「具合はドウネ?
「う〜…むりかも…」
「ダイチュウショウ、ニホン各地でゾクゾク、てニュースで見たヨ」
「ネッチュウショウだヨ…」
「オー、ソーリー。とにかく油断はビフテキ。水分ホキュウしっかりネ」
「ビフテキは…食べるほどの食欲ない…ヨ…」

 パラソルの下で項垂れながら、横から耳に入ってくる声に相槌を打つ。暑さでおかしくなったわけではなくおそらくほんとによくわからない日本語が遣われている。日陰にいるのに汗が滴るくらい、今日はバカみたいな暑さの真夏日だ。みんなで海に遊びに行く予定を立ててたときはテンションがウェーイだったのに、誰よりも早くバテてパラソルに引き返した。とはいえ楽しんでるみんなに水を差すのも悪いし、ちょっと休んだらすぐ行くから心配しないでウェーイしてきて、と手を振ってみんなを波に向かって送り出し、それでも後から引き返してくれたのか、気付いたら横にいてくれたのがシトロンだった。

「ジャパニーズサマー、ちっともクールビズじゃナイヨ。殺人級ネ」
「ほんと。熱中症で死ぬ人もいるもん…恐ろしいよ…」
が死んだらワタシとっても悲シイ…ネッチュウショウでは死なせナイネ!寝ちゃダメダヨー!寝たら死ヌヨー!」
「それは…逆に寒いとこで叫ぶヤツなのでは…?」
「オー、は物知りダヨ。それなら安心ネ。寝ても死なナイ、なら、チョット横になるイイヨ」

 ん?と少しだけ顔を上げてそっちを見たら、シトロンが自分の膝をぽんぽんと叩いていた。え…と微妙に恥じらって躊躇う私に、シトロンは無害そうなにこにこ笑顔で答えを待つ。いつもだったら大袈裟に「いやいやいや!」って飛び上がってツッコミを入れる私も、さすがに今、そんな元気がない。ぼーっとする頭で考えたのはほんの数秒だ。ごろん、とそんなに柔らかくはない枕に頭をのせてみる。

「あー…横になったほうが楽かも…」
「シトロン印の氷枕ネ。つらい発熱によく効くって評判ダヨ」
「いやあ…そういう効果あるかなあ…」
「大アリダヨ〜」
「オーゥ…」
「…」
「…」
、暑いのニガテ、って前に言ってたネ」

 氷枕さんは、冷えた飲み物の入ったペットボトルをクーラーボックスから取り出して、私のおでこにくっつける。熱を出した時みたいにそのひんやり感がここちよくて、目を閉じた。

「うん、夏きらい」

 あつくて、まぶしくて。目を閉じたまま、ぼそりと呟く。「でも、むりして今日みんなと海に来たわけじゃないよ。ホントに楽しみだったし、たのしいよ」具合悪くなるさっきまではたのしかったよ、とは言えない。これからまたすぐ体調戻って大はしゃぎするかもしれない。まだ一日は終わってない。そういう気持ちで言った。たのしい。今日はたのしくっていい日なんだから。
 私の言葉に、聞いている彼がすこし笑ったのを、瞼のむこうに、気配だけで感じた。

「シトロンは、夏みたいだね」

 太陽の似合う褐色の肌と、きれいな髪と瞳と、そういう、彼を形作るものを頭に思い浮かべる。もちろん本人はすぐそこにいるから、想像なんかしなくたって目をあければ、そこにあるものだけど。目を閉じているのに、まぶしい気がした。でも目をあけてしまえば、もっともっと眩しいものがそこにある気がした。

「夏はキライ?」

 ペットボトルとは違う感触が、私の前髪をかすかに、ふれるかふれないかというくらいの弱々しさで撫でた。いつものおしゃべりな私達の間に流れる空気とは違う。じりじりと、焦らすような沈黙。遠くに聞こえるはずのみんなの声が、今は聞こえない。頭上に手をのばす。手さぐりに、その温度を探す。指先をそっと掴まれて、私は瞼を持ち上げた。

「好きになりそう…かもしれない」

 目にうつる、ずいぶん近くにある太陽はまぶしい。けれどやさしい表情だ、いつも。