「怜、ゴム持ってる?」ってそう一言聞くと、一瞬固まったあと顔を真っ赤にして狼狽えて、何か言おうとぱくぱく口を動かして、ふいにぴたりと冷静な顔になったかと思ったら何かに思い当たったのか「ん?」と眉を寄せて、自分の脱いだ制服のポケットを漁りだす。一連の流れというか怜の表情の移り変わりが面白くて目をまたたいていたら、怜が目当ての物を一つ手に持ちながら私の元へ向き直った。なんでもかんでもすぐ恥ずかしがる怜には不釣り合いな物が、手に握られている。それだけの光景でアンバランスさに興奮してくるけど、茶化す前に、意外さが勝った。

「…怜、持ってたの?絶対、持ってないと思った…」
「……いや…その…」
「買いに行ったの…?怜、それ、レジに持って行ったの?どんな顔して?」
「ぼ、僕じゃ、なくて!……友達が、その…役に立つからと…でも貰った直後はなんだか分からなくて…実物を見たのは初めてでしたし…今、さんに言われて、もしかしてこれのことだったかな、って……、っていうか『絶対持ってないと思った』って本当に持ってなかったらさんどうするつもりだったんですか…」

呆れたようにぐったり肩を落とす怜に笑う。それはもちろん、私が持っているのを使おうと思ったけど。いつかうっかり怜との遊びで必要になったときに、と思って過去の私が買ってずっと開けずにポーチにしまってあるそれを脳裏に浮かべながらも、自分が持ってるっていうことは伝えないことにした。だって、今度は怜自身が用意してほしい。怜が、私とするためにコンドームを真っ赤になりながら買いに行く様子なんて、想像しただけで、さっきまで怜の指を飲み込んでいた場所が甘く疼く。用意はしてあったものの、さてどうすればいいのか、と見慣れない物とにらめっこを始める怜の手からそれを掠め取って、「つけてあげる」とパッケージの封を破いた。鼻をくすぐる甘い香り。いちごかな、この香りは。怜にこれを渡した友達はどんなつもりで渡したんだか。少し口元が緩んだ。

「っ…、あ、あの…いつも思ってたんですけど、さんって、こういうことの知識、毎回どこで…」
「え?…うーん…いろいろ……ネットとか、本とか…見ると、怜に試したくなっちゃうから…」
「は…はぁ…、……」

なんだか釈然としない返事をしながら、慣れないゴムの付け心地とそこに触れる私の指にぴくりと眉を動かす怜のその初心さに、私は心底満足していた。普通、こういう行為に興味を持つのは男の方だと相場が決まっているのかもしれないけれど、私と怜の場合、面白いくらいに正反対だ。でも私の方まで怜くらいのウブさだったら、なんにも先に進まなかったんだから、これで良かったのかもしれない。都合よくそう納得させる自分がなんだか可笑しくってこっそり笑ったら、怜が自分のことを笑ったのだと誤解したのか、む、と少し口を尖らせた。ほら、それだけのことで、かわいくってたまらなくて、食べてしまいたいくらい。まだいっぱい、怜に試したいこと、残ってるんだから。これからもずっと、試させてね、可愛がらせてね。心の中でそう唱えて、怜に「ほら、できた」って笑う。

「…なんか、やっぱり、情けないですよね…こういうこと、本当は男の方が…その…リードするものなのに…」
「そんなことないよ。べつに、怜が分かんなくったって、私がすればいいんだから…今度は、口でつけてみる?」
「そっ…そういう問題じゃ、ないんですけど…」

私がくすくす笑うと、怜はまた恥ずかしそうにむうっと口を尖らせてしまうけど、やがて深く息を吐いて、私をじっ、と見た。視線で、尋ねられる。いいのか、って。本当に良いのかって、確かめるように。裸でベッドの上でじゃれて、ここでやめてしまう方が変な感じだ。緊張で強張った怜を安心させるように、「大丈夫だから」って囁いて腕を怜の首の後ろに回す。ゆっくりと怜の体が沈み込んでくる。人の体温は心地いい。怜のだから余計に、心地いい。硬くなった怜のものが当たって、臍の下がきゅうっと疼く。期待してる。不思議なくらいに不安も恐怖も無くって、むしろ痛くてもいいというのはやっぱり本心だった。

「…っ、…ん…、少し、待ってくださ…うまく、はいらない…」
「ゆっくりで、っいい…よ、」
「す、すみません…」
「ん…あっ、ん…いりぐち、擦られるのも、きもちいい、から…っ、あ、でも…やっぱり…」

