「はあっ、もう!またこの近辺での任務なの!?多くない?なあにここ、心霊スポット?」
「…いや。何年か前に、此処で大規模な災害があったらしい。大勢の死者が出た。それだけ、現世に未練の有る霊が多く出没しているんだろう」
「迷惑な話!人間なんて弱っちくてすぐ死ぬんだから、未練なんて残すなっての!」
「すぐ死ぬからもっと生きたくて未練が残るんじゃないのか」
「しらない!人間の考えなんて!」

 そんな会話をしながら、荒れた地をと並んで歩く。やけには機嫌が悪い。肋角さんにこの任務を任された直後も、少し眉が寄っていた。あまり此処が好きではないらしい。俺も、好きではないが。建物が倒壊していて、草木もあまり育っていない、土も変な色をしている。空気も不味い。生きた人間の気配など微塵も無い。けれど、は人間が嫌いだ。人間の生きているのを感じられないこの地は、にとって好都合では無いのか。どうしてそんなに毛嫌いの対象になるのだろう。

「亡者、出てこないじゃん」
「ああ。俺達に気づいて警戒されたか?もう少し周囲を…」
「私、あんまり探索したくない。斬島、任せる」
「……
「サボりじゃない!でも嫌なの!」

 少し呆れて、じいっと見つめると、はぶんぶんと首を振り、自分の肩を抱きしめた。「なんか嫌いなのよ!ここ!大っ嫌い!」そう言って、肩を抱いたままうずくまる。さすがに心配になった。体調が優れないのか。近寄ろうとすると、はもう一度、「嫌い!」と叫んだ。あまりうるさくすると余計に亡者に警戒される。

「ああもう、確かになんだか人間がたくさん死んだにおいがする!気持ち悪い!帰りたい!」

「なんで人間ってあんなに弱いの!脆いの!そのくせに人生ってやつを楽しんだり苦しんだりわけわかんない!」

 なんでそんなに人間が嫌いなんだ。そう尋ねようと思ったが、きっとこの調子では、弱いからだとか脆いからだとか、そういう答えしか返ってこないだろう。気持ち悪い、というのは、その生き様を理解できなくて気持ち悪い、ということなんだろうか。確かに獄卒と人間は違う。俺は獄卒だ。人間の考えを理解しようとしても完全には理解できない。きっともそうだろう。けれど、どうしてそこまで、理解しようとするのを拒むのだろう。

「人間が怖いのか」

 尋ねたら、うずくまっていたがバッと勢い良く顔を上げた。怒らせたか。こうなっては手がつけられない。いつも佐疫は上手くの話し相手になってやっているが、俺は少し自信がない。立ち上がったがずかずかと大股に俺へ歩み寄ってくる。鼻と鼻が触れ合うくらい顔を近付けて、唾が飛ぶくらい大声では言った。

「怖いわけないじゃない!!!あんなの!!私、獄卒よ!?」
「知っている」
「私、獄卒なのよ!?人間なんかより強いし、死なないのよ!!」
「ああ、知っている」
「そうよ!」
「ああ」
「もう、」
「ああ」
「…戻りたくない…絶対…人間になんて…」

 力なくが俺の服を掴んだ。そうだな、と呟く自分の声は小さい。それでも、まだ生きたくても死んでいった「人間」が、ここには溢れている。どうしてそこまで生者に拘るのか。死を憎むのか。俺達獄卒には分からない。もう、分からなくなった。もともと、獄卒になる前の自分が、生きたいと願っていた存在かは分からないが。けれどきっと目の前の彼女の人生は、あまり、綺麗なものではなかったのだろう。彼女自身がはっきりと覚えているかは定かではない。それでも。俺は彼女の震える手を取って、握った。俺達は獄卒だ。それでも、人間の形をしている。



ヒューマニズムフィンガー