「もうすぐバレンタインじゃん?」
「あ、やばー。そうだったそうだった!」
「えー?ミユは彼氏いるでしょー?忘れんなよ!」
「あたしは先月別れたしー。全然関係ないイベントだなウン」
「お?友チョコするか?ん?」
「ウチ結構お菓子作り好きー」
「うわあ。女子力〜女子力アピール〜」
「せっかくなら誰かにあげたいじゃん?義理チョコ配るかクラスの男子に」
「マメだね〜。絶対勘違いするヤツいるって〜」
「誰が彼女持ちで誰がそうじゃないのかわっかんないけど」
「いや、義理ならべつに彼女持ちにあげてもいんじゃね?さすがにそんな、ねえ?」
「まじか〜。…あ、ねえねえ気になったんだけどさあ、高尾って彼女いんのかな」
「あー!それあたしも気になったー!」
「あはっ…え?高尾!?」

 飲みかけの午後ティーの紙パックを握りつぶしそうになったくらいびっくりした。なんでこの流れで高尾の名前出てきた!?って耳を疑う。現在は昼休み。慌てて教室内に高尾の姿が無いか見回したけど、いないらしい。その代わり、教室の隅っこで友達とご飯食べてる“あの子”の姿が目に留まった。大人しそうな女子グループ。あたしらみたいに教卓を荷物置きにして弁当広げてぎゃあぎゃあ喋るタイプじゃない。当然ながらこっちの会話は聞こえていないし、べつにその子の名前が会話の中で挙がったわけじゃない。けどなんとなく自分の中で、その子の名前と高尾の名前はセット売りみたいな感じになっている。最近。だからちょっと、なんとなーく、目に留まる。すぐにハッとして、視線をマキたちの方に戻したけど。

「え?なに?なんで高尾?」
「え、駄目?あたし結構あの顔好き」
「バスケだしねー」
「緑間も背ぇでかくていいよねー」
「バスケだしねー」
「いやバスケ関係なくない?」
「えーウチはサッカー派〜」
「サッカー部はさあ、やっぱ宮崎先輩じゃん?」
「あ!先輩彼女と別れたって聞いた!?」
「マジか!!」
「じゃなくて待って待ってマジで高尾〜!?」
「おっまえ声デカイっつの〜」
「あいつ結構気が利いてイイヤツじゃん」
「あー、ノリ良いしね〜」
「でしょー?ウチのクラスだったらやっぱ高尾がポイント高くない?」
「わかるー」
「なんかさらっとフツーにチョコ渡せる感じあるしね」
「超義理だけどみたいな」
「いや、でもさあ、あたし結構マジで高尾いいなって思ってる」
「えっマジで?いいじゃん!義理と見せかけて義理じゃないの渡そ?」
「ミユは駄目だぞー彼氏にだけだぞー」
「っていうか高尾と一番仲良いのアンタじゃん!」

 隣にいたちーちゃんに軽く背中を叩かれて「あたしがあ?」ってあまり乗り気じゃない声を上げる。確かに席は近いし?バスケ部で、ノリ良い。確かにイイヤツ。誰にでも普通に話してるし、よく笑ってる。一歩間違えれば変人な緑間の面倒も見てるっぽいし?とか言ったら多分あたしが緑間にキレられるんだろーけど。「あんた仲良いじゃん」って周囲に言われる程度には、まあ、交流のある相手だ。ツムツムのハートとか送ってくれるし。けどなんか、こう、意外だ。いやアイツが男子とも女子ともそれなりに馬鹿やって絡んで仲良いのは知ってるけど?自分の周りで高尾が人気って印象はなかった。アンタはどうなの、好きなんじゃないの、みたいな振りをされると、照れ隠しでもなんでもなく、い〜やぜんぜん!って感じだ。

「えー?どーよ、アイツ彼女いるとか言ってた?」
「彼女〜?高尾にぃ?いないいない、絶対いなーい」
「まじー?マキちょっとチャンスじゃん?」
「うはっ、じゃあやっぱチョコ作った方がいいと思う?」
「ちょ、ちょっと待ってマキ!!」
「え!?なに!?」