中に挿れたくても挿れられなくて、焦らされるような思いをしているのは怜の方かもしれない。きついものがあるのかもしれない。切なそうに眉を寄せる怜がどれだけ色っぽい表情か、私しか知らないっていうのはいっそ勿体無い気分だ。誰にも見せたくないけど。私はもっとよく足を開いて、濡れそぼった秘部を自身の指で思い切り拡げてみせる。「ちゃんと…っ見える…?ここ、…だよ、ほしがってる、の…」人の唇の様に割り開いたそこは外気に晒されてすうすうして、塞いでくれる何かを浅ましく求めているみたいに疼く。怜がそんなはしたない私の姿を見下ろして、喉を鳴らした。それでも目を逸らせない怜はやっぱり愛おしい。誰にも見せたことのない自分の恥ずかしいところを、怜が見てる。怜に見られてる。それだけでその部分から淫水が溢れ出る。ぴとりと入り口にあてがわれたものの熱を感じて、息が上がった。あぁ、ずっと、ほしかったものがそこにある。「痛かったら、やめるから、言ってください、ね…?」そう囁く怜の声がかわいそうなくらい震えて、うん、って頷きながら、やめないで、って心の中では叫んでる。

「っ、あっあぁ!」
「…っく…、さ、ぁ…力…抜いて、」
「ん、…ふ、ぅ…あっ、怜、れ、いぃ…」
さ、ん…っい、たくない…?」
「だい、じょぶ…だっか、ら、ぁ…奥、まで…っ」

怜が、はいってくる、怜が、あの怜が、だいすきな怜が。痛くない?って腰を引こうとした怜の腰に足を絡めてしがみついて、やっぱり、「やめないで」って声に出してしまう。それを聞いた怜だって、躊躇ったのはほんの少しの間で、ゆっくりと、腰を奥へ進めた。みちみちと体の奥まで怜でいっぱいになる。他の何も入り込む隙なんかないくらい、怜で、全部の空白が埋まる。それがたまらなく幸せで、興奮して、こわいくらい。

「…っん、は…ぁ…、はっ…ぜん、ぶ…入った、」
「れい、顔、こっち…、んっ…キス、したい…」

おねがい、って、媚びるような台詞なのに、自分の口から溢れる声はふにゃふにゃに蕩けた頭の悪そうな声で、こんなの怜以外にはとてもじゃないけど聞かせられない。でも私だって、他の人には見せられない、聞かせられないような怜を知っているから、いいんだ。荒い息のまま余裕なさそうに私に口付けた時にこぼれた怜のくぐもった声がぞくぞくと私の体の奥を刺激して、きゅうって締まって、繋がったままの怜が小さく呻く。自分の中に入ってるものの形がはっきりと分かる。ああ、今、繋がったままキスしてる。獣みたいなぐちゃぐちゃなキス。理性も何もかも捨ててしまえたら、人間はこんなに簡単に一つに溶け合うことができるんだ。

「んっ…ぅ、あ…怜、うごいて…っ」
「で、も…、さん、」
「いたくても、いい…っから、こわれちゃう、くらい、たくさん…、怜のこと、感じたい…」

それを聞いて怜が、いつもみたいに「ああもうなんであなたはそういうことを平気で!」みたいな顔して息を詰まらせて、だけど何かを振り払うみたいにきゅっと強く一度目を瞑って、それから目を開けて、私を見た。なんにも悲しくはないけれど、泣きそうな顔で私の、汗で髪の張り付いた頬を撫でる。その手つきは本当に壊れ物を扱うように優しい。怜は優しいの、いつだって。私に優しくしたくてたまらないっていうのがいつも伝わってくる。なのに、そんな当の私が、壊されたいと、壊したいと、願ってしまうから、怜は困ってしまうんだ。しってる、ずっと前から知ってる。

「…っく、…んっ、あ、、さん…っ」
「ンあっ!あぁ、れい…っあ!怜、んんっ!」
さ、ん…っ、くるし、締めちゃ、だめ…です、…すぐ、イッちゃ、う…からっぁ、」
「だ、って…怜が…ぁ!」

ぎしぎしとベッドが揺れて、振り落とされないようにとしがみつくみたいに、怜の背中に腕を回した。繋がった部分からはしたない音がし続けて、ああ本当に獣みたいだなあって思うのに、今自分が抱きしめている人間が、この世のどんな生き物よりも可愛くて愛しい生き物だって知ってるから、私はやっぱりまだ人間でいられる。知性も何もなく、ぐずぐずに脳みそが溶けちゃいそうだけど。

