「そうかなあ。卯木さんは、彼女いると思うなあ」

 私が呟いた言葉に、それまできゃいきゃい騒いでいた同僚たちがぴたりと口を閉じた。時間をとめる能力なんて漫画の中にしか存在しないと思うのに、今この時は私がとめてしまったんじゃないかと思ったくらいだ。それもほんの一瞬で、やがて何事もなかったように時は動き出す。さっきの「ピシッ」とした沈黙はなんだったんだってくらい、また賑やか。

「え〜、なんでそう思うの?」
「いない方に賭けてるんですけど!私!」
「ね〜!」
「……うーん。なんでって言われると難しいけど……そんな感じしない?あんまりそういう話題とか女性陣に興味なさそうで、でもなんか全く"無"っていうよりは、一個ぶれないものあるっていうか」
「えぇ〜、なにそれ〜」
「一途に彼女大事にしてる系ってことですかー?」
「そう…かなあ〜……もうなんか、酸いも甘いも知り尽くしたんで、みたいな。君たちなんかじゃ想像つかない修羅場潜り抜けてきてるんで、みたいな達観オーラ出てない?」
「え〜!?どこ、」

 真面目に言ったつもりなのに、ぶっ、てふきだす声がした。しかし、目の前の同僚二人はべつに噴き出したわけじゃなかった。むしろ私のほうを見て固まっていた。私のほうっていうか、私の背後の、なにかを見て。やがて「し〜らないっ」みたいな感じでそそくさーっと私の前から散っていった。私も解散していいだろうか。

「残念だけど、はずれ。彼女はいないよ」

 振り返りたくはなかったけど、振り返らないって言うのも気まずいと思うので、観念した。長身の男性がそこに立っている。眼鏡の奥の瞳は、笑ってるけど。あんまり聞かれて面白い話じゃなかったのは考えなくても分かる。

「……すみません…」
「いや、面白いなと思って」
「面白い話ではなかったかと…」
「興味深かったよ。さんはいるんだ?」
「え?」
「彼氏」
「…え」
「『そういう話題とか男に興味なさそう』だけど」
「いや、いませんね」
「ああそう?それじゃあ、仲間だ」

 はは、と笑って横を通り過ぎていくけど、やっぱりその声は全然楽しそうな笑い声にも私に興味が向けられているようにも思えない。全然仲間じゃない。仲間だと言ったのは向こうなのに、一緒にするなと言われたような気持ちだ。なんっか苦手なんだよな、あの人。



(ほんとうのほんとうは嘘の嘘)