 がしっとマキの肩を掴んで、真剣に見つめる。マキとあたしの仲だ。できることなら?本気で高尾狙ってるなら?まあ応援したいっちゃ応援したいんだけど、でもやっぱり、なんかこう、モヤッとしたまま?どっちつかずでどっちも応援するとかあたしの性格上無理だ。まだこうガチでのめり込んでる感じじゃなくて、軽いノリで言ってるから、傷つかない内にばっさり言ってしまったほうがいい気がする。

「高尾、たぶん好きな子いると思う」


*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**



「む、向井さん…?私何かしちゃったかな…」

 椅子に反対に座りながら、後ろの席のチャンの顔をじぃっと見つめる。居心地悪そうに視線を泳がせたり俯いたりするチャンを、さらにじぃーっと見つめる。うんやっぱりマキとは全然タイプが違う女子なんだよなー。あたしとも勿論違うけど。高尾の好みがこういう子だったとしたら、やっぱマキには望み薄いよねー。しみじみ思っていたら、もうそろそろ限界だとでも言うようにちゃんが真っ赤になって俯いてぷるぷるしだしたので、慌てて顔の前で手をぶんぶん振った。

「あーごめんごめん!なんでもない!ちゃん今日も元気かなーって」
「? そ、そう?うん?元気だけど…」

 なんで見られていたのか疑問が残りつつもちょっとほっとしたように表情を和らげるちゃん。隣の席の高尾はまだ戻ってこないので、あたしは好きにしゃべり放題だ。(隣にいたら余計なこと絶対言うなよオーラ出してくるから)先ほどのマキたち友人との会話を思い返して、うーん、と腕を組んで唸る。その様子も、ちゃんはちょっと心配そうに見てくる。

チャンはさ」
「うん…?」
「バレンタインに誰かにあげたりしないの?」
「…えっ!?ぅえーっと…」

 唐突な話題に、ちゃんが微妙に焦ってアワアワする。さっきの昼休み、結局あのあとマキたちに「え、まじ!?誰!?なに本人から訊いたの!?」って質問攻めに遭ったけど、さすがにちゃんの名前は出せなかった。そこは死守した。でもマキが高尾のこと諦めてなかったらチョコ渡したり告ったりなんてイベントになるかもしれないし?そうじゃなくてもなんかあのノリだと高尾に義理チョコいっぱい来そうだし?なんかこう、そわっとするわけよ。高尾とチャン応援大使としては?この二人に何も無いなんて面白くないっていうか?

「小中学生の時は友達と集まって作って交換っこすることもあったけど…」
「へー!男子には?」
「えっ!?…う、ううん、あげたことない…あっお父さんとおじいちゃんにあげたことはあるよ!」
「いやそこはノーカンだから」
「…ですよね…」
「えーじゃあ今年!今年は!作る予定ないの!?」
「う…うーん…」
「高尾にあげるとか!」

 ストレートに名前を出してみたら、チャンが大袈裟に驚いて顔真っ赤にして「ええ!?」って言った。悲鳴レベル。すぐに口を押さえて小さく縮こまったけど。

「な、なんで高尾くん…!?」
「え?あー…仲良いじゃん?一番身近な男子でしょーチャンにとって!」
「え、え、え」
「席も近いし!喋るじゃん!?高尾の他にチャンそんな喋る男子いなくない?ね?」
「そ…それはそうかもしれないけど…」
「高尾絶対喜ぶと思うな〜超喜ぶと思う〜!」

 まあ実際、付き合ってもいない相手にバレンタインあげるとか、このテの女の子にはハードル高いかもしれないけど。そこらへんの男子だってサン…いやまあチャンに、チョコちょうだいよ〜義理でもいいから〜とか言わないだろうし、言っても軽い気持ちだろうし?あげたとしたらめちゃくちゃ周りがひやかすだろうし?高尾自分から言ってないのかなチャンに。義理でいいからちょうだいとか。さすがに言わないか。そういうとこ、なんか微妙にこう、普通だ。真面目だ。チャラくない。普段のノリとしては軽いのに。

