でもでも同じこと
 八戒がアタシの親友ののことが好きだって気付いたのは随分前だ。

 アタシは八戒が大事で、友達と過ごすより八戒と過ごす方が多かったけど、のことは特別だった。可愛くて優しくていつもアタシにくっついてきて、ほわっとしているようでたまにびっくりするくらい頑固で芯があって、友達思いのイイ子だ。本当、イイヤツ。
 八戒にを初めて紹介したとき、もちろんいつもどおり八戒はフリーズしたけど、は笑って八戒に言った。「柚葉に似てカッコいいし、カワイイね」そう、やっぱりは見る目がある、その通り、八戒は自慢の弟だ。そしては、自慢の親友だった。「よろしくね、八戒!」そう言っては小さいくせにうんと背伸びして八戒の頭を撫でようとした。届かなかった。
 それから何度も二人を会わせる機会はあったけど、八戒はに話しかけられるたび毎度毎度フリーズした。いい加減にくらい慣れてもいいんじゃないか、と不思議に思っていた頃、気づいた。ただ固まるだけじゃなくて、毎度毎度、がいるときに八戒の顔が赤いこと。
 は八戒をかなり気に入って、アタシが八戒へ誕生日とかにプレゼント贈るとき、一緒に選んでくれる上に「じゃあ自分からも」とプレゼントを用意してくれるし、バレンタインデーはアタシに友チョコを贈るついでに八戒にもチョコをくれた。八戒は真っ赤になってそれをぎこちない動きで受け取った。一言、「あざす」と小さい声で礼を言う。が笑って、頭を撫でようと背伸びをした。八戒が無言のまま、ちょっと屈んで頭をそっちに向けた。の手が届いた。

「なあ、柚葉。いつものあの、ちっこいひと、来ねーの」

 八戒はいつの間にか、そんなふうにに会えるのを楽しみにソワソワするようになった。「ちっこいのって、のことだろ?」分かりきっていたけどそう尋ねれば、変にゴニョゴニョしながら「ン、そう……」とその名前を声に出した。本人のいる前で名前なんか呼ばないのに。まともに話せてもないのに。

「八戒、なに、もしかしてに惚れた?」

 からかうわけでなく、ジッ、と真っすぐに見つめて八戒に聞いた。真剣かどうか見極める。アタシにとっても重要なことだ。アタシの大好きな八戒。アタシの大好きな。二人に関わること。アタシの質問に、八戒は見たことないくらい顔を真っ赤にさせた。ヘンな煙が立ち上りそうなくらい、真っ赤にして、アタシと目は合わせずにちょっと下を向いて、それから本当に本当に小さく、こくりと頷いた。
 カワイイ弟の、そんなカワイイ反応を見て、アタシは決心した。

「よし、アタシに任せな!」

 アタシが一肌脱がないでどうする。他の誰が脱ぐっていうんだ。大好きな弟、どこの馬の骨とも分からないオンナに渡したくはないと思ってたけど、相手がだなんて、そんなの、願ったり叶ったりだ。だってがイイ女だってことはアタシが一番分かってる。普段アタシにべったりで、ちょっと抜けてるところもあるから悪い男に引っかかったらどうしようかと思ってたけど、そうか、八戒なら。
 アタシの大切な弟と大切な親友。二人ともいっぺんに、いや、アタシ含めて三人みんな、幸せになれる。こんな幸せなこと、他に無いと思った。






 それからしょっちゅう、三人で遊んだ。何かとアタシが横でフォローし、八戒本人の頑張りもあって、いつしか八戒はとフツーに話せるようになった。フリーズしないで、ちゃんと。というかむしろ慣れてくれば八戒も調子良いもんで、気付けばすっかり、にべったりだ。三ツ谷相手とはまた違う、なつき具合。

「なー、三人でコレ行かね?言ってたじゃん、この店行ってみたいってさ。このパフェ超うまそー」
「わ~!ほんとだ!やば~、ねっ!柚葉行こ行こ!」
「あ、それならついでに新しく入ったあの店で服見たい。冬物のコート探してるんだ」
「いいね~!わたしも見た~い。いいのあったらオソロイで着ようよー、柚葉~」
「オレだけ仲間外れじゃんか!」
「八戒とオソロイの服はむずかしーでしょ~」
「え~、ずりー。なんか似た色とか形の探すし」
「あははっ!やば~、八戒かわい~!」

 最初こそ気を遣って、「タイミング見計らって二人きりにさせようか」なんて思ったけど、八戒はそれを全力で拒否った。柚葉がいてくれた方が喋れるし、三人でいるのが楽しい、って。アタシも、それは同感だった。八戒がとられるかもしれない、がとられるかもしれない、なんて寂しさは味わうことないまま、アタシはこの、三人でいられる時間が幸せだった。大切にしたいと思った。大好きな二人だ。大切な二人。この幸せを守る為ならなんでもする。どんなことでもする。

「どうかした?柚葉」
「ん?んーん。ただ、思っただけ」
「何を?」
「このままずっと三人でいられたら幸せだなって。アタシ、アンタと八戒が一緒にいてくれたら、一生幸せだわ」

