目の前であの子の体が敵に喰われるのを見て、あたしは飛行機の中、声も出せずに呆然と立ち尽くしていた。その直後にジョルノが「敵は動くものに反応している」と見破り、敵をひきつけてくれたおかげで、そいつはそれ以上あたしに向かっては来なかった。その代わりジョルノは腕を失った。あの子も血まみれのまま床に転がり、起きてはくれなかった。「あたしの代わり」だ。敵は、クローゼットに隠れようとしたあたしを狙った。その盾になったのが彼女だった。あたしは盾になれなんて頼んでない。ブチャラティが彼女に命令したわけでもない。

「……治るのよね?」

 あの子はいつもなるべく戦闘には参加せずに、あたしの傍にいた。だから、あの子が血を流しているところを、あたしは初めて目の当たりにした。いつもへらへらして、おしゃべりで、ちっとも戦いになんて向いてなさそうなあの子が。ショッキングな光景だったけれど、どこか冷静であったのは、多分、「ジョルノが治療すれば治る」と知っていたからだ。あの子だけじゃなく、ミスタやナランチャもかなりの重症のようだったけれど、でも、ジョルノが治すはず。ジョルノも確かに腕をやられたけど、自分で自分の体だって治して、きっと。ジョルノが自分の腕を治したらその後、あの子の傷だって、きっと。

――ジョルノには失った腕はもう創れない。

 ブチャラティの言葉に、今度こそ頭が真っ白になる。意味を理解することを脳が拒む。ブチャラティがぼろぼろになったあの子を、亀の中に入れた。立ち尽くすあたしに、「少し休め」と声を掛けて、ブチャラティはアバッキオの待つコクピットへ姿を消す。あたしは混乱する脳みそのまま、言われた通りに手近な席に腰を下ろした。座った瞬間、急に、怖くなる。汗が噴き出て、息を呑んだ。
 独りだ。護ってくれると言った存在が、こんな一瞬で。

「……どうして、」

 頭の中に浮かぶのは疑問ばかりだ。どうして。どうして、彼らは、あそこまでできるの。あたしは、自分だけのために此処にいる。自分だけのために。だけど彼らは違う。自分の未来や安全のためなんかじゃない。自分たちの信じることのため。あたしとは違う。それでも、そのためにあそこまでできるものなの?どうして。理解できない。スタンドに襲われそうになったところを助けてもらっておいて薄情かもしれないけど、だって、どうしても理解できなかった。

「……あの子は……?」

 あの女の子も、そうだろうか。自分の信じるもののため、なんだろうか。だから、あたしを護るの?あたしの代わりに、敵に体を喰いちぎられたの?かなりの出血だった。息はあるようだけど、手当したって治るようなものではないはずだ。

「何が、『私が護るから』よ……」

 護るって言ったくせに。死なないって言ったくせに。――違う、そんなばかげたこと、しなくていい、理解できない。あたしのためなんかに、傷付くなんておかしい。納得できない。どうして。
 脳裏に浮かぶ、あの能天気な声。思い出す。笑顔。繋いだ指の感触。「私が護るから」って、そう言ったときの、へたくそな笑顔。ちがうわ、あたし、あなたに護られたくなんかない。

「あたしだって……」

 自分で言いかけて、ばかげてるって呆れて唇を噛んだ。あたしに何ができるというの。こんなことを望むなんておかしい。冷静に考えれば、おかしいってわかる。普段のあたしだったら、こんなこと思わない。
 でも本当は口にしたかった。「あたしだって、あなたのことを護りたい」なんて、ばかみたいな台詞。


 そのばかみたいな願いが決心に変わって、あたしはこの後、一つの強さを手に入れることになる。そして向き合うことにもなる。自分の心と。あの子に、言わなくてはいけない気持ちと。