「はあー、お前が結婚ねえ。いやめでたいけどさあ」

 久しぶりに会おうって誘われて、テキトーな店で飯頼んで、そんで、ご報告ですって話し始めた時点で、ちょっと予感はしてた。彼氏と長いことうまくいってるってのは知ってたし。めでたい、と言いながらも口を突いて出るのは「まさかお前が」とからかう言葉ばっかりだ。頬を膨らませて不満げな表情の相手に、わざとらしく、しみじみ~っと溜息を吐く。もうその顔見飽きたわってくらいの昔からの付き合い。オレが知ってんのは、こういうブチャイク顔ばっか。「気の合う女友達」であるそいつが、綺麗なドレス着て「女」の顔してるところなんて想像がつかない。だから、何回も繰り返す。まさか・お前が・結婚なんて。オレの意地悪いニヤニヤ笑いに、反撃するように言い返してくる。

「普通さ~、もっと素直に祝福するもんじゃないかなあ?いくら私に先を越されたからってさあ?」
「はあー?べつに僻んでねーし!オレはオレで人生エンジョイしてますんでー、残念でしたー」
「だってこの間彼女と別れたばっかじゃん」
「は?なんで知ってんだよオレ言ってないんですけど?」
「いやーほんっとエースって彼女と長続きしないよねえ。いい加減一人の女の子に落ち着いたら?」
「『ワタシのように』?」
「そう、ワタシのように」

 うぜえー、調子のんなー、とフォークを軽く振って抗議の声を上げる。ふふん!なんて声が聞こえてきそうなくらいに機嫌良く笑い、大袈裟に胸を反らすそいつに、今度はこっちから反撃。「全っ然うらやましくないんですけどー。っていうかむしろ彼氏に同情するね!」言いながら、脳裏に思い浮かべる。長い付き合いで見てきた、こいつの「残念」なところ。

「お前、寝起きすっげー機嫌悪いし、腹減ってるときも機嫌悪いし、酒入ると泣き喚くし、料理も下手だし、買い物行くと無駄遣い多いし?ズボラだし、掃除もできねーじゃん?……あれ?オレ言いすぎ?」
「言いすぎじゃん?でも大丈夫。彼の前ではまだぜーんぶ隠してるんで!今のところバレてない。超努力してる」
「うわ~!見栄っ張りだな~!そんなんで結婚生活とかぜってー無理!そのうちボロ出んの確実じゃんかよ!」
「っていうか、彼の前ではって言うより、エースの前ではいろいろとさらけだしちゃってるだけだから。エースがダメな私を知りすぎちゃってるだけだから」

 エースだけだよ。エースだからだよ。わざとらしい特別感に、なんだか妙にちくりとする。「なんだそれ、うれしくねぇ~」なんて笑いながら、オレは改めて、今一度、その顔を眺める。もう見飽きた、その顔。付き合いの長い、気の合う女友達。男女の友情は信じる派。こいつに限るけど。ああ、そう、オレも、お前だけだよ。お前だからだよ。真似るような言葉に滲む、本当にわざとらしい、特別感。

「どっかで間違えて、もし私たちが付き合ってたらさあ、続いてたのかなぁ。今頃、結婚相手エースだったのかなあ」

 うわ、ばっかみて。今ここでそんな発言。オレは頬杖ついて、軽く笑い飛ばす。「そーだな。そうすりゃ、いろいろと取り繕わなくてもよかったのにな」いろんな嘘つかなくて済んだのに。見栄張らないで、駄目なまま、オレにぎゃーぎゃー文句言われたり言ったりしながら、シアワセな家庭ってやつを築いてたかもしんないのに。考えて、やっぱり笑い飛ばす。

「うっそー。無理でーす。こっちから願い下げでーす」
「は~?私だって本気で言ってないですー」
「そりゃ本気で言ってたらやべーやつじゃん。これから結婚するってヤツがさあ」

 けらけら笑いながら、ああ、なんか、今すっげーイタイやつじゃねえ?って思えてきた。オレも、こいつも。ちくちく、心臓に針が刺さるような感覚。いっそナイフなり剣なりで思いっきりぶっ刺してくれりゃいいのに。みみっちくて情けない痛みだ。さっきよりももっと、ちくちく、ちくちく、しつこい。それをどうにか誤魔化したくて、楽になれる言葉を探す。手繰り寄せた言葉を口にしたら、余計に自分の首が絞まった。

「お前さあ、あの頃、」

 あの頃って、あの頃だ。こんな未来が待ってるなんてしらなくて、ただ一緒にばかやって笑ってたあの頃。ガキで、青臭くて、楽しければなんでもよかった。

「オレのこと好きだったろ」

 オレの言葉に、目の前の人物は目を見開く。うっすらと唇を開いて、何か言おうとして。でもそれを一度引っ込めるように唇を結んで、やがてその唇が緩やかに弧を描く。オレに反撃するときの、あの笑顔だ。

「何言ってんの」
「まあ、旦那の目ぇ盗んで、たまーになら浮気相手になってやってもいいけど?」
「あはは!もう、何ばかなこと言ってんの」

 あーあ、ほんと、何言ってんだろ。


何言ってんの×心臓に針×見栄っ張り
( 指定:エースくん/るいちゃんより )