「アリサちゃんアリサちゃん」

 私には幼なじみがいる。昔から私にくっついてきて、何をするにも一緒だった。なんでも私に合わせる。私とおそろいにする。委員会もクラブも一緒にやったし、修学旅行や遠足は絶対同じ班。アリサちゃんアリサちゃんってべたべたしてきて、アリサちゃん大好きって人前でも平気で言ってくる。だけどどんなに一緒にいたって、どんなにおそろいにしたって、私たちは一つのおんなじ人間ではないんだし、同じものにはならないのだ。お揃いの髪留めをつけたところで、私たちはまるで違った。は綺麗な黒髪ストレート。べたべた年下の子供みたいに甘えてくるくせに私より身長も高い。スタイルもいい。肌も綺麗。顔も可愛い。お揃いの髪留めをしてお揃いの服を着てお揃いの小物を持った所で、私との「違い」は顕著になるだけ。近づこうとした距離は、余計に離れるばかりだ。一緒にいるから、おそろいだから、余計に比べられる。一緒にしようとするから、一緒になんかなれやしない。それにはいつも気付いてくれない。
 劣等感を感じるのは私の方ばかり。

「アリサちゃん、アリサちゃんってば」
「うるっさい!!今アンタの顔なんか見たくないのよ!!あっち行って!!」

 私の幼なじみは可愛い。馬鹿みたいにモテる。ずっと一緒にいたからなんとなくそれは分かってた。私が「いいな」って思った男の子は、いつも私の隣のをちらちら見ていた。そんなの知ってた。誰にひそひそ言われなくても分かってた。周りが気付いて私が気付かないわけない。気付かない馬鹿なんてくらいだ。は可愛いけど頭の方は足りてない。勉強はいつも私が教えてあげた。でもそんな馬鹿で、オツムの弱いところも男の子からしたら可愛いらしい。打算的な女は、ずる賢くって可愛くないらしい。
 アリサちゃんアリサちゃんうるさかったが私の背後で黙りこんだ。言い過ぎた、なんて思わなかった。だって言い足りなかったからだ。

「どうせアンタだって、計算でやってんでしょ!馬鹿な女演じてるだけでしょ!私の隣にいれば比べられて、自分が可愛く映るから利用してるんでしょ!心の中で笑ってるんでしょ!何が『アリサちゃんとおそろいがいい』よ!『一緒がいい』よ!『アリサちゃん大好きー』よ!ばっかじゃないの!!また私の好きな人がのこと好きだって分かって、内心大爆笑だったでしょうね!!また振られてやんの、って!また私に取られてやんの、って!心のなかでは馬鹿にしてるんでしょ!?なんとかいいなさいよ!!馬鹿!!」

 言い終わる直前に振り返って、唾でも飛ばす勢いで「馬鹿!!」って吐き捨てた。は呆然と私の顔を見ていた。その顔には絶望なのか悲しみなのか、明るい色は全く無かった。けれどそんな悲壮感たっぷりの表情でも、可愛い女は絵になるんだった。これで何度目だろうか。私の片思いの相手の、好きな人が、だったの。咬み合わない矢印。もうだってここまでくると仕組まれてるんじゃないかとすら思う。わざとが彼を誘惑して私から取り上げてるんじゃないかと思う。私を悲しませたくて。私を見下したくて。優越感に浸りたくて。もしそうなら、もう、わかってるんだから、ここらで一つ堂々と言ったらいい。あらアリサちゃん今頃気付いたの馬鹿ね、って悪役みたいに笑えばいい。も私と同じ、打算的でずる賢くって性格悪い女なんだ、って、
 そうであったなら、どんなに、どんなによかったか!

「ちがう…、っく…ちがうよお〜っ!!」
「…」
「そんな、ことっ、おもってないよぉ…思ってないのにぃ…!!」
「……」
「うあああん!!やだよおっ!!アリサちゃんと、友達、って、ずっと、友達がいいぃ!!」
「…」
「うわあああん!!」

 その場にへたりこんで、幼稚園児みたいに人目もはばからず大口開けて大声で、わんわんが泣いた。これも演技だったらいいのに。今に泣き止んで陰でにやりと馬鹿にしたように笑えばいいのに。それをいくら待ったところで、目の前の光景は変わらない。上を向いてわあわあ泣いている彼女の様子は、親鳥から餌を貰うのを待ってる小鳥みたいだった。空から何か降ってくるのを待っているみたいだった。隕石でも降ってくればいいのに。この頭痛しかしない光景を、今すぐ終わらせてくれればいいのに。

「アリサちゃんのこと、好きだもん!!だいすきだもん!!うああん!!」

 悲しいことにのこの大泣きが演技じゃないことが私には分かってしまうし、空から隕石が降ってこないことも分かっているし、自分が本当にそれを望んでいるわけではないということも、私には分かってしまうんだった。

「アリサちゃんは、アリサちゃんはっ…私のこと、嫌い、なのぉ…?」
「……きらいじゃないわよ」

 ぼそりと吐いた言葉に、ひっくひっく言いながら泣いてたは私の顔を見て、涙でぐちゃぐちゃな顔をもっとぐちゃぐちゃにして、「うわあああん!!」って言いながら私の腰に抱きついてきた。もうむしろしがみついてきた。そのまま私が歩き出してもずるずる引きずられながらくっついてきそうなくらい、がっしりと私にしがみついている。顔を押し付けながら、何やら同じ言葉を繰り返していた。よく聞き取ってみると、だいすきだいすきって言ってた。頭痛がした。私を見下すために私の片思いの相手を誑かすことはないとしても、私を男に取られないように相手の矢印が自分に向かうよう仕組む努力は陰でしてそうだなこいつ、と思った。そう思えてしまった自分が嫌になった。

「よかったよお…!!アリサちゃんに嫌われたくないよお〜っ!!」

 強いて言うならのことを嫌いになれない自分のことが大嫌いだ。




捩れた糸の原因