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「今日はつづるんが主役だねえ!」 そう笑って、彼女が俺に手渡してきたのは、よくある「本日の主役!」のたすき。買ってきたのかお手製なのか判断しにくい絶妙なそのたすきを見て、いや正確にはそこに書かれている文字を見て、ぽかんと固まった俺に、がさらに笑った。無邪気に、楽しそうに。「誕生日だから、主役!今日の主演〜!」繰り返し、言い聞かせるように彼女が言う。「主役」「主演」って。なんてことない言葉のはずなのに、本気で演劇に関わり始めた今では、特別な響きを持って俺の耳に届く。 「…そっか。ん、そうだな。今日だけは俺が主役だな」 「え、今日だけなの?」 「ん?」 「今日はみんなで祝うから、みんなの中の主役だけど!つづるんは、いっつも自分が主役でいいよ!」 「…えーと」 「あ、つづるんが主役の公演もやってほしいよね。私楽しみにしてるから!その場合も脚本はつづるんなのかな…凄いね、脚本と主演が自分って!大物俳優みたい!つづるんかっけー、だね!!」 目の前できゃっきゃ騒ぐのテンションにちょっと置いてけぼり気味の俺は、苦笑して頬を掻く。いや、やっぱ主役って難しいわ、これ。誰かさんのペースにいっつも流されて引っ張られてばっかりだ。これじゃ主役って感じしない。けどまあ、の言いたいこともなんとなく分かる気がした。きっと、「君の人生は君が主役なんだぞ!」的な励まし、だった、と思う。いまいち分かり難い、回りくどい言い方だけど、こっちは日本語不安定な同居人と毎日過ごしてるんだ。流れを読んで相手の言いたいことを察する能力は結構鍛えられてる方。俺は、やれやれって呆れる振りして、ちょっと笑った。自分より低い位置にある彼女の頭をぽんぽんと優しく叩いて、「ありがとな」ってお礼を言う。が顔を上げて、俺をじぃっと見つめた。何か言いたげに、じぃ、っと。 「