「うわー見て見て赤司くんこっちのも美味しそう!これものせよー」
「……」
「あ。赤司くんは?これいる?あ、アイスのせる?」
「…いや、遠慮する。その隣は?の好きそうなタルトがあるよ」
「わ、わ!ほんとだ!これもこれも~」
「ああ…
「あっねえねえあっちのはなんだろ!ワッフルだって!しかもバレンタイン限定のチョコ、」

「あっはい」
「君の皿には恐らくもうそれ以上は載らない」
「あっ…はい」
「一度席に戻ろうか」
「あっ…はい…」

 休日に赤司くんを誘ってやって来たデザートびゅ、ぶ、びゅっふぇ、は多くの人で賑わっていた。なんせ予約をしないと食べられない!大人気バレンタイン限定メニューが盛り沢山だ!ネットで見た。「次の休みはこれに行こう!」ってネットの紹介記事を送りつけると二分後くらいに「分かった」と快く返事をしてくれる赤司くんは優しい。今日ここに来るまでも私が何回もホームページの色とりどりのいろんな種類のデザートの写真を舐め回すかのようにじぃっと見ていても何も言わなかった。あ、いや「嬉しそうで何より」って言ってちょっと笑っていた気がする。女の子は砂糖で出来ている、とは言わないけど、やっぱり女の子はスイーツが好きなものだ。見た目も、味も、なんだってこう、こんなに人を幸せにするんだか!ってくらい、好きだ。こういう場所に文句一つ言わずに女の子に連れられて一緒に行ってくれる赤司くんは凄く優しい。
 そう、赤司くんがこんなに優しくっていい人だっていうのに。私ときたら。赤司くんに促され席に戻り、自分のお皿にあれこれのっかっているケーキやタルトたちを見下ろして、私はそれまでの浮かれた気分を徐々に鎮めていく。向かいの席に座った赤司くんが、そんな私を見て苦笑した。

「物足りない?だが次のメニューはその皿を平らげてから取りに行ったほうがいい」
「ううん物足りないんじゃなくて…いや物足りないんじゃないよ!?私どれだけ食いしん坊だと思われてる!?」

 もっと盛りたかったのに席に帰されてしょんぼりしてるように見えたのか私。違う違う、そうじゃないから!「一度にいっぱい取るのやめようって思ってたのに浮かれて忘れていっぱい取っちゃったから後悔しているんだよ…」って言ったら、赤司くんは少し不思議そうに私を見た。だって、赤司くんの皿にはデザートが三つしかのってない。ケーキはどれも小さいサイズのものが多いとはいえ私の皿には…これ…赤司くんの倍のってる。いろいろと恥ずかしい。肩を落とす私に、赤司くんは首を傾げながら尋ねる。

「後悔?いざ席に戻って皿の上の量を見たら食欲が無くなった、ということかな」
「え、うん全部食べるよ?食べるけどね?」
「なら問題無い」
「いや、有るよ。すごくある」
「例えばどんな?」
「私ね、昨日一晩調べていたんだよ。デザートぶひゅ、びゅっふえのマナーとやらを」
「勉強熱心だ」
「うん。いろいろあったよ。しかし一項目目から破ってしまった」
「そのマナーは?」
「『お皿にのりきらないほどのスイーツを取ってくるのは女性としての品格に欠けます』」
「なるほど」

 納得したように赤司くんが頷く。納得されてしまった。納得されてから私のテーブルの上を見られると物凄く、恥ずかしいんだけど。なんでも好きな量を取り放題なのがこの食事の形式における良い所だ。同時に、好きなものを好きなだけ食べられるのだから、何もいっぺんに皿に取ってこなくても、次はこれ、食べ終わったらその次はこっち、って何回も往復できる所が良い。ネットで調べた時には品格がうんちゃらだけでなく、「席についたときに皿の上にみっちりのった多くのスイーツを目にすると食欲が無くなる」とも書いてあった。たぶん科学的根拠とかがあるに違いない。人間の脳みそとか体ってそういうふうにできている、とかだと思う。

