小さいとき、近所に一つ年上の女の子が住んでいた。

彼女は僕を弟のように可愛がった。

僕が笑っても、泣いても、怒っても、「可愛い、可愛い」って、そればっかり。

うまく友達の輪に入れない僕を引っ張って、二人でいろんなところへ遊びに行った。

いろんなことを教えてくれた。いろんな遊びをした。

「怜って、なんだか放っておけないの」って言いながら、一つしか歳は変わらないのに、自分だって子供のくせに、子供扱い。

だけど、新しい発見をくれる小さな「お姉ちゃん」を、僕はきらきらした眼差しで眺めていた。

憧れだった。

なんだって出来て、なんだって教えてくれる彼女は、テレビや本の中の人物よりよっぽど身近なヒーローだった。



――そんなヒーローを舞台から引きずり下ろしたのは、他でもなく「僕」だった。


二人でボール遊びをしていた時のこと。僕の投げたボールが、空き地横の「立入禁止」の札が掛かった工事現場に飛んでいった。日にちが悪いのか、時間帯が悪いのか、いつもは煩く工事の音を立てていたその場所に、大人の姿は一つもなかった。「工事の人が帰ってきたらボールを取ってもらうように頼もう」そう提案した僕に、彼女は首を振った。

「大丈夫。私が怜のボール、取ってきてあげる」

そう自信満々に胸を反らす少女に、幼い僕は少しだけ心配しつつも、「さすが!」と期待のこもった気持ちを向けていた。立入禁止、と書かれた場所に入ってしまうなんて。見つかったら怒られちゃう、なんて心配はしないんだな。ちっとも怖くないんだな。かっこいい。彼女はきらきらした眼差しに見送られ、小さな体を工事現場へ滑り込ませた。

子供にとって、「怒られるか怒られないか」「怖いか怖くないか」それだけが重要だった。
危ないか危なくないか、なんて。そんなの、頭になかった。


がらがら、がしゃん


劈くような大きい音が耳に届いても、最初は何が起こったかなんて分からなかった。



暗転。























「命に別状なくて良かった」「だけどあの背中の傷跡、ずっと消えないだろうって」「女の子なのに可哀想」

真っ白い病室で、真っ白い顔色をしたあの人に、僕は泣きじゃくりながら謝った。

僕のせいだ。僕の投げたボールだった。僕が取りに行けばよかった。僕が引き留めればよかった。

自分がいる場所は病院なんだということも忘れて、僕はわんわん泣いた。

「怜、だいじょうぶだよ。だいじょうぶだから」

小さな声で僕をそう宥める彼女は、僕のよく知る「お姉ちゃん」だった。

だけどその体には、消えない傷が出来てしまった。怖い思いをさせた。これから一生、彼女を苦しめるであろう傷。

僕は涙を拭いながら、言った。


なんでもする。僕にしてほしいことがあったら、なんでも。なんでも言うことを聞く。全部。ずっと。


それを聞いて、彼女は一瞬口を開けてぽかんと僕を見た。だけどすぐ笑った。

きっとあの瞬間から、何かが変わった。