「…ブチャラティ、大丈夫かな。ミスタも…」

 不思議なスタンド使いの「亀」の中、無事でいるのは私とトリッシュの二人だけだった。いや、アバッキオやフーゴ達だって眠っているだけで直接的な危険に陥っているわけじゃあないのだけど。その顔には木の幹みたいな皺がびっしり浮かび上がって、このままいけばミイラみたいに干からびちゃうことは明白だ。まったく、へんてこなようで、凶悪すぎる敵の能力。その「老化」の進行は「女」のほうが遅いらしいということで、私とトリッシュはまだミイラにならず、最近皺が気になってきたのよネ…という程度のおばちゃん化で済んでいる。とはいえ、絶体絶命のピンチであることには変わらない。

「…ねえ、その…敵が亀に迫っているって知らせがあったから、ブチャラティは今亀の外へ出て行ったのよね?それってつまり…先に外へ行った“彼”は敵の暗殺に失敗してもう…」
「ううん。知らせに来てくれたのはミスタのスタンドだし、ミスタはまだ生きてるよ。ああ見えてめちゃくちゃ強くてしぶといの!」

 トリッシュが不安になるのも無理はない。ミスタのスタンドは暗殺向きだし、単独で行かせたのはブチャラティの判断だ。けれど、敵が二人だったというのは想定外。ミスタのスタンドであるピストルズから知らせを受けて、ブチャラティは亀の中から出て行く際、私とトリッシュを振り返ってじっと見た。言わんとすることはわかる。私が大きく頷くのを確認してから、彼は敵の元へ向かった。

「…でも、そのミスタが戦闘不能だから、ブチャラティが出て行ったのよね」
「……」
「敵は二人だった、とも言ってなかった?…もし彼もやられたら、その時は…」
「その時は、残った私がなんとかする」

 心底しんじられない、という唖然とした顔で、トリッシュは言葉を失う。今、動けるのは私だけだ。トリッシュを護れるのは私だけ。女でよかった。今ほど思ったことはない。もし自分も男だったら、さっさとよぼよぼのおじいちゃんになってた。トリッシュの傍にいなかった。私はぎゅっと拳を握って、部屋の天井を睨む。どこからでもかかってこい!という気持ちで。
 けど、ぐいっとトリッシュに腕を引っ張られる。せっかくかっこよくキリッと決めていたのに!

「無茶よ!絶対に無理!無謀だわ。男二人で敵わなかったら、貴女一人でどうにかできるわけないじゃない!」
「えぇっ!?そんなはっきり言う!?ま、まあブチャラティのこと信じてるし、もしもの場合だよ!もしも!」
「貴女たち、おかしいわ。あたしにはサッパリ理解できない!さっきだってそうよ。一番老いるスピードが速いそこの彼に氷を使うのは当然なのに、あたし一人を優先しろだなんて」

 そこの彼…と指さされたのは、本当にカラカラのミイラ状態のナランチャだ。老化のスピードを遅らせるのには氷で体を冷やすのが有効、と聞いてからブチャラティが止めるのも聞かずにトリッシュは彼に氷を与え続けた。そのおかげで、命は取り留めている。トリッシュは優しいんだ。だから、目の前で死にかけてる人間より自分を優先するのは間違いだと思ったり、ミスタ達で敵わない相手に立ち向かおうとする私を無茶だって叱ったりする。

「うん。ナランチャに氷をわけてくれてありがとう。ブチャラティもああは言ったけど、トリッシュの優しさを嬉しく思ってるはずだよ。ナランチャだって大事な仲間だもの」
「…あたしは…」
「でも、私もトリッシュが使うべきだと思うよ!女の子だもの!」
「…は?」
「シワとかシミとか、女の敵だっていうし」
「………あなたも女でしょ」

 たしかに。そういえばそうだ。私はハッとして自分の顔をぺたぺた触る。さっき見た時よりも皺、増えてるかしら。いくら男より女のほうが老化が遅いって言ったって…、ああ、もっと冷たいもの飲んどけばよかったかなあ。トリッシュが呆れたように私を見るので、自分の両頬を手で挟んだまま、ぐるっと首を捻って顔をそらす。

「…なによ」
「は、恥ずかしいよ。しわくちゃよぼよぼのおばあちゃんなの見られちゃうと…」
「あたしだって、このままいけばそうなるわよ」
「トリッシュはおばあちゃんになっても絶対可愛いじゃない!」
「あらそう。…でもブチャラティはもう出て行ったし、他の男達は見てないし、よかったじゃない」
「トリッシュに見られるのが恥ずかしいの!」
「男の人に見られるより?」
「そうよ!」

 なんでよ、とトリッシュが眉を寄せる。そう聞かれると自分でも「なんでよ!」と思うので、へんなことを言ったんだなとじわじわ自覚した。なんだかとっても恥ずかしい気持ちになって、顔が熱くなっていく。

「…はっ!だめだめ、体温が上がったら余計におばあちゃんになっちゃう!どうしよう!トリッシュのこと護れなくなる!」
「……はあ。あなた、年をとっても多分“そのまま”でおばあちゃんになるのね。あなたこそ“可愛いおばあちゃん”よ、きっと