「あとは…同席者と同じタイミングで席を立ったり戻ったりした方がいいって」
「…まあ、食事だけでなく会話を楽しむ為には当然かもしれないな」
「並べられたスイーツの前で立ち止まってきゃあきゃあはしゃがない、とか」
「ああ、なるほど」
「……」
「…」
「一番何が恥ずかしいって赤司くんと自分の皿を見比べて自分の食いしん坊さが分かってしまうのが一番恥ずかしいんだけど」
「俺は気にしないよ」
「私はすごく気になる…」

 好きなものを目の前にして、周りが見えなくなってしまった。恥ずかしい。赤司くんは本当に気にしてないふうに喋っているけど。さっきまであんなにテンション高かったのに、すっかりしょぼくれてしまった私に、赤司くんはふむ、と口元に手を当ててちょっと考えこんだ。

「マナーは確かに大事だが、それはこの場で誰もが気分よく食事する為のものだろう。マナーに気を取られすぎて君が好きなものを食べられないのでは元も子もないよ。それに目の前でそんな顔をされると、俺の食欲も失せる」
「!?え、ご、ごめん…!!食欲が失せる顔してた私…!?」
「…と、いうのは言い過ぎかな。きつい言い方になってすまない」
「ううん、私こそごめん。そうだよね、しょんぼりした人間とじゃ美味しいものも美味しくなくなるね」
。もう一度君の皿の上を見てごらん」

 促されて、私は言われた通りお皿の上を見た。美味しそうなケーキやタルトが所狭しとのっかっている。見た目からして可愛くってふわふわしてて、まだ食べていないのにその甘さを想像するだけで幸せだ。赤司くんが「が好きそう」と指差したタルトなんか、特に、絶対美味しい。さっきまで自分の浅ましさに恥ずかしくなっていたっていうのに、ああ早く食べたい食べたいって気持ちでいっぱいになってくる。だってこんな、全部美味しそうな、全部大好きなスイーツが目の前にこんなに、あるんだから。ケーキを食べられる機会なんて身近な人間の誕生日とか記念日とかお祝いごととか自分へのご褒美とか、そういうときしかないわけだし、そういうときでさえせいぜい一切れや二切れなのだし、いろんな種類をこうして一度に皿にのせる機会なんて無い。全部自分で食べていいとかそういうのいつもなら無い。ので、当然、もう見ているだけでテンションが上がる。眼福。

「ほら。たくさん皿に載せた意味があった」
「え…」
「まず目で楽しむ、というのも大事だ。ぽつんと一つ二つ載っている皿よりよっぽど、今手元にあるその皿の方に、きっと君は目を輝かせるだろう。『たくさんのケーキが載っている』というその目の前の現象に意味がある」
「うん?なるほど…?」
「俺は君のそういう、食に対して貪欲に喜びや楽しみを見つける姿勢が素晴らしいと思うよ」
「そ、そう…かな?私そんな絶賛されるようなことしてるかな…」
「流しそうめんの機械に浮かれるところだとか」
「あったねえ…」
「味は変わらないのに」
「おおう…ごめんね毎回変なことに付き合わせてるな私…」
「謝る必要は無いよ。前にも言ったはずだ。君といるとたくさん発見がある。俺はそれを楽しんでいるんだ」

 そこまで言うと赤司くんはふっと口元に笑みを浮かべて、「さあ、食べようか」とフォークを取った。おあずけされていたところへ飼い主の「よし」が出たように、私ははっと自分のケーキにもう一度向きなおる。改めて見ると、もう、なんだろうこう、ぶわーっといろいろ湧き上がってくる感じ。テンションが上がってくる。自然と口元が緩んだ。「わーどれから食べようかなあ」って独り言が自然と出てくる。視線は真っ直ぐケーキに向かっていたけど、赤司くんが少し笑った気がした。

「いただきます!…ん!美味しい!ねえ、赤司くんが美味しそうって言ってたやつ、すっごく美味しい!」
「俺は『が好きそうだ』と思っただけだよ。でも、そうだな。後で俺も食べてみよう」
「うん!そうして!おいしいから!…っていうか赤司くん、今更なんだけど甘いの苦手とかないよね…?無理やり付き合わせちゃってない?」
「大丈夫だ。…友人に君と同じように甘いもの好きがいたんだ。それを思い出すよ」

