「うははっ!ひっどいなー!これ絶対…、…はっ!…赤司くん、ガキ使おもしろい?」
「うん?…ああ、おもしろい」
「ほんと?なんか私だけ笑ってない…?紅白見たかったら変えていいからね?」
が好きなアーティストはもう終わっただろう」
「うんまあ。いやそれは私だけの都合なので。赤司くんが見たい人は?出てないの?(っていうか赤司くんって何聴いてるんだろういつも)」
「特には。それより、手伝うよ」
「あ、大丈夫大丈夫!…あーでもごめんやっぱ机の上だけ拭いてもらっていい?」

 せまいキッチンからでも見える部屋のテレビに映る画面では年末の特番が流れていて、それを見ながらお蕎麦の用意をしていた。年末って感じだ。今まで年末年始はほとんど実家で過ごしていたから、家族以外の人間と過ごす年越しは新鮮だけど、それでもやっぱり、変わらず「年末って感じ」だ。そして私と年越しを過ごしてくれる「家族以外の人間」である赤司くんが四角いテーブルをきちんと四隅までしっかり拭いてくれているのを見て「うん、赤司くんって感じだ」とも思った。

「ありがとー、赤司くん。じゃあお蕎麦通りまーす」

 お盆とかそういうトレイもないので、器を一つ一つテーブルまで運ばないといけない。べつに運んでる最中に赤司くんがぶつかってくることは無いだろうけどとりあえず「とおりまーすとおりまーす」と警備員だか整備員みたいな声を掛けながら移動させておく。赤司くんが静かにそれを見守っていたけれど、たぶんあの顔は「うん、って感じだ」って思ってる顔だと思う。私は運び終わったらさっさと座ってこたつの中に足を入れる。赤司くんも早く早く!と座る定位置をぽんぽん叩いて促した。

「ふー。やっぱり年越しはこたつに入ってガキ使を見ながらお蕎麦だね。年末だね」
「そうか。は麺類が好きだったね」
「うん。おいしいし、とりあえず茹でておつゆに入れればいいし、好きだよ。赤司くんは?」
「俺も好きだよ。流しそうめんもいい思い出だからね」
「それまだ引っ張る?今は冬だよ赤司くん。そうめんより蕎麦だよ」
「あれっきり開けてないな。流しそうめんの機械」
「また夏に開けよう。あ、今日のお蕎麦はね、海老のってるからね、豪華!」
「そうだね。あとかまぼこがすごく分厚い」
「そこは私のずぼらさが出てるだけだけどウン、豪華!お惣菜のえび天だけどやっぱりえびは必要だよねぇ」
「海老も好きだね、
「うん。実家だとお惣菜じゃなくておばあちゃんが毎年一人二個分揚げてくれてたなぁ…あれ大変だったんだなぁ…」
「良いお祖母様だ」
「ほんとね。年越しはおばあちゃんの作ったお蕎麦をいとこも揃ってみんなでテレビ見ながらこたつ入りながら食べてーこたつ入りきらない人数だから端っこの人は別のテーブルだったけど…赤司くんは?」
「俺は……あまり、の家とは似ていないかな」
「そっかー。でも赤司くんとこたつってなんかおもしろいもんね。見慣れなくて」
「それは俺も少し思う」

 実家の大きなこたつとは違う、小さなこたつ。この狭い家にも置けるようなサイズの。設置を手伝ってくれたのは赤司くんだ。なかなかコレ!という可愛いこたつ布団に出会えなくて苦労した。でも一人で決めなくてよかった。違うサイズのこたつ布団を買いそうになったギリギリで赤司くんに指摘されて気付けた。そんな小さなこたつに入ってる赤司くんはなんだか絵にならないようで逆に絵になる。以前なら、「赤司くん…本来ならこんな狭い部屋でこんな小さなこたつに入っているような人じゃないんだろうな」って思ってたとおもうけど、この「似合わなさ」というか、平凡さというか、退屈さ?みたいなものを本人は楽しんでいるらしいし、私もなんとなく楽しいので、目の前の光景にふふっとしてしまう。

「…よしっ!お蕎麦食べよう!」
「ああ、それなんだが。箸がまだだった」
「……えっあっごめん本体運んで満足してお箸忘れてた」
「取ってくるから、はこたつから出なくて大丈夫だよ」

