「こういうのって毎年やってるのかな。毎年毎年やってたらネタ切れになったりしな…あっ!でもケーキ去年と全然違う!あのチョコのやつ去年は無かったよね!?」
「そうだね。みたいに去年との違いに気付いて毎年新しい反応で楽しんでくれる客がいるなら、運営側も毎年やろうという気になるだろう」
「そんな経営者みたいに冷静に分析されるとこのテンションの行き場に困ってしまう…!」
去年のバレンタイン良かったよね、良い思い出だった…みたいな話をしたときに、今年も同じ時期にやるみたいだよあのビュッフェ、行きたい?という流れで、今年も来てしまった。去年と変わらずスイーツ好きの女の子を幸せ殺しそうな光景が広がっている。さすがはバレンタイン、チョコレートの美味しい季節だし、それにイチゴもおいしい季節だし、いやスイーツは本当年中無休でおいしいものだ。あれと、これと、あれもこれも!と自分の皿へ着飾った可愛いケーキたちをさらっていく乱暴者みたいな私のすぐ傍を歩く赤司くん。私とは違い、静かにケーキたちをじっくり観察し、自分好みの「これ!」と決めた姫だけを自分の皿に引き寄せる。貴族の坊ちゃんみたいだ…王子だ…王子と乱暴者ってなんだその組み合わせ…。そんなバカみたいな寸劇が脳内で繰り広げられていることを赤司くんにぽろっと話しても、変な目で見るどころか赤司くんは感心するように頷いた。
「の例えは面白いな。着飾った姫みたい、か。見た目が華やかなケーキを多くの女性が好む心理が少し分かった気がするよ」
「えっ面白い例えってそっち?あっいやお姫様よりよく宝石とかに例えられることも…あの…そんな冷静に分析されると本当…行き場に困ってしまう…」
「は…」
「えっ?うん?」
「いや、…もそうなのかな、と」
「あ、うん。甘いもの好きだね」
「それはもちろん分かっているけれど、そうでなく」
「ケーキの見た目が大事かってこと?うーん…私は…いうほどこだわりないし…インスタ映えとかインスタやってないからよく分かんないし…あ、でもおいしそうなもの写真撮りたくなっちゃうのは分かるなぁ。…あれ?それとももっと突き詰めて、お姫様願望的なものがあるかどうかってこと?そりゃまあキラキラ可愛いものは可愛い~ってなるし、赤司くんのこと王子様とかお貴族様っぽいって例えちゃう時点でその傾向はあるのかも?」
相槌も挟まずじっと聞かれたので、とりあえずそこまで喋り通す。しゃべり終わって、改めて赤司くんの反応を待つ。赤司くんは…たまにこうやって、じ、っと考えるように黙り込んで、一言「そうか」だけ言ってくることがある。今回もそうだった。私のとっ散らかした回答の何を頭の中で参考にして何を考えているのか、あまり分からせてくれない。
「…あ、逆に聞きたいんだけど、男の人はテンション上がらないの?女の子だけ?可愛いケーキ見てはしゃぐのって」
「ん?ああ…どうだろうな、一般的にどうかは分からないが…俺は、食べ物に対して『可愛い』と感想を抱く心理自体が、の言葉を聞くまであまり理解は出来なかったな。多くの女性がそう思うもの、という認識はあっても」
「そっかー。やっぱりじゃあ、赤司王子のお眼鏡にかなったそのケーキ様たちはラッキーだね…」
赤司くんのお皿にのったいくつかのケーキたちを眺める。そして自分の皿の上のよりどりみどりなケーキたちを眺める。選ばれしケーキしかのることのできない赤司くんのお皿に対して私の皿はなんて節操無しなんだ。べつにケーキをそんな目で見てないぞ、というツッコミを入れたそうに赤司くんが苦笑して肩を竦める。
「だってさ、こんなにおいしそうなのがいっぱいあったら目移りしちゃわない?もうぜんっぶ一番かわいいな~って舞い上がっちゃわない?」
かわいい子揃ってるな~みたいな。いや、これじゃただのおじさんだ。ううんさっきからケーキを女の子に見立ててぐへへうへへ語っている私ってすでにおじさんだったかもしれない。気付くのが遅い。自分の持っていたお皿を、ひょいっと軽く自分の顔の高さ近くまで持ち上げて、赤司くんに「ほらこんなに!」っていう意味で見せつける。当然赤司くんの視線はケーキに向かうものだと思ったのに、目が合う。目が合うってことは、そのケーキたちに見向きもせず、私の顔を見ている、ような気がしたってことだ。ん?って少し不思議に思って怪訝な顔をした私に、赤司くんはちいさく控えめに笑った。
「席へ戻ろう、」
「え、あ、うん?」
「…少しキザな台詞を言うとすれば」
「え?」
「俺が一番かわいいと思うお姫様は、もう選んである。だから目移りはしていないし、他に食べるケーキはおまけのようなものだよ」
「……、…え…」
「…」
「どっ…どれ!?赤司くんがそんなに絶賛するケーキなんて絶対おいしいじゃん!私も取ってきていい!?」
赤司くんがふいた。
なんてことだ、一年越しのデジャブ。しかもお皿を持っているせいで両手が塞がっているため、必死に顔を背けて肩を震わせている。これは私が悪い、うん私が悪いなちょっとがっつきすぎたっていうか飛びつきすぎたっていうかはしたなかったですね。「すみませんとりあえず席に戻ろう戻りましょう赤司くん…」とそそくさ話を逸らし、テーブルへ向かう。まだ少し笑い足りなさそうな赤司くんと一緒に。
「ああ…こんなに難しいんだな。君の王子様になるのは」
「えっねえどのケーキに言ってる?めちゃくちゃ気になってしまう」
「…、…分かった、、一回やめよう。
ケーキをお姫様に例えるのはやめよう。また笑いそうだ」