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「男って、くさいし、体はゴツゴツしていて硬いし、抱き合ってもちっとも良い気持ちになんかなりっこないのよ。絶対そう」 私の美しい恋人は、ベッドの中で私と向かい合いながらそんなことを言う。どちらともなく相手の指に指を絡めて、その体温に安心感を得る。「指に毛が生えてるし?」「そう、指に毛が生えてるし」茶化すように言って、くすくす笑いあった。どうやらトリッシュにとってはある特定の人物に対しての愛ある悪口のようだけど、プライバシー保護のため、名前は明かさないようにしておこう。 「それに比べて、女の子を抱きしめるとやわらかくって気持ちいいし、それに…」 もぞもぞとベッドの中で距離を詰めて、腕を伸ばし、私を抱きしめてはわざとらしくクンクンと鼻を鳴らした。「いいにおい」と囁いた声に、私は苦笑する。 「いい匂いなのは、トリッシュとおんなじ匂いだからでしょ」 「そう?」 「そう。シャンプーも香水も、トリッシュの好きなかおり」 「ええ、そうだったわね」 くすくす笑いながら、私の最近伸びてきた髪の毛先に触れる。匂いだけじゃない。二人で買い物した先でお互いが絶対似合うと選んだ服やコスメでいつも着飾って、この部屋のカーテンやテーブルやグラスなんかも二人で選んだものであふれている。トリッシュといるときの私は彼女の好きなもので作られているのだ。 好きな男の一人や二人できれば女は美しくなるだの、その男の色に染まるだの、あれは嘘だったわ。いや、嘘っていうより、相手が男には限らない。相手が美しくって、綺麗なものを愛している女の子だったら、尚更。 私は綺麗好きなトリッシュにとっての「綺麗なもの」でいられるよう必死だ。 「私女の子でよかったあ」 「どうして?」 「だって男の子だったらトリッシュにくさいって言われてたかもしれないし」 「そうね」 「ちょっとは否定してよ!あなたが男の子でも好きになってたワくらい嘘でも言ってよ!」 「だって、あなたとこういう関係になってから、男の人とキスしたいなんて思わなくなったんだもの」 スンッと悪びれもせずそう言ったトリッシュは、口を尖らせる私の気持ちがわかっていないらしい。それどころか、最上級の褒め言葉を言ってあげた、くらいの顔をしている。そりゃあ、そうね、かっこいい男の人を見ても目移りしませんよって言ってくれたのだから、嬉しいっちゃ嬉しいけれど。 「…トリッシュは、いいにおいして抱き心地がよければ私以外の女の子好きになる?」 「……なあに、それ」 今度は私の言葉に、トリッシュがムッと眉を寄せる番だった。「私、くさい男が嫌いだからでも元から女の子が好きだったわけでもないわよ。そんな理由であなたを好きになったとおもってるの?」彼女のその不機嫌こそが、一番の愛情の証明であることを知っている。私はぶんぶん首を横に振った。おもってないよ。違うならいいんだ、安心した。「あなただから好きになったの」と言ってくれる。それなら、私も自信をもって言える。私も、そんなあなただから好きになった。 「…でも、やっぱり『あなたが男でも好きになってたと思うわ』とは言えないわね」 「ええ…」 「だってあなたもそうでしょ?女のあたしを好きになって、女同士であること、後悔してないでしょう?」 だからそんな「もしも」はいらない。言われてみれば、そうだ。この形で出会えて惹かれたから、今の私達がある。もう一度、お互いの指を絡めた。肌を重ねるときに傷付けては嫌だからと短く切りそろえるように気をつけている自分の爪まで、この幸せの一部だ。いとしい。抱き合って眠ろう。私を抱きしめて、いい匂いだとか、抱き心地がいいだとか、明日も明後日も彼女がおもってくれるように祈る。私だってトリッシュを抱きしめると、いいにおいがして、気持ちが良いんだ。やわらかくってあたたかい、私とおんなじ、おんなのこ。 美しいひと。あなたとキスをするときの私が、きっと一番きれいね。 彼女たちが美しい理由
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