「え、っと…向井さんは、あげるの?」
「あたし?」
「高尾くんに」
「え?なんで?」
「え?え…高尾くんと、仲良い…」
「あたしがぁ?てかそういう仲良いじゃないっていうかぁ」
「わ、わたしもそういう仲良しじゃないような…?」
「えっ」
「え…」

 言われてみれば確かに。なんで付き合ってるわけでもないのにチョコあげるの?って訊かれたら、だって仲良しでしょって言ったけど、「じゃあ向井さんも高尾くんと仲良しだからあげるっていうこと?」っていう話の流れに、まあ、うん、なるっちゃなるわ…。「向井さんがあげないなら私もあげなくていいのでは…?」ってなるわ。うん。え、困った。

「あー…あたしはほら、高尾以外にも喋る男子いるし!高尾が一番仲良いわけじゃないから!」
「はあ…なるほど…?」
「ね!今まで男子にあげたことないならさ!今年はちょっとこう、高尾でお試しみたいな!初挑戦みたいな!」
「え…えぇ…!?」
「……」
「…」
「あーーー分かった!!」
「な、なんでしょう…」
「あたしぃ、チャンと友チョコ交換したいな〜!」
「えっ…?」
「ね、あげっこしない?交換っこしない?んでさ〜そのついでに?ほんとめちゃくちゃついでに?高尾にもあげよっかなー」
「うん…?」
「だからチャンもさー、ほら、ついでに?高尾にあげてみたりとか?どう?」

 どう?って何がどうなんだよ?って感じ。自分でもめちゃくちゃすぎて何を言ってんだかって感じなんだけど、ぽかーんと聞いていたチャンは数秒黙りこんだ後、表情をみるみる明るくして、嬉しいんだか緊張なんだか照れ臭いんだか、「うんっ!」とこくこく頷いた。そしてちょっと前のめりになって、「向井さんっ、好きなお菓子とかありますか!」って訊いてくる。そんなノリノリになってくれると思ってなかったからびっくりして返事が遅れる。するとはっとしてサンが身を引いた。恥ずかしそうに視線を下げる。

「ご、ごめん…!今の冗談とかだった!?すみません勝手に、嬉しくなって…」
「…さん…」

 正直自分の周りにはいないタイプだ。高尾とかの前で「は〜?あたしとチャンの方が仲良いし〜」とか言うこともあるけど、それでも、一緒にご飯食べたり、遊びに行ったりするような「友達」とは違う。なんとなく最近ちゃん付けで呼んでみて絡んだりしてるけど、元々あたしの中でだって、高尾が以前言っていたのと同じ、「なんか呼び捨てにできない」「自分とはタイプが違う」、そういう存在だ。「サン」だ。あたしの中でだって。

チャンってさあ、あたしみたいなタイプうるさくて苦手なのかなーって思ってたんだけど」

 ぽつりと呟いた言葉は独り言に近かった。だけどそれに慌ててチャンが何か言おうとして、でもあたしはそれを手で「ストップ!」って止める。心配そうにおろおろしたチャンに、にいっと笑った。

チャンのチョコめちゃくちゃ楽しみ〜!!高尾に食わせんのもったいなくなってきた!」




*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**



「うえ〜いバレンタイン〜!」
「あれっ?アンタが作ってきてるとか意外!」
「はいはいあたしもあたしが意外〜。はい、マキ。ミユ。ちーちゃんにもハイ」

 まあお菓子作りなんてそんな頻繁にはしないけど、べつにヘタってわけじゃない。うん。味見したら全然、イイ出来だったし。ついついいっぱい作っちゃったし。友達に順番に渡していくと、マキ達からも「じゃああたしからも」ってチョコを貰った。ラッピングの袋かわいい。いやあたしも可愛いの選んだけど。百均だけどね!今食べようかなー昼休みに食べようかなーって悩んでたら、教室のドアが開いて高尾が入ってきた。入口付近で雑談してたあたしらは、思わずそっちを見たので、目が合う。