 赤司くんの好きなものも嫌いなものも知らないなあ、彼のことなんにも知らないなあ、って思って少し気持ちが落ち込んでいたあの夏とは、少しだけ違う。あれから、好きな食べものを訊いたらきょとんとされたけど、ちょっと考えるように口元に手をあてて、湯豆腐?って答えてくれたし。湯豆腐って?鍋に豆腐入れればいいの?茹でるの?ってクックパッド見てたらちょっと笑われたけど。嫌いなたべものを訊いても、また同じように考えこんでいた。最終的に思い付かなかった。それでも、赤司くんのことを少しでも知れて嬉しい。たまに自分の過去の話とかもしてくれるし。まだまだ、謎だけど。いろんなことが。でも私もあんまり訊かないし、赤司くんからもあまり訊かれない。でもなんか、彼にはいろいろと、私がどんな人間なのかを知られているような気がする。知っている上で、自分とかけ離れているのに、一緒にいてくれている気がする。まあ、そこが面白いみたいなことをよく言ってくれるけど。褒められているかは分からない。少女漫画によくある、セレブ人間が庶民の暮らしを見て「面白いな」って言ってるのと同じ感覚のような気がする。でもちょっと違うような気もする。勝手に、そう思う。


「赤司くんってさ」
「何かな」
「私が特別なの?」

 赤司くんがフォークを持つ手の動きを止めた。私も止めていたので、二人して止まって、お互いの顔を見る。沈黙。しばらく黙って、その末にやっと、自分の質問がおかしかったことを自覚した。はっとして、手を顔の前でぶんぶん振った。「あ、ごめんなんか変な聞き方した!なし!」赤司くんは変わらずじっと私を見つめて、黙って、フォークを置くと少し笑う。

「そうか。それじゃあ、本当はなんて訊きたかったのか教えてほしい」
「えっと…なんていうのかな。私すごく赤司くんに優しくされてる気がするから」
「そうかもしれない。優しくしたいと思っているよ、勿論」
「でも、それがなんだかこう…本当は、間違ってるんじゃないかなって思う」
「…間違い?」
「本当は、そういうことしない人じゃないかなって」
「……なかなか酷い言われようだ」
「あー!違う。ええとね、本当は、甘やかすような人じゃなくて、叱ったり、正したり、そういう人なんじゃないかって。赤司くんっていう人間は、そういう人間じゃないといけない、ような、存在なんじゃないかって、思っちゃうんだ」

 滲み出るお坊ちゃんオーラっていうか、気品っていうか、いいもの食ってそうっていうか、育ちのいい感じ、とか。言葉の選び方とか、知識の量とか、食べ方が綺麗だとか。そういうのを見ているといつだって思う。たぶん、本当だったら私とこんなところに来てくれて、品の無い料理の取り方を「それでいいだろ」って笑うような人じゃないんじゃないかなあって。もっと呆れたり、引いたり、そんな反応されるべきなのでは?と思う。あの夏とは変わったようで、変わらず、変な申し訳無さが拭えなかった。

「それがまったくの私の勘違いで、赤司くんは普通に他の皆にもこうやって優しくしてる人なのか、それとも私だけこうやって甘やかしてくれてるのか、どっちなんだろう、って」
「…君にだけだよ、と言ったら?」
「それは…」
「あまり喜んではくれないだろうね、その様子じゃ」

 赤司くんが眉を下げて、困ったように笑う。自分でも不思議だ。赤司くんのような素敵な人に「優しくしたいのは君だけだよ」「君が特別なんだよ」って言われたら、嬉しいはずなのに。喜んでいいことなのに。なんだか、素直に喜べない。

「ずるいって分かってるんだけど…、じゃあ甘やかしてほしくないのかって言われたら、違うんだよね。赤司くんがくれる優しい言葉は、すごく嬉しいよ。あ、こんな私でいてもいいのかあって思うよ。一緒にいて楽しいって言ってくれるのを、疑ってるわけじゃない。けど…もやっとする」
「……そうか」

