|
最初は、小さなお願いだったんだ。 風邪を引いた時に、親が「何か食べたいものはない?」「してほしいことはない?」って、特別優しくしてくれるみたいな、そんな感覚だった。言ったものをなんでも用意してくれて、してほしいことはなんでもしてくれる。そんな、期間限定で通じるワガママだとおもっていた。だけど、もう大丈夫だと苦笑いしても、怜は涙目になりながら、「他には何かないの」と、私のわがままを聞かなきゃ死んでしまうみたいな悲愴な面持ちで私の腕を掴んだ。ありがとうと微笑んだら、ほっと嬉しそうな表情をするくせに、またすぐ眉を下げる。もっと、もっと何かないの、できることは?もうないよ。いいやあるはず、かんがえて。だいじょうぶだよれいもういいの。よくないよ、よくない、ちゃん。小さな怜が、もっと私にわがままになってほしいと懇願する。もっと自分を追い詰めてほしい、自分を苦しめてほしいって縋り付く。その瞳を見ていると、何故だか今までと違った感情が、ぶくぶくと膨れ上がった。 もっと、ひどいわがままを言ったら、怜はどんな顔するかな。 見たい。 いじめたい。 辱めたい。 そんな感情、しらないのに。怜と視線が合わさったその瞳からじわじわと、得体のしれない化物になっていくような恐怖が襲った。だけどそんな恐怖を、快感にすり替えた。自分は怜におかしくされていく。だけど同時に怜のことを私がおかしくしてしまえばいい。そうしたら、私たち、何もおかしくない。お互いを求め合う素敵な関係になれるかもしれない。――なんて。 それは今の私が抱いているどす黒い感情でしかないのかな。いつからこんなふうになったのかは分からないけど。 あの頃の私が抱いていたのはもっと単純で、明確で、可愛らしいわがままだった。 私のための怜が欲しい。 「ひっ!や、ぁ…ッ!やめ、やめて、くださっ…!」 「どうして?だって怜、手で触るのは汚いから駄目だって言うから」 「だ、から、ッてえ!」 怜はいつも最初嫌がるくせに、私が執拗に頼み込むと、必ず従ってくれる。今日だってそうだった。ズボンと下着脱いでってお願いしたら、顔を真っ赤にして首を横に振った。何考えてるんですか、おかしいですよ、意味分かんないです、いい加減にしてください、へんたい。彼にとっては思いつく限りの罵倒だったんだろうけど、声を震わせながらへんたいと言われたところでこっちの興奮を煽るだけだった。今日は自分で脱げますとは言わなかったから、私が勝手にズボンも下着も剥ぎ取っちゃったけど。この前遊んだ時は射精するギリギリまで追い詰めたらさすがに自分でズボンを脱ぎだしたのだし、やろうと思えばやれる子だ。いつまでも私に脱がせてもらうんじゃなく、そろそろ一度言ったらちゃんと自分で脱ぐようになってほしいなあ。おねえちゃんのおねがい。 「素足じゃないほうがいいのかな。ニーソとかタイツ履いたままの方が興奮する人もいるらしいし。ね、怜はどっちが好き?怜がされたいようにしてあげたいな」 下着を剥ぎ取られたあとの怜は可愛かったなぁ。女の子みたいに、どうにか前を隠そうともじもじして、耳まで真っ赤で。だけど身を捩って隠されちゃったら、しようと思っていた今日の「遊び」が出来ない。ちゃんと仰向けに寝て、足開いて。そう言ったら、やっぱり首を振っていやいやするけど、「怜」って少し冷たい声で名前を呼ぶと、びくって怯えながら、言う通りにする。私は怜の開いた脚の間にあぐらをかくように座る。手を付いて上半身をよろよろと起こした怜と目が合った。履いていたハイソックスを脱いで、床に投げる。「なに、するつもり…ですか」そう尋ねた怜の声が可哀想なくらい弱々しくって、私は今すぐ踏んづけちゃいたい気持ちを抑えながら、そっと自分の足の裏で怜の股の間にあるものに触れた。抗議の声を無視して、両足で挟み込む。擦り合わせるみたいに足裏を撫で付けたら、怜が可愛い声をあげたんだ。 「足の裏で包むみたいに全体擦ったほうが気持ちいい?」 「あッ!う、ぁ、やめ…激し…っ! あっ!あ、ぁッ!」 わざと足の動きを速めたら、口を開けっ放しで怜が喘ぐ。きっとAV女優顔負けの嬌声。こんなに色っぽい声を出せる男の子、他にいないんじゃないかな。怜以外の男の子の喘ぎ声なんて、聞いたこともないし聞こうとも思わないけど。だからやっぱり、私の一番は怜。私しか知らない怜のえっちな声、表情。たまらない。私は男の子じゃないから、あんまり分かってあげられないけれど、足でこうやって擦られたり揉まれたりするのって気持ちいいのかな。痛くはないのかな。(痛くしたらどうなるかな)(もっともっと気持ちよくさせるには、どうすればいいのかな) 「それとも、やっぱり先っぽ弄られる方が気持ちいい?」 「ひ、アっ!だ、めです、さきっぽ、はッあ!」 きゅっとそれを挟んだ足の親指を丸めて、先端に爪を当てる。あ。足の爪そろそろ切ろう。怜に切ってもらおうかな。私に跪いてくれる怜を想像したらなんだかすごくどきどきした。(怜ならきっと、喜んで跪いてくれるんだろうな)怜の性器から溢れた先走りで足先がべたべたしてくる。だけどそのべたべたを塗りつけるように怜のを扱くのが快感だった。あと少しでイクってところで、私は足をひょいと浮かせる。怜はすっかり蕩けた顔で、なんで、と口を動かす。思わず笑いが零れた。もっと足で触ってほしいんだ、もっとされたいんだ、もっと、もっと?私は口元の笑いが隠せないまま、思い切り踵をソレにぐりぐり押し付けた。怜が悲鳴みたいな声を上げて腰を戦慄かせる。 (すきだなあ、たまんないなぁ) 「足でされるの気持ちいいんだ?また今度やってあげるね。あ、擦るより踏まれたほうが興奮する?」 「…はぁ…」 げっそりと疲れきった顔で、怜は私の声に溜息で返事をした。ムッと睨んだけれど、俯き気味の怜とは目が合わない。つまんないなあと口を尖らせたら、ふいに怜が私の足首を掴んだ。そのままくいと引かれて、私の心臓がどくんと音を立てる。もしかして怜、怒った?仕返しされる?そう考えて思わずきゅっと目を閉じた。だけど何も痛いことはされない。足先に何かが押し付けられた感触に目を恐る恐る開くと、怜がティッシュで私の足の裏を拭っていた。複雑そうな顔で。ああもう、そういう表情もかわいいなぁ。 「…足。とりあえずは拭くことしか出来ませんけど、ちゃんとお風呂場で綺麗に洗ってくださいね」 「ふふ…」 「全く…どうして貴女は…。綺麗な足を、あ、あんな…ふうに、汚して…嫌じゃないんですか」 「汚くないもの。怜だから」 「汚いです!何回洗ったって足りないくらいですよ!」 「ええー?」 「…っ、こんなに、綺麗なのに…」 消え入りそうな声で呟いて、優しく、拭い取る。自分が「汚した」から余計に、溢れてくるのかもしれない。羞恥心とか、罪悪感とか。切なげに眉を寄せた怜に、お腹の下あたりがきゅうっと締め付けられる。ああ、自分が女の子で良かったなあ。どんなに怜に欲情したって、男の子と違って目に見える変化は無いから、気付かれないんだ。隠せる。隠そう。隠せなくなったら、また怜を無理やり押し倒して遊んでもらえばいいんだもの。どんなに私が汚い人間でも、酷い人間でも、怜は私の言うことを聞いてくれる。私を綺麗だと言ってくれる。(綺麗なんかじゃないよ、綺麗なんかじゃ) 「くすぐったいよ、怜」 指の一本一本を丹念に拭いていく怜に、小さく呟く。指の間まで念入りに、怜がやさしく、触れる。私の声にそっと顔を上げた怜は、眉を下げて困ったようにすこしだけ微笑んだ。どこでそんな表情おぼえてきたの。私のせいで覚えたんだったら、いいけれど。 「ねえ、怜。足の爪切りたい。切ってほしいな」 甘えるようにそう頼んだら、怜は一度きょとんとした顔をして、それからちょっとだけ照れたように視線を反らす。「爪切り、どこでしたっけ」呟いた声はやっぱり、優しくって、いとおしかった。 (ねえ怜、怜がいけないんだよ。私を嫌いになってくれない怜がいけないの) |