として良い『子供』を産んでくれ、ではなく」
「…」
「オレの子供を産んでくれ!と」
「………」

 堂々と言い切ったメローネを、私は沈黙したまま呆然と見た。私のその反応にメローネが怪訝そうな顔をする。何か間違ったことを言ったか?いや言っていないはずだが?みたいな、そんな空気だった。その空気の中、またパソコン画面に異変があったようで、メローネがぐるんっと首をそちらに捻る。私もなんとなく、その後ろから画面を覗き込んだ。ああ、よく仕組みはわからないけれど、向こうの状況はまったくわからないけど、それでもこっちの声は聞こえてしまっているらしい。

「……『オレの子供を産んでくれ』とはいったい何ですか? ですって」
「そりゃあ、『愛してる』ってことに決まってるだろう」


愛ならそこに転がしておいた