 が目をぱちくりさせた。並んで歩いていた八戒の方を見上げて、二人して顔を見合わせて、それからふっと笑って、アタシの腕にぎゅっと抱き着く。「そんなの、わたしもだよ、柚葉























 が柚葉のことを好きだって気付いたのは、随分前だった。本当に、随分昔から気づいてた。

 ホレた女のことなんだ。見てれば分かった。は最初うまく喋れなかったオレともいっつも仲良くしてくれて、三人で過ごすとき本当に楽しそうだったけど、オレと二人きりでいるときと三人でいるときじゃあ、表情は違っていた。気付いたんだ。ああ、はオレのこと、「柚葉の弟」としてしか見ないな、それ以上になんか思うことないんだな、って。むしろオレが向けてほしかった顔を、はいつも柚葉に向けていた。にとって、柚葉はかっこよくて、そりゃあもう世界で一番かっこよくて、それ以上の存在なんかないんだ。柚葉を見るの表情が好きだった。悔しいくらい、他のどんな表情よりもカワイイ。ああ柚葉のこと本当に好きなんだな、ってわかる。幸せそう。すげー好きだった。
 でもさ、柚葉は女じゃん。で、も女だろ。付き合えねーじゃん。結婚もできないし、子供もできねーじゃん。は、柚葉のことがきっとすげー好きだけど、伝えることはしない。柚葉のことが好きだから、ひかれたくないし、今の関係壊したくなくて、言わないらしかった。だからさ、
 だからオレ言ったんだ。オレと一緒になればいいよって。

 だって名案だったと思わね?三人みんな幸せじゃん。オレはも柚葉も好きだし大事だ。柚葉も、オレとのことすげー大事にしてくれてる。愛されてる自覚あるよ、昔からずっと。そんで、は――柚葉が好きだ。けど、まあ、オレのことも可愛がってくれてるし結構好きだと思う。何より、オレは柚葉の弟だからさ。柚葉と同じ血が流れてんの。そこ、たぶんにとって大事だと思うんだ。はオレの提案……っつーか告白にオッケーしてくれた。もう、そのときからほとんど、「結婚を前提に」って感じだった。だってオレといれば柚葉といられるんだから。
 付き合うこと報告したとき、柚葉すっげー喜んでくれたっけ。オレとのこと一緒に抱きしめてさ。
 あ、でも結婚式のときのほうが喜んでたな。泣いてた。大好きな弟が、大好きな親友のこと幸せにしてくれるんだ、って。幸せになってくれるんだ、って。こんなに幸せなこと他にないだろって。オマエになら任せられる、って。そんで、に言ったんだ。「アタシたちは家族になったんだな」って。「家族だな」って。も柚葉に抱き着いて泣いてたな。すげー幸せそうだった。だって、柚葉と家族になれたんだもんな、柚葉と結婚はできないけど……嬉しいよな、よかったよ、オレ、のこと幸せにできた。オレにしかできないやり方で。柚葉だけはオレとの計画を知らないままだったけど。

 んで、そんでさ、今、の腹ン中にオレとの子供がいるんだ。柚葉に報告したらさ、すげー喜んで、産まれるのまだまだ先なのにオレ以上に張り切っちゃって。名前自分も一緒に考えるとか、オレとの子供ならアタシの子も同然だ、とか。八戒に似てもに似ても絶対可愛いだろ、アタシを第二の母親だと思って育ってほしい、父親でもいいぞ、とか。三人で育てよう、だなんて言っちゃってさ。なんか…………ハハ、オレが望んだ通りなんだ。あんまりにもそのとーり進むから怖いけど。の望みも叶った。そうだよな、オレとの子供なら柚葉とも血ィ繋がってるじゃん?どう頑張ってもは柚葉の子供産めないはずだったのがさ、まあちょっと間接的ではあるけど、ちょっぴり「柚葉との子」気分になれるよな。オレとセックスしてるとき、って柚葉のこと考えてたかな。そりゃあ柚葉だって「自分の子同然」っていうよ。ぜってーデキアイすんだ。目に浮かぶよ。きっと大事にしてくれるんだ。三人で育てる。オレたち三人の子供、だよ。オレ、のこと愛してる。けど柚葉のことも、愛してるよ。だって、家族だ。オレたちは。

 けど、なんかさ、ずりーや、って思っちゃったんだ。柚葉、なんにも知らないで幸せでずりーよ。オレだってそっち側がよかった。いや、それはそれでかっこわりーかな。何も知らないでいたら、可哀想なヤツだったかな。ハハ。オレさ、子供が産まれたら柚葉に言おうと思うんだ。オレとの子供抱っこしてる柚葉に向かって、「が好きなのは柚葉だよ」って。柚葉、どんな顔すんのかな。そんでチクったのにバレたら、どんな顔すんのかな。オレら三人の幸せ、終わっちまうかな。ずっと前に話したんだ。オレら三人でいられたら幸せで、そんな幸せがずっと続けばいいよなって、いったんだ。

 なあタカちゃん、そもそもオレらってちゃんと幸せだったかな?どっかで間違えたかな?なんかもう、わかんねーや。