 ああ、さっきお蕎麦を運び終わった後、赤司くんがすぐに座らないでキッチンの方に向かいかけていたのはそのせいか。それを「まあまあとりあえず座って」と座らせたのは私だった。私は一度入ったらなかなか抜けたくないのに、赤司くんは随分と簡単にこたつと外を行き来できるらしい。いや、本来こたつとは抜け出せないものであって、簡単に抜け出せてしまう赤司くんはこたつのなんたるかが分かっていないのでは?うん。それなら仕方ない。私が教えて差し上げよう。「ちょっと待って赤司くん」と引き留めた私に、腰を浮かせかけた赤司くんが少し不思議そうな顔をする。

「じゃーん。こんなこともあろうかとこっちの部屋には割り箸があるのでキッチンに取りに行かなくてもいいのです」
「……そうか…よく箸を忘れるんだな」
「バレた」

 割り箸は大人のたしなみだとおもうの。いや、うん、本当、箸だけこっちの部屋に運び忘れたり、お惣菜やコンビニ弁当で済ませたりするときに、便利かなあって。わーごはんごはん早く食べよーってこたつ入ってから箸を持ってくるの忘れたのに気付くこの絶望ったらほんと…テンションが下がるからさ。いつのまにかこっちの部屋に常備してあるようになってしまっただけなんだけど。でもほら先の方がつるつるしてるお箸だと麺類食べづらいから割り箸でちょうどいいよね?いい?いいよ。ちなみに割り箸だけじゃなくティッシュやみかんも絶対こたつから届く場所に置いておくからね。

「赤司くんももっとこたつに素直になっていいよ」
「十分素直なつもりなんだが。まあ、いいか。分かったよ。こたつは一度入ると出られないものだと覚えておこう」
「そーです。そして年越しとはこたつ入ってお蕎麦食べてガキ使を見るものなのです」
「ああ、覚えておく」
「あ、でもほんと紅白とかその後のゆく年くる年派だったら言ってね。ガキ使はほらあの、再放送とか総集編とか未公開シーンとかで十分楽しいんで。赤司くんガキ使おもしろい?」
「おもしろい…かもしれないが俺は、」
「うん」
を見ている方がおもしろいな」
「…えっ、それはなんというか…芸人さんに申し訳ないね?」
「そうだね」
「そうだねって…まあ、うん、じゃあとりあえずチャンネルはこのままにして、お蕎麦食べよっか(パキッ)」
「…フッ」

(デデーーーン!)

「…ハッ!思わず頭の中でデデーンって音が流れてしまった!赤司くんさっそく笑うのはやいよどうしてなの」
「いや…、……割り箸を割るのも下手なんだなと思って」
「ひ、ひどい!じゃあ赤司くん綺麗に割ってみ…、…綺麗だ…」

 綺麗に割れた箸を綺麗な持ち方で持っている赤司くんに口を尖らせていると、赤司くんがまた小さく笑った。

「いや、けど笑うこと…?赤司くんの周りは今まで割り箸を綺麗に割れる人しかいなかったの…?」
「…いや、多分がやるからおもしろいんだろうな」
「赤司くん…うちの中で笑ってはいけないやったらずっとお尻が痛くなるだろうね」
「そんな気がする。この家の中では開催されないことを祈るしかないな」
「やらないよ」
「ああ、やらない。来年もたくさん笑っていられる年にしよう」

 さらりと赤司くんの口から発せられた、「来年も」という言葉。その言葉の響きに、ちょっと照れるような気持ちになって、赤司くんの顔を見た。そんな視線を知ってか知らずか、赤司くんはお行儀よく両手を合わせて「いただきます」と唱えたので、私も慌てて真似をする。神社でお賽銭を投げた後みたいに、両手を合わせて、頭を少し下げて、それからこっそり目を瞑って願った。来年も、いい年になりますように。来年も、赤司くんと平和に過ごせますように。…なんて、これは年が明けてから神社に行って「良い年になりますように!」って願ったほうがいいか。目を開けたとき、神様でもないしお賽銭ももらってないのに勝手にそんなお願い事をされて、お蕎麦が迷惑がっているようにすら見えた。ごめんなさい。いただきます。

「…これ小さい頃、年越し蕎麦だから年を跨ぐ時に食べてないといけない!年明ける前に食べ終わっちゃまずい!って思ってすごくゆっくりゆっくり食べてたんだけどさ」
「…、………食べてる時に笑わせるのはやめてくれ」
「えっごめんそんなつもりじゃなくて…あっ七味!向こうから持ってくるの忘れた!」
「俺は持ってきてあげられないよ。こたつは一度入ったら出られないものらしいから」
「えぇ…いじわるだ…

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