「おはよー高尾ー」
「おお。はよー…ってお前ら入り口前でたむろってんなよー。入ってくる奴がビビるっつの」
「えー?高尾にいいものあげようと思って待ち伏せしてたんですけどー」
「そーだそーだ!」
「いいもの?」

 じゃーん!とマキがチョコレートを見せて、一瞬きょとんとした高尾がすぐに「おおー!」と声を上げる。「マジ?何、俺貰っちゃっていーんすか」なんて明るくけたけた笑った。予想通りっちゃ予想通りの反応だ。見るとマキ以外にちーちゃんもチョコ用意してたから、うわやっぱりコイツ義理チョコめっちゃ貰うタイプ…って思いつつ、あたしも渡そうかなーって取り出しかけたところで、はっとして引っ込める。高尾はマキたちに礼を言うと、チョコを受け取って自分の席に向かった。ミユが首を傾げて、「あれ?アンタは高尾にないんだ?」って小声で訊いてきたから、「あたしのは後でいいや」って言った。それが耳に入ったらしいマキ達が顔を見合わせる。

「…うわっごめん!マキまじで義理じゃないやつだった?あたしだけ一緒に渡さないで当て付けに抜け駆けしようとかしてないんだよ?あたしのはマジでついでのついでの義理チョコ!たださあ、あたしの…」
「あーいいのいいの!あいつ好きな子いるんでしょ?全然諦めつくってゆーか、好きになるかも〜くらいのノリで話してただけだし?今のも義理チョコ義理チョコ!」
「あ、まじか〜。ちょっと安心〜!」
「ってゆーか、ねえ?」
「ね〜」
「え、なにみんな」
「高尾の好きな子、わかっちゃったわ〜」
「え!」

 え、うそあたしべつに周囲にばらしてないよ!?いやあたしが見て分かるくらいだしみんなも二人のやり取りみて気づいちゃったわけ?あたしだけで孤独に応援する必要なくなって寂しいような嬉しいような?いやうんでもそっかー、よくない?みんな応援したくならない?ってわくわくしながら聞こうとしたらマキがふっと笑ってあたしの肩に手を置いた。

「お似合いだと思うよ」
「ね〜お似…え?……ん?……あたし?」



*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**



「向井〜。なんだよさっきの大爆笑!超びびったわ!お前笑い声デカすぎだしうひゃひゃうひゃひゃ怖すぎなんだよ!」
「うひゃひゃ!い〜やだって超ウケたんだも〜ん!みんなして!アンタも絶対笑うから!同じこと言われたら!」
「あー、そ?そんなおもしれーこと言われたわけ?」
「そーでーす!あ、緑間は?まだ来てないの?」
「真ちゃん?」
「なんかぁ、マキは緑間にもチョコあるって」
「お。いいねえ、あげたげてー。さすがに喜ぶっしょー、アイツでも」
「まじー?なぁんか緑間ってー、『要らないのだよそんなもの』とか言いそーじゃん?」
「ぶは!まあ向井のなら有り得るわ〜」
「超失礼じゃない?」
「ま、『うるせえ受け取れ!』ぐらいのノリで投げつければいいんじゃね?」
「ふーん。てか高尾はどうなの?」
「何が」
「うれしーの?義理チョコ」

 言われて、机の脇のエナメルバッグに突っ込まれたいくつかのチョコを高尾が見下ろす。視線をこっちに戻した時にはへらりと笑って、「そりゃ嬉しーっすよ」と答えた。「やっぱ男としてそわそわするもんなの。もらった数ゼロとか超さみしーっしょ」なんてわざと大袈裟に肩を竦める。

「あいつらのいかにも義理!って感じの渡し方でも、結構浮かれたし?俺」
「義理じゃないの混ざってたらどうすんの?」
「…え」

 今回はマキが「べつにそこまでじゃなかったし」って言って引いたけど、もしかしたら、そういうことだってあるかもだ。照れ隠しに、義理だもんっ!みたいな芝居打っておいて、そこに義理以上の気持ちをこめる女子だっているかもしんない。そういうのに高尾がどういう反応をするのか、あたしはあんまり想像が付かなかった。高尾はあたしの言葉に、「え」の顔のまま固まっていた。そんなこと考えたことなかった、みたいな反応だ。義理チョコ渡しやすい男子ナンバーワンの当人も、義理チョコに慣れてしまっているらしい。なんですぐ「そりゃ嬉しーっすよ」ってさっきと同じように答えないんだろう?まあなんとなく答えに察しがつくようなつかないような。あたしはにやりと笑って、仕方ないので話を変えてあげた。

「ていうかさー、チャンには言ってないの?チョコちょーだいって」
「…はあ?言ってねーし、言わねーっつの」
「なんでなんでー?さらーっと言っちゃえばいいじゃん。お願いします!義理でもいいですサンのチョコが欲しいです!って」
「どこがサラッとなんだよそれ!超必死じゃねーか!」

 まあ心配すんなよ高尾…あたしからチャンに、高尾へあげるよう根回ししといたわけだからさ!っていうのはまだ内緒だ。サプラーイズだ。はやく真っ赤になって高尾にチョコを渡すチャンと、それに驚きながらも嬉しいのを隠せてない感じで受け取る高尾の図が見たい。想像してにやにやしてたら、高尾が頭の後ろをがしがし掻きながら「つーかさあ」って話を続けた。

「事前にくれくれっつって貰ったチョコじゃ、義理確定じゃん。『義理じゃないかも…』っつー期待が1ミリも出来ないっつーか…」
「……」
「…なんだよ」
「やばーい」
「何が」
「超やばーい」
「何がヤバイんだっつーの!」

 真顔で「やばーい」しか言わなくなったあたしに、高尾が微妙に恥ずかしそうにきゃんきゃん吠えてくる。それが面白くて真顔を維持できなくてブハッて吹き出した。

「まだ義理なんじゃない?さすがに?」
「…はいはい、貰えるとも思ってねーですよー」
「いや、貰えるとは思うけど。義理ね」
「…なん」
「あ、でもチャンのことだから緑間の分もあるかもなー」

 は?って顔して高尾が何か言いかけたら、ちょうど教室の入口に緑間がやってきた。背がめちゃくちゃ高いからすぐ分かる。ふと誰かに呼ばれたみたいで、緑間がちょっと横にずれて、振り返る。そこにいたのはチャンだ。あたしは視線を高尾に移す。高尾も一緒になって教室の入口を見ていた。

「あれ。チャンのチョコ、高尾より先に緑間がゲットしちゃうんじゃない?」
「…、……あっれー!真ちゃん遅かったじゃん!サンもおはよ!」

 がたっと椅子から立ち上がった高尾が、不自然にちょっとデカめの声で二人の元へ近寄っていく。その様子を見送って、あたしは本日二度目の大爆笑。さりげなく視線をこっちに向けた高尾が、「後で覚えとけよ」って言いたげに睨む。いやほんと、バレンタインデーの男子っていうのは大変らしい。女子が大変なイベントだと思ってたけど、もしかしたら男子のほうが大変なのかもしんない。

「周りの女子からは義理でも嬉しいみたいなこと言っといて、やっぱさんからは義理じゃ嫌なんだね〜」

 独り言呟いてから、あたしもにんまり笑って立ち上がった。用意していたチョコレート持って、駆け寄って行く。これは、友チョコ。チャンに。あたしが一番張り切って作った。あとはまあ、おまけに作った義理チョコを高尾に渡そう。緑間にもついでにあげるか仕方ない!駆け寄ってきたあたしに、高尾は肩を竦めて、チャンは笑顔を向ける。(なんか、唐突に思っちゃった。あたし、高尾のこと好きじゃなくてよかったあ)



サイドストーリーに恋して
(だってもしそうだったらあいつに渡すこのチョコがひどく虚しかったし、あの子に渡すことができなかっただろうし!