 眉を下げて笑うその表情は、困ったな、っていうものから少し、悲しい瞳になった気がした。あ、と自分の口にした言葉に後悔する。赤司くんのそんな、悲しそうな顔は今まで見たことがなかった。いつもなんだって涼しげな顔してるあの赤司くんが。私の言葉で、悲しい、って思うのか。自分はよっぽど彼に刺さる言葉のナイフを選んでしまったらしい。

「そうだね。君といる時の俺は、少し、おかしいのかもしれないな。君と出逢う前の俺が知ったら、どう思うだろう」
「…あの、赤司く、」
「俺…とは、つりあわない?恐れ多い?君のモヤモヤの正体は『それ』なのかな」

 もしかしたら、赤司くんは、そんな言葉を今まで何度も言われてきたのかもしれない。周囲の人間にとって赤司くんがあんまりにも、こう、遠い存在に思えて。赤司くんがそう思ってほしくなくっても、周りが勝手に距離を置いていたのかもしれない。私はあんまり、赤司くんの今までを知らないけど。赤司くんが相手と親しい関係になりたくっても、「自分じゃつりあわないですよ」「そんなの恐れ多いので」とか、思われていた、かもしれない。冗談抜きで、赤司くんってそういう独特の近寄り難いオーラが出てる時がある気がする。――だから、もそんな人たちと同じことを言うのか、って、悲しそうな顔で尋ねる。確かに、「私なんかと一緒にいるような人じゃないのでは?もっと相応しい人と一緒に過ごすべきなおひとなのでは?」って思う。
 それでも、私が普段一緒にいられる理由は?今日こうやって、彼を誘えたのは?

「赤司くん、いつも私に合わせようとしてくれてない?」

 私が背伸びをしなくていいように済んでいるのは、赤司くんが屈んでくれているからだと思う。私が、変な思いつきや提案を簡単に赤司くんに言えてしまうのは、「分かった」って一言で一緒に付き合ってくれる赤司くんだからだ。本当だったら「こんなこと赤司くんにお願いするなんて…」って思うべきところをそう思わないでいられてしまうのは、赤司くんが、私に合わせようとしてくれているから。私が引け目を感じないように、私が気付かないところで、いろいろ、気をつかっている気がする。その事実にたまに、ふっと気づいては、私はもやもやするのだと思う。
 赤司くんが驚いたように目を見開いた。図星?だけど彼はすぐに、またあの困ったような笑い方をする。

。何度も言うが、俺は無理に君に付き合ってるわけじゃない」
「だけど、私が合わせてもらってばっかりで、なんか…ずるい気がしない?」
「…そんなことはないよ。それに…が俺に合わせるより、俺がに合わせる事のほうがきっと、簡単だ」
「でもさ」
「君が俺に合わせる必要は無い。合わせてほしいと思ったことは無いよ。俺は『俺に相応しい人間』を作りたいわけじゃない。だけは、そんなものになってほしくない。そのままのを見ていたい」

 有無を言わさず、といった強い口調に、ぐ、と私が怯む。そんな馬鹿なことは考えないでくれ、と静かにたしなめられたような気分だ。確かに赤司くんの言うとおりなのかもしれない。「赤司くんにつりあうような人間」というものに私がなるには、たぶん、大変な努力がいるというか、限りなく無理に近いというか、それくらい、私が普段意識しないだけで、知らないだけで、赤司くんってすごい人なのかもしれない。そんな途方も無い努力を、私にさせたくないと赤司くんは言う。しなくていいって言う。なんだか、甘やかされてるようで、そこはなんか、厳しい。
 まるで、私以外の何か…、いや、私以外の彼にとってのほとんどが、「相応しい物」だけを集められた世界に生きているみたいな言い方だ。綺麗で立派で、歪みのないものだけで固められていたみたいだ。そしてそんな、正しいものだけを与えられる世界に、少し、嫌気がさしているような、言い方だった。
 私が口を結んで黙ったのを見ると、赤司くんはしばらくして、微妙な空気を取り繕うように優しく笑った。「すまない。食べる手を止めてしまってはもったいないな」と。表情は優しいし、私を気遣ってくれているのもわかってる。わかってるから、私は、皿に残っていたケーキを、頬張る。ひとくちで食べるには大きいのに、切り分けずに、ひとくちで。

