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・ ・ ・ _人人人人人人人人人人_ > うさんくさい眼鏡 <  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄ 「トレイが全寮制の学校に通うなんて…私の食べるケーキはどうなっちゃうの…さみしい。ちゃんとホリデーには帰ってくるんだよ…」 「お前それ目的は俺じゃなくてケーキだな?」 そんな会話をしたのを、すっかり忘れていた。自分の言ったことなのに。私はただ、普通に、「トレイが帰ってきた!おかえり!おかえり!」って気持ちだけでにっこにこ幼馴染であるトレイのおうちに顔を出しに行ったけど、久しぶりに会ったトレイは意地悪くにやにやして、「はいはい、了解。今作ってやるよ」と言ったのだ。最初は、意味がわからずキョトンとした。でも、トレイにからかうようにあの日のことを指摘されて、ようやく、ああそんなこと言ったかもなあ、と思い出す。 「おいおい、忘れてたのか」 「わ、忘れてたよ。っていうかよく覚えてたね」 「忘れませんよ。ショックのあまりな」 「めっちゃ根に持つじゃん」 「はは、冗談だ。理由はなんであれ、寂しいだの待ってるよだの言ってくれるのは嬉しいさ」 だから覚えてたんだよ、と笑いながら、ケーキの上にクリームを絞っているトレイ。それを頬杖つきながら見守る。昔から、ケーキ屋さんであるトレイのおうちにはよく遊びに行っていた。ケーキを食べさせてくれるから。(って言ったらたぶん、おいそんな理由か!って怒るかもしれないけど)彼の親だけじゃなくトレイ自身もケーキを作るようになってからは、そりゃあもう喜んで味見係になった。トレイにはトレイの男友達、私には私の女友達がいたけど、私たちなりの距離感の「仲良し」はずっと続いていたつもり。こうやって長期休みに久しぶりに会っても、何も変わらず笑いあえるくらい。 「うん、やっぱり実家の器具やキッチンで作るのは安心感があるな」 「味はお変わりないでしょうな?」 「さあ、どうでしょう。"変えて"やってもいいけどな」 「それはナシでしょ。トレイの作ったケーキの味じゃなきゃ意味ないのに」 私が頬を膨らませて言った言葉に、トレイがちょっと面食らって、苦笑する。そいつはどーも、と。ふふふ、とすぐに私はご機嫌になって、綺麗なイチゴの乗ったケーキを眺めた。嬉しいな、嬉しいな、早く食べたいな。そわそわしながら、切り分けられる瞬間を待っている。するとトレイが、そんな私におあずけするように「そういえば」と話し出した。 「覚えてるか?むかーし、お前が周りに将来の夢を聞かれたときに、なんて答えたか」 「え?えーと……な、なんだっけ?何歳くらいの話?」 「『私は大人になってもケーキがいっぱい食べたいから』」 「あ、ケーキやさんって答えた?」 「『ケーキ屋さんの、お嫁さんになりたいな』」 「……そ、そんなこと言ったっけ!?うそだあ!?」 かーっとなって思わず大声で騒ぎ出す私に、トレイがくつくつ愉快そうに笑った。本当、心底、愉快そうに。いや、でも本当に私、覚えてない。そんなこと言ったっけ!?いや絶対言ってないと思う、思うんだけど、トレイの方が物覚えがいいことは確かで、私が忘れっぽいのも確かだ。 「いやー、ケーキが食べたくてケーキ屋になるならまだしも、自分で作ろうって気が全くないからな。あれはウケた。子供ながらに」 トレイがまだ笑いながら、機嫌良さそうにケーキを切り分けた。私は、なんだかものすっごく恥ずかしい気持ちになって、黙る。顔が赤いかもしれない。トレイも、それ以上つっこんだからかい方はしてこないけど、でも明らかに、そういうことだろ?っていうからかい方じゃないか? いや、食いしん坊だなあって言いたいだけかもしれないけど。でも、だって、そんなことを幼少期に言っておきながら、トレイの作るケーキをこうして待ちわびているの、なんか、すっごく、恥ずかしいじゃんか。べつにトレイはケーキ屋さんの息子なだけでケーキ屋さんじゃないけど。違うけど。 ……っていうことを考えて、はっと思い出した。急に、ふってきた。その光景が。 「いや、ちがくない!?私あのとき『ケーキ屋さんのお嫁さん』だなんて言ってなくない!?『トレイのお嫁さん』って言わなかったっけ!?」 叫んだ自分の声に、自分で、おや?となった。口を押さえる。今、なにか、それまでと比べ物にならないくらい恥ずかしいセリフを口にしたような気がする。時が止まったように動けなくなって、固まる私に、トレイもしばらくちょっと黙っていた。けど、フォークでケーキの端っこをつつくと、すくって、私の方へ向けてくる。言葉をなくしているのに、目の前に差し出されたケーキに、ほぼ無意識と言っていいほど普通に口を開いていた。トレイが、くく、と堪えるように、でも愉しそうに笑った。 「よく覚えてたなあ、」 デザートタイムに紛れ込ませた囁きの糖度 (さあよおく味わって!)//200505 |