「密ー、じゃんけんで負けたほうがこたつから出てストーブに給油してこよー?」
「…ぐう…」
「えっうそしょ」
「…寝てる」
「寝てる人は寝てるって言わなくない?」

 無慈悲にも給油ランプとそれをお知らせする軽快な音楽で部屋の中の人間に存在を主張するストーブくん。と、こたつでぬくぬくとあったまって私の提案を知らんぷりする密をじとりと睨む。灯油を入れにこの寒さの中玄関のほうへ向かうのはとても気が滅入る、し、何より一度入ったこたつから抜け出すなんてそんなことは朝布団から体を引きはがすのと同じくらい難しい。そんなことはもちろん密はよく知っているわけで、この狸寝入りだ。

「密くーん、おねがぁーい」
、おねがい…」
「…」
「…」

 いまの「おねがい」の言い方めちゃくちゃかわいかったので心が揺れそうになったけどたぶん相手は揺れてないんだろうなって思ったらくやしかったのでやっぱりほだされないぞ。

「ストーブとまったら寒いよ絶対。寒いのいやでしょ密。みなまで言うな、私も嫌」
「…こたつあるし…そこまで危機感はない…」
「うらぎりものめが」
「……そんなに寒い?」
「ぜったい寒いよ。こたつだけじゃ心もとない。私の平穏は守られない」
「こたつあるのに……」
「こたつは確かに最強かもしれないけど〜」
「…わかった」

 いつもの眠たげな顔で、四角いこたつテーブルの一辺を自分のテリトリーとしていた密が、ずるずると布団の中に吸い込まれていった。え?なに?え?とふくらみのなくなったこたつ布団を見ていたけど、あっあいつこたつの中にもぐったの!?こたつの中で丸くなるつもりなのか!?猫か!?と気付き、中を確認しようと自分のすぐ横の部分の布団をめくりあげようと試みる。その直後。ぬっ、と自分のすぐ隣に密が顔を出す。ウワッ!とびっくりして声が出た。中をもぐって隣にやってきたらしい。せまい。

「いや、せまい、せまいからね!?これそんなバカでかいテーブルじゃないから!君むこうだったじゃん!戻っ…」


 言葉を遮って、密がもっと距離を詰める。え、と思ったときにはこちらに腕が伸ばされる。

「…こうしたら…あったかい」

 ぎゅ、と抱き枕にでも抱き着くように、密が私の背中に腕を回してくる。「…寝よ?」ってちいさく、囁くくらいの声で言って、私を抱きしめたまま体を倒し横になろうとして、

「分かった分かった分かったやっぱり私がストーブいれてくる!」

 早口に言って密を引きはがしてこたつから急いで飛び出した。ばかじゃないの。心臓がどくどくいって確かに体温は上がったようで、ぜんぜん寒くなかった。もうむしろこたつに戻らないで私は給油したらストーブの前でその火の番人になろうヨシうん決めた。ちら、とこたつを振り返る。顔だけこたつから出した密が、じ、とこちらの様子を窺っていた。ちょっと警戒するように私もしばらく目を合わせる。かわいい顔してやりおるぞ奴は。

「……嫌がられた…」
「いや、こたつでは寝ません。寝ませんから。くっついてとか、ほんと、寝ませんから」
「…」
「……」
「…、おねがい」

 いまの「おねがい」の言い方めちゃくちゃかわいかったので心が揺れそうになってる。