「むぐ…んん…」
「…よく今の一口でいけたな…」
「極端なのはいけないとおもう!」
「? 一口で食べた君の台詞ではないと思うよ」
「私が赤司くんに合わせる必要無いからって赤司くんが私に100%合わせるのは極端だよ」

 赤司くんが目を見開く。フォークを動かす手が、また止まった。

「どっちかがどっちかに全力で合わせるんじゃなくて、お互いがお互いを知ればいいんじゃないかな。ちょっとずつ、お互い歩み寄ったほうが。私こんな、そのー…だらしないというか、うん、あれなんだけど。ちょうどいいぐあいを見つけてみようよ。そりゃあ、50:50じゃなくて、赤司くんが8割合わせるのがちょうど良かったとしても…2割くらいは、私も頑張ってみようって、思う」
「…
「……、…あ、あれ?最初から2割って駄目かな…やる気ないって思われ…あ、やっぱ3割、3割頑張るよ」
「……具体的には、どう頑張るのかな」
「え…そうだね…私のみっともないところを直して、赤司くんのお行儀の良さに寄せていく感じで…」
「例えば?」
「……お箸の正しい持ち方を練習する…?」

 赤司くんがふいた。
 いやほんとに。赤司くんが今までに無いくらいめちゃくちゃ自然に笑った。いつも、小さく笑うとか微笑むとか、そういうのばっかりだった赤司くんが、ぶふっと吹き出して、それから肩を揺らして笑った。初めてみた。しかもなかなかその笑いが収まらないらしく、「ちょっと待って」だか「勘弁して」だか分からないけど笑いながら片手をこっちに翳して、顔を背けて肩を揺らし続けている。私はぽかんとしばらくそれを見守って、けれどだんだんかーっと恥ずかしくなって、顔が熱くなった。わ、私結構真面目に考えた気がするんだけどうん確かに笑うところだったかもしれないな!堪え切れなくなって、お行儀悪くがたんと席を立ち上がった。

「わ、私次のケーキ持ってくる。時間もったいないし!元を取らないと!…あっいやこういう発言も駄目だな無し…品がない…」
、」
「いいですよー赤司くんは気が済むまで笑っててくださいよー私はケーキをたらふく食べますよー」
、聞いてほしい」
「なんでしょう」
「俺は君の、変な箸の持ち方が好きだよ」

 席を離れかけた私の腕を掴んで、何を言うかと思えば。「そんなの、好きにならなくていいとおもうよ」と恥ずかしいのをごまかすように、やけくそに言った。好きになってくれるより、みっともないなって注意してくれたほうがよっぽどいい。いやたぶん小さい内に直せなかったんだからこの歳で直すのすっごい大変だと思うけど。100%甘やかさなくていいですって言ってるのに。彼にはもう、甘やかしているっていう自覚すらないのかもしれない。むう、と口を尖らせて赤司くんを見たら、またくすくす笑った。そして、皿に残っていたケーキの一口を口に入れると、飲み込まない内に立ち上がった。お行儀が悪い。そこ、私の方に寄せなくていいとこ。でも喋り出すのは、ちゃんと飲み込んでからだった。

「俺も次の皿を取りに行くよ。一緒に行こう」
「…赤司くんってさ」
「うん?」
「私といると楽しそうだね?」
「ふ、知っているくせに、何を今更」

シュガー・アンド・スパイス、ユー・アンド・アイ


「ねえ赤司くん私せっかくのバレンタインだしチョコ贈るかわりにここの会計払っちゃうぞーって意気込んでたんだけど」
「それは残念だったね。俺が君に払わせると思ったのか」
「や、でもバレンタインだしさー、女の子からさー」
「女性が男性に、という決まりは無いよ。日本はそこにこだわる人が多いが」
「ええ…じゃあどっかでチョコ買う…?」
「いや、しばらくもう甘いものはいいな」
「おうふ…あっ、豆腐は?豆腐食べる?豆腐買わない?豆腐好きなん…あっねえなんでそんな笑うの…赤司くん笑いの沸点低くなってない…?キャラ保ててなくない…?

アンド・ハッピーバレンタイン・フォー・ユー