「ネアポリス駅?トリッシュを連れて?列車で移動なの?」
「だとよー」

 「鍵」を手に入れたフーゴ達が戻るなり、今度の指令は駅へ向かうことだと聞いて私は目をぱちくりさせる。ヘリコじゃあねーのかあ、とナランチャがちょっと拍子抜けしたような様子で言っていた。私もちょっと拍子抜けだ。駅も列車内も人が多そうだし、安全な乗り物って感じじゃあない。いまいちぴんとこなくて首を捻っていたら、敵との戦いで切断したアバッキオの手首をジッパーでくっつけ終わったブチャラティが私の元にやってくる。

。すぐ出発する。準備は…」
「ちょっと待って!トリッシュが今着替えてるから」
「そうか。なるべく急がせてくれ。だがあまり余計なことまで知らせなくていいからな。ただ従ってくれと言うんだ。向こうから質問されても、最低限の返答で済ませるように」
「えっ!あんまりおしゃべりするな、ってこと?」
「おしゃべりするような話題も無いんじゃあないですか。あの娘、ほとんど喋らないんだし」

 ブチャラティの後ろにいたフーゴがそう口を挟んだ。私はきょと、とそっちを見る。フーゴはトリッシュに対して第一印象が悪いのか(上着で手を拭かれたのがそんなに嫌だったのかしら)少しそっけない言い方だ。彼も先程まで「鍵」を取りに、ボスの娘のため敵と死闘を繰り広げたわけで、ぼろぼろだけど。私はフーゴの言葉に首を振る。

「そんなことないよ。私トリッシュとおしゃべりしてるもの」
「はあ。…だそうですよ、ブチャラティ。こいつはもうすでに余計なこと口走っているかもしれませんね」
「余計な事なんか言ってない!…だから、ねえねえブチャラティ」
「ん?」
「余計なこと言わないから、私、彼女と友達になってもいい?」

 今度はブチャラティが目をぱちくりさせる番だった。フーゴまで一緒になって驚いている。私、今まで全然女の子の友達なんていなかったから、どんなおしゃべりが彼女を楽しませてあげられるかわからないけど、わからないなりに考えてみるのが、楽しいなって思ってる。だから、ボスの娘とか、そういうの一旦置いといて……って思ったけどフーゴが「相手はボスの娘だぞ?」って眉を寄せた。私は口を尖らせる。でも、そんな私の拗ねた様子を見たブチャラティが頷いた。仕事上のものではない、私の好きな、なんでもないときの彼の優しい表情だ。

「ああ、もちろん。そうするといい」

 やった!と飛び上がって、私は「トリッシュ呼んでくるね!」と二人にくるっと背を向ける。「いいんですか?」とフーゴが視界の端で肩を竦めた気がしたけど、ブチャラティがイイっていうんだから、イイに決まってるんだ。隠れ家の二階へ、階段を駆け上る。ああ、トリッシュと過ごしたこの部屋ともオサラバかあ、と随分短い間だったのに少し名残惜しい。けど、いいんだ。これから。移動中の車の中で、何話そうかしら。列車の中で、お菓子は食べるかしら。考えると、ちょっと楽しいんだもの。コンコン、と薄い扉を軽やかにノック。

出発だよ!行こう、トリッシュ!