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い と け な く と も 「ってが熱烈ラブコール送ってますけど、ほんとのところどうなんです?リコさんは」 「え?もっちろん、私のハニーはに決まってますけど?」 「きゃー!ダーリン愛してるー!」 「きゃはは!こいつらマジだよ〜やばいウケるーっ」 リコは私がどれだけしつこくべたべたしたって、嫌な顔ひとつしなかった。それどころか、「私もが大好きよー!」ってぎゅうっと抱きしめてくれる。頭を撫でてくれる。こうやってガールズトークの中でも、私に付き合ってくれる。他の友だちはそんな私達をおもしろがったり、呆れたり、笑ったりするけど。だけど私は、リコに貰える「好き」が嬉しくて、幸せで、それだけで他になんにもいらなかった。リコがいれば、他になんにも要らないのだ。男の子にときめいたりなんかしなかった。だって私が「かっこいい!」と思うことは大抵リコがやってくれる。リコの腕が、腰が、どんなに細くても、たくましくなくても、私はどんな男の子より頼もしく見える。痩せた胸に詰まっている優しさも強さも私が誰より知っているのだ。「かっこいい」の基準も「好き」の基準も、全部全部、リコだ。私にはリコが全てだ。 「とか言いつつさあ、マジな話、実はも好きな人くらいいるんでしょ」 「この前隣のクラスの男子がのこといいなって言ってたよ〜」 「あ、それあたしも聞いた」 「やだよー、リコ以外の人好きになる気ないし」 「えーもったいない」 「いやいや、でも私と幼稚園からの付き合いじゃない?本当、一度も恋愛相談とかされたことないわ」 「うわあ、リコが言うならマジだね。恋したことないのかぁ」 「だってぇにとってはぁリコが王子様だしぃ、リコよりかっこいい男の子じゃないとときめかないって感じぃ?」 わざとそんなふざけた様子で返したら、その場にいたみんながけらけら笑い出す。口調こそふざけていても、嘘なんか一つもない。事実、この十数年間、リコよりかっこいい人に出会わなかったから、私の王子様があの日からリコのままなんだ。リコ以外にときめくことができなくなった。私は隣に座るリコを見る。その視線に気づいたリコがこちらを見つめ返すので、私は上機嫌にえへへと笑う。 「じゃあさ、リコは?バスケ部の中に彼氏いるんじゃないの?」 ぴくりと私の笑顔が引きつる。友人の言葉に、はっとリコは私から視線を逸らし、その子のほうを向いた。「ち、違う違う!も〜みんなすぐそっちに結びつけるんだから!」と手をぶんぶん振って否定する。私は目が合わなくなっても、未だに食い入るようにリコのほうを見ていた。横顔。ああ、焦ってる、リコ。困ってる、リコ。私との仲を疑われても、そんな表情は見せないのに。少し前までは、「いやいやホントそういうんじゃないし、部員みんな平等に普通に好きだけど」ってきっぱり、落ち着いて、言うだけだったのに。今は、違う。「その否定の仕方、あやしいぞー」とみんながリコににやにや笑う。私は一度、しゅんと視線を落として、それから顔を上げて、リコ、と呼ぼうと口を開いた時、それより先にリコがぐいっと私の肩に腕を回した。 「だーからー、言ってるでしょ?私には可愛い可愛い恋人がすでにいるんだってば!ねぇ?」 私を「こいつ俺の彼女」と紹介するみたいに、肩に回した腕に力が入る。私は一瞬、錯覚してしまう。誰も私の「リコが好き」を本気にしないけど私の言葉に嘘がないように、リコも本当はわざとふざけたふりをしているだけで、実際、私と同じ気持ちなんじゃないかって、そんな夢を見てしまう。私が本気で好きです付き合ってくださいと言ったら、リコはちょっと驚いた顔して、私も同じ気持ちだよって言ってくれるんじゃないかって。悲しそうな顔も、軽蔑したような顔もしないで、笑ってくれるんじゃないかって。 けど、違うんだね。「おーい、リコ!」「あ、ごめんちょっと席外すわ。なあーに、鉄平!」 私の肩に回してあった腕はするりと離れていって、リコは声のしたほうへ駆けていく。声が、弾んでいた。私はとたんに、要らない子になって、ぽいと突き放されたような気分になって、泣きそうになる。周囲の友達は、リコの行く先を目で追い、にやにやと笑う。「てっぺー!だって!」「やっぱりリコって木吉くんなのかなあ」「日向くんじゃないんだねー」「けどお似合いだよね」私はぎゅうっとしわになるまでスカートの端を握った。そんなことない。お似合いなんかじゃない。必死に頭の中で否定する。ああ、泣きそう。じわじわと視界が歪んでくる。必死にこらえたけど、どう頑張ったって笑顔はつくれない。 「あはは!やばいじゃん!ライバルだね〜、木吉くん!」 とん、と腕を小突かれる。口元がひくつく。うるさいな、うるさい、なんにも知らないくせに。ライバルなんかじゃない。だって、私はどう頑張ったって、木吉くんと同じ土俵になんて立てない。男の子としてなんか見てくれない。男の子になんかなれない。でも私だってべつに、王子様だとは思っているけれどリコを男の子としてなんか見ていない。それでも、「そういうふうに」見ている。恋愛感情の対象に。「手強そうだわー」「勝ち目なさげだぞ〜」うるさい、うるさいな。私は女の子のリコが好きだけれど、リコ以外の女の子を好きになるつもりなんかないし、女の子が女の子をそういう目で見ることはおかしいって知ってる。だってリコ以外の女の子に恋するなんてありえないから、一般人のそういう偏見の気持ちも理解できた。だけど、リコは、違う。リコのことだけは、違う。 「うそつき、リコのうそつき」 誰にも聞こえないくらいの、小さな声で、呟く。私は嬉しかったのに。「リコがいるから恋人なんかいらない」って言った私の言葉に嘘はないのに、リコの「がいるから」は、周りの面倒な詮索を誤魔化すための都合のいい隠れ蓑でしかないの?そういうふうに利用したいだけ、なの。私は唇を噛んで、涙を溜めた目で、リコの背中を見つめた。その背中の向こう側に、木吉くんがいた。木吉くんがリコ越しに私を見る。目があった。何故だか彼は、にっこりと微笑むんだ。いつも、いつも。彼にとっては挨拶代わりの微笑みなんだろうけど、とたんになんだか自慢されているような、敗北感を味わって、いつもいつも、わたしは、わたしは。 思い切り顔をそらす。視界の端に、眉を下げた木吉くんが映る。木吉くんの視線を追って、リコが私のほうを振り返った気がした。見ないで、リコ。見ないで。どうして、恋をしているのは私も一緒なのに、どうして、私だけこんなに汚い気持ちしか持っていないの? 戀 の花 |