自分の手のひらを、ぼんやり眺めた。手相なんてしらないけど、生命線とかは短そうだ。柱のかげに身を隠しながら、話し声に耳を澄ませた。数人の世間話。噂話。

さん、一家で夜逃げしたんですって」
「まあ。最近聖堂にも姿がなかったし、様子がおかしいとおもったのよ」
「倫理くん、あそこの娘さんと仲が良かったでしょう?さぞ落胆しているでしょうね」
「ええ、きっと傷付いてるに違いないわ。かわいそうに」
「親しくしていたのに、こんな仕打ち」
「ええ、ええ。でも、あの子『昨日の夜』姿が見えなかったのよ。いったい、どこにいたのかしら」

 おっと。べつに気づかれやしないだろうけど、思わず自分の口をぐっと手で覆って息をひそめた。話し声が遠ざかってから、数秒後。はた、と口元から離して、てのひらを見る。

「ありゃ、間接キスしちゃった」

 まだこの手に感触が残っていた気がしたんだ。ずっとずっと残る気すらした。ボクの中の、消えない不幸の一つとして。青春にありがちな、甘酸っぱくてばかばかしい、失恋の話。