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意外だった。いっつもこどもっぽい面ばかり見せるくせして、なんでもかんでも好き勝手に自分が楽しいことぜんぶやっちゃいそうなめちゃくちゃな男の子なふりして、彼はちっとも欲張りじゃない。見ているこっちが不安になるくらい、ちっとも、欲張りになんかなってやくれない。 「オレ、最後の一個がだったらいいなあっておもうんだよね」 「うん?」 「オレが選べる、最後の一個が。他のぜんぶ諦めて、もうあと一個しか欲しいもん手に入んないって言われたら、オレ、のこと選びたい」 なんの脈絡もなく、なんの飾り気もなく、敬くんが私に言う。布団をかぶって、もうそろそろ瞼を閉じようというくらいになったとき、まるで寝言みたいに、たまにこうやって話し出す。もぞもぞ首を動かして、敬くんのほうを見るけど、ぼんやりと天井に向けられた瞳と、目は合わなかった。 なあに、それ。どういう意味?素直にそう聞いてもよかったけど、なんとなく、明確な答えなんて返ってこないような気がしてた。敬くんはたまに語ってくれる。「ひとりいっこまで」という、幼い時に育った施設での、決まり事。今の、「伊勢崎敬」が縛られなくてもいいはずの、小さな世界のルール。彼が口にするのを聞くたび、ちょっとせつなくなる。一個じゃなくたっていいはずなのに。君はもう、たくさんのものを両手に抱えて、ぜんぶぜんぶオレの!って、声高らかに宣言したっていいくらいの強い男の子なのに。 「そっか。ありがとう、敬くん。でも、」 最後の一個に私を選ぶのって、なんかもったいなくない?私なんかでよければ、いつでも、あげるのに。自分から、敬くんのものになるのに。――とか、そういう問題じゃないのかな。敬くんは、なんの話してるんだろう。なにを不安におもうんだろう。どんな想像をしてるんだろう。どういう究極の選択の場合?考える。考えたら、嫌だなあ、そんなの、っておもった。どんな場面でつかう究極の選択かはわかんないけど、この先ずっと、絶対、そんな選択を敬くんが強いられることのない世界を願った。ほかのぜんぶを諦める敬くんを、見たくない。もう二度と、なんにも失ってほしくない。このやさしい男の子に。 「でも、でもね、それなら私が敬くんの分、諦めないよ。敬くんがそのとき諦めたもの、全部私が拾って集めて、敬くんにあげる」 それが、敬くんに選んでもらえた私の、精一杯。できること。義務。役目だと思う。「だから、うん、安心して。のこと選んでよかったー、って思ってもらえるようにがんばる」ずいぶんへんてこな会話なのに、敬くんは天井に向けていた顔をこっちに向けて、そうして私の顔をじぃっと見た後、くしゃりと笑う。 「よくばりだなあ、」 腕が伸ばされて、私の髪を撫でて、気付いたらそのままぎゅーっと抱きしめられていた。よくばりでもいいんだよ。私は敬くんに、ずっと、よくばりになってほしかったんだよ。でもそれができないなら、私がかわりによくばりになるから、いいんだ。敬くんが私を選ぶなら、私は敬くんをえらぶよ。君に選んでもらえなかった、君自身を助けたい。なんにも諦めなくていいように。悲しまなくていいように。 「おやすみ、敬くん」 「ん。おやすみ、。いい夢みろよ?」 「うん。私はよくばりだから、夢の中でだって敬くんに会いにいくよ」 「ふはっ!なにそれ、いいな。じゃあ、オレもそうしよ」 月を隠してぼくを泣かせて |