ちゃんが部屋のゴミ箱を漁っていた。ぐしゃぐしゃになったプリントや、お菓子の袋や、丸まったティッシュなどがあたりの床に散らかる。彼女はゴミ箱に頭を突っ込む勢いで、がさがさ、ごそごそ、漁っていた。たちの悪いストーカーは相手のゴミを漁るというけれど、目の前の彼女もそんな感じで何か探している風だった。一心不乱にゴミを漁っている。

「『ちゃん。何してるの?ここは君の部屋だから、その箱に君の意中の人のゴミなんて入ってないと思うけど』」
「無いの」
「『あ、探しもの?何がないの』」
「すごく大事なもの」
「『なにそれ』」
「分かんない」
「『なるほど。僕も一緒に探すよ』」

床にぺたりと膝をついて、彼女の隣からゴミ箱を覗く。もともとそんなに大きい箱ではないので、ほとんどの中身はあたりの床に散らばっている。完全に空っぽになると、ちゃんは一度呆然とその箱の底を見つめ、次に自分の周りにあるゴミをひとつずつ手に取る。ぐしゃぐしゃのプリントを一度開いて、中の文字を見て、「これじゃない」と放る。僕の顔に見事にヒットした。その間にもちゃんは次にお菓子の袋を手に取り、書かれた商品名をじっと見つめ、その直後「これじゃない!」と後ろへ投げた。僕も真似て、近くにあったくしゃくしゃの紙を開いてみる。うさぎの落書きが書かれているだけだった。「『これでもなさそうだ』」僕はポイと後ろへ投げた。今のが彼女の探しものだったらどうしよう。まあいいや。何だか分からない何かを探すのって難しいな。

「『ねえちゃん。大事なものだったら、ゴミ箱じゃなくってもっと別のところに大事にしまってあるものなんじゃない?』」

僕が言うと、ちゃんはピタリと動きを止めた。僕は振り返って彼女の顔を見る。ぱちくり。お互いにまばたきを一つ。次の瞬間、じわりと彼女の瞳が潤む。たっぷりと水分を含んだその瞳からぽたりと雫が落ちたとき、彼女はわっと声を上げた。「大事なものだったはずなのに、捨ててしまったの!」ヒステリックなその叫びに、僕はもう一度まばたきをする。

「『それはたしかに大変だけれど』」
「分からない、わからないけれど、捨ててしまった気がするの。すごく大事だったはずなのに」
「『でも何を捨てたか分からないんだよね?本当に捨てたかどうかも。』」
「分からないの、何が大事だったのか。わからないから、きっと捨ててしまったんだと思うの」

可笑しな話だ。何かを失くした気がする、とても大事なものだった気がする、とても大事なものを捨ててしまった気がする、どうしよう!?勝手にそうパニックになっているちゃんを、僕は眺める。どうしよう、どうしよう、と死にそうな顔で泣きじゃくる彼女は、誰がどう見ても頭のおかしいかわいそうな女の子だ。全部思い込みだ。きっと彼女は何もなくしてなんかいないんだろう。そう思い込んだだけで。あるいは、とても大事なものを失くしたけれど、たぶんそれはもう二度と戻ってこない何かなんだろう。取り戻せるはずのないものなんだろう。

「『ちゃん。君はなんにも無くしてなんかないと思うよ』」
「うそ。だって、無いんだもの」
「『何が』」
「大事なものが」
「『どんなものなの』」
「分からない」
「『分からないなら、大事なものなんかじゃなかったのさ』」
「私には大事なものが、無いの?ひとつも?」
「『うん、無い。よかったね!最初から無いから、なくさずに済むよ!』」

笑顔で言ってあげたのに、ちゃんは空っぽのゴミ箱で僕の頭を思い切りぶん殴った。その細い腕からは想像もつかないくらい強い力で。一瞬お星様が見えた。それから、彼女はわんわん泣く。声をあげて泣く。僕はその様子を眺めた。彼女は何を失くしたんだろう。確かに大事なものが欠けている気がした けど、それがなんだったのか僕にもよく分からない。
前略、返してください