「ね…、怜、れいっ、私のこと、す…き、?」
「…っそ、んなの、」
「聞かせて…あ、ぁあっ!ひ、ぁん、…れ、え…っ、おねがい…」
「…ん…すき、好き、っです…さん、が、すき…おかしくなる、くらい…っ」

怜のくるしそうな声が好き。せつなそうな声が好き。耳元の熱い吐息にたまらなくなってきゅっと目を瞑ると、目尻を涙が滑っていく。私に覆い被さってる怜が、その涙に気付いて困ったように眉を下げた。ほら、やっぱり、泣きそうな顔。「泣、かないで…っ」おんなじ言葉を言おうとしたはずなのに、先に怜に言われてしまったら、もう言葉は引っ込んでしまう。かわりに唇からは聞いたことのないくらい甘い自分の声が途切れずに洩れる。奥に怜のが当たるたび、お腹なんだかもうすこし下なんだか、感じたことのない息苦しさが襲う。それでも、その苦しさが嫌じゃない。体の奥が痺れて、頭の中まで痺れて、もう怜のこと以外考えられなくなる。

、さん…気持ち、い…っもう、」
「れ、あッ!あぁっん!や、怜、っら、め!」
「…腰、我慢、できな…っく」
「っん!ぅあ、あっ!ひあ、ぁ…っすき、すきなの…れい、ぎゅうって、し、て…ッもっと、名前、呼んっで…」

もっと抱きしめてほしい。今だってじゅうぶん抱きしめ合っているのに、もっと、もっと、って求めてしまう。肌を重ねあって、距離はゼロになっているはずなのに、しつこいくらいお互いの名前を呼び合ってるはずなのに、もっと。きっともう足りないんじゃない。満たされている。溢れちゃうくらいに心も体も怜でいっぱいなんだ。それでも、もっと抱きしめてほしい。離さないでほしい。怜が息も絶え絶えに、私のお願い通りに、何度も何度も私の名前を呼ぶ。呼ぶたびにその声が張り詰めていって、限界が近いことを教えてくれた。

さん、も…ッ、声、きかせて…」
「やっあ、ぁん!はずかし、いっか、ら…こんな、おかしい、の…っあ、ぁ!」
「…かわいい、です…っ」
「っふ、」
「か、わいい…、さん、かわいい…ッ」
「ひっあ、!んっアあぁっ!」

こんなはずじゃ、なかったの、最初は、こんなはずじゃ。可愛い顔で可愛い声をあげる、可愛い姿の怜を、たくさん、見られたらいいって思ってたの。もっと、いつもみたいに余裕たっぷりに。なのにちっとも余裕なんかなくって、こんなはずじゃなかった、って、自分でも知らない自分になっちゃったみたいで、恥ずかしい。そんな私を、怜が耳元で、かわいいって言った。いつも私が呪いのようにずっと怜に囁き続けたその言葉を、怜がその唇で繰り返した。怜はかわいいって言われると、もっともっと可愛い反応を見せてくれる。だから、怜に同じ言葉を囁かれた瞬間、自分が怜の言葉でもっと、恥ずかしい自分になるようで、いつも私が怜のことを見ていた目と同じ目で怜が私を見ているんじゃないかって、そう考えたらたまらなくなって、怜が奥を突いた瞬間、目の前が真っ白になった。一際甲高い嬌声を他人の物のように聞きながら、自分の中がきゅうっと怜のを締め付けるのを感じる。怜の体がぶるりと震えて、切なそうな声を噛み殺すように私にしがみつく。だから私も夢中でしがみついた。自分の中身がどこかにごっそりと連れて行かれそうな気持ちになって、それを繋ぎ止めるように。

「…は…、っ」
「ん…はぁ…怜…」
「は、ぁ……」

無理矢理に息を整えようとするような、ぎこちない深呼吸が部屋の静寂の中で大袈裟に聞こえるけれど、お互いの視線を絡ませると、どちらからともなく唇を重ねた。くるしいのに満たされた気分は絶えない。むしろ苦しいことが満たされている証拠のような気がした。怜の指に自分の指を絡めてぎゅっと握る。「怜、だいすき」もう疑うことはしない、言葉にするのを躊躇わない、気持ちに蓋をすることもしない。あなたを愛して生かされてきたの。これからも、きっとそれは変わらない。最初からなんにも、変わってなんかない。