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そんな言葉を「おねがい」にして投げたにも、それを「わかった!」と受け取ったあいつにも、腹が立つ。ああもう、本当、馬鹿じゃないのか。どうして、この時期!今日!今!あいつに!(なんて、わかってる、わかってる。「この時期だから」だし「今日だから」だし、「れおくんだから」だ)俺はイライラしながら歩く速度がはやくなって、そのうち結局走り出す。いったいどこへ向かったの。どこへ連れて行くつもりなの。 あの二人がそんな会話をしているのを実際に耳にしたらしいナルくんは言った。「ただのデートじゃない。邪魔しちゃ可哀想よォ〜?最近楽しいことずっとおあずけにされてたから、ちゃんも鬱憤が溜まってたのね」にこにこ、微笑ましそうに。俺は全然、そんな心穏やかになんて構えられなかった。怖い顔してその場を後にする俺を、ナルくんはきっと怪訝に思っただろう。たしかに言葉だけ聞けば微笑ましい。おうちのなかじゃやだやだおそとであそびたい!ってぴょんぴょん飛び跳ねてる子供を念願のお外へ解き放つ。でも、だって、その言葉を聞くのが「れおくん」で、その言葉を口にするのが「」だから。 なんだか、とてつもなく不安な言葉に聞こえる。ふたりでどこまでも行っちゃいそうな気がする。あの二人でならどこへだって行けるような気がする。なんにも怖いことなんてない気がしてしまう。俺はそれがとっても怖い。 「ねえ、れおくん。今口ずさんでたの、新しい曲?」 「えっ!おれ今うたってた!?どんな曲!?あっいや待って!そうだ、こんな曲だったよなっ?忘れないうちに書き留めよう!でも今は片手があかない!、紙持ってて!おれはペン持つから!」 「え、うん、でも、つないでる手を一回離せばあくんじゃない?」 「離すのはナシ!今うまれた曲はと手をつないでるときに作られた曲だって後世に語り継いでいきたいからダメ!」 「むずかしいね…そしてちょっと恥ずかしいね…?」 「ああ、でもたぶんおれ忘れないな、この曲は。だって勝手に気付くとあふれてる。今書き留めなくても大丈夫そうだ!」 「そうなの?よかったよかった」 「そのかわり手をつないでる間ずっと歌う!も歌え!」 「またむずかしいね…そしてとても恥ずかしいね…」 「わははっ」 「…れおくん」 「ん?うん?」 「誕生日のお願い、きいてくれてありがとうね」 「当たり前だろ?の生まれた日を祝うんだから」 「ふふ、そっか。当たり前かあ」 「そんでもって、がいるから作られて、生まれてなかったら作られてなかったおれの曲もいっぱいあるし!つまり、の誕生日は『』だけじゃない、『がいるから生まれたもの』も元をたどればある意味誕生日だな。おめでとう、おれの曲!ママに挨拶だ!」 「ええ?その曲をうんだのは私じゃなくてれおくんじゃない?」 「ん?そっか?むずかしいな、認知って。じゃあおれとの子なのか?」 「泉くんが聞いたら卒倒しそうなせりふだね…曲じゃなくて今ここに誤解を生んでしまうよ…」 「あ、そうだ、セナ。あいつなんかすっごく心配するんだよな、おれとが二人揃ってちょっと姿見えないと」 「連絡しとく?」 「ん〜…んん〜〜」 「しないの?」 「したら、終わっちゃう気がする。『のお願い』が」 「……、…はあ?じゃあ、なに?結局どこへも行ってないの?ふらっと消えて、近場をぶらぶら歩いて、のんびり鼻歌うたったり、猫の後くっついて歩いたりして、それだけなわけ?」 やっと見つけた、と俺がぜえぜえ肩で息をしているのを見て、「やっほ〜」みたいなゆるさで手を振ったふたりに、腹が立つ。その手を振るときだって、二人は繋いだ手を離さずに、空いた片方の手で俺に手を振ってた。それを見るとなんだかちょっと胸の中がざわっとして、いらっとして、なんともいえない気持ちになる。二人して、本当、きょとんとしちゃってさ。「なんでただ遊んでただけなのにおかあさん怒ってるの」って顔しながら玄関に立ってるどろんこ遊びのあとの子供みたい。 「はあ…つかれた。心配して損した。チョ〜うざい。なにこれ」 「ごめん、泉くん。探さないでね、心配しないでね、って事前に言えばよかったね」 「いや、それ書き置きとかされたら余計に不穏だから。絶対しないで」 「え、そ、そっか…ごめん。ねえ泉くん、なんでいっつもそんなに心配してくれるの?」 「…べつに、」 そんなの、だって、だから。れおくんだから。が、ひとりでもへっちゃらだよって顔してさみしがりやだから。周りに気付かれないうちにひとりでどこへでもいっちゃいそうで、もしかしたら行けちゃうかもしれないからそれがさみしくて、それに傷付いちゃいそうで、だからみんなほうっておけない、そんな女の子だから。れおくんが、そんなのためになんでもしてあげたくて、その手をつないで、どこか、も自分も、誰のことも傷付けなくて傷付かなくていい場所をさがしにいっちゃいそうだから。そんな笑顔をいつもにみせてるから。いつもは二人で平和そうにおしゃべりしてるだけのくせに、いつか行動にうつすような、ふたりそろって消えちゃいそうな、そんな気がして。 「なあなあ、。ごめんな、どこへもつれてってあげられなくて」 れおくんがの目を見て言う。がきょとんとした後、笑った。「つれってってくれたよ。ありがとう」 俺はちょっとだけ羨ましくて、憎たらしかった。行き先なんて分かんないまま、どこでもいいから「どこかへ行きたい」とれおくんに言える素直さ。日時も約束もなんの縛りもなしに、「行こう!」との手を引ける自由さ。 「…今日は無理でも、今度ちゃんと計画して出かければいいでしょ。二人して本っ当、計画性ってもんが無いよねぇ?」 少ししゅんと項垂れていた友人に、声をかける。「もちゃんと行きたい場所はっきり決めときなよ。思い付きで『どこでもいい!』じゃなくてさぁ?」これは、その友人にとっての特別な女の子に。二人はそれぞれ俺の言葉を聞いて、顔を上げて、そして見合わせて、こっくり、大げさに、おおきく頷いた。ぱっと次に俺のほうを見るときには、笑顔だ。 「たしかに!ナイスな提案!さすがだセナ!それでこそセナ!愛してるっ!」 「い、いきなり暑苦しいなぁ、もう!」 「じゃあ今日はおでかけおしまい!の誕生日の残りの時間はどうしよう?まずはなんだ?ケーキかな?おりがみでわっか作るのが先か?…ん!いや違う!一曲書き上げるのが先!」 「はいはいどうぞ頑張って」 「使い古された誰のためかも分からないハッピーバースデーなんか歌わないぞっ!おれのオリジナルハッピーバースデーソングが今ここにうまれるんだ…!」 「ねえ、ちょっと!何ぼけっとしてるわけ?何か言ってやってよ、」 「ん?うん、あのね、嬉しいなーとおもって」 「そう!世界で一つだけのバースデーソングだ!」 「バースデーソングがそんなに嬉しいの、あんたは」 「ううん。あ、うん嬉しいけど。誕生日にこうやって隣にいてくれたり、心配してくれたりする人がいるのって嬉しいね」 そりゃあ、そんなの、誕生日に限ったことじゃないでしょ。誕生日じゃなくたって、あんたの隣にはあんたのこと好きな人がいつもいるでしょ。それに、すぐに見つけられなくても、駆け付けられなくても、どこかへ連れ出す役目じゃなくても、心配してる人がここにいるんだよ。忘れないでよ。俺はれおくんと目を合わせる。ああ、そういえば、誕生日だっていうのにもうすっかりそれどころじゃなくって、言いそびれてた言葉があるな。ああ、ほら、こいつ、言いたくってうずうずしてるじゃん。そういう顔。俺はやれやれって呆れるふりして少し笑った。(本当、人騒がせなふたりなんだ) 「俺だって、おめでとうくらいは…」 「愛してるよーっ、!」 「…ねえ、ちょっと、ここは誕生日おめでとうでしょ」 「セナは『おめでとう』でいい!『愛してる』はおれのだからつかっちゃだめだぞ!わはははっ」 「はあ!?…っああもう、もで、なにわらってんの」 (うそだよ。そうやって、ふたりして俺の目の届く場所で笑っててよ)
Happy Birthday! and WE LOVE YOU! 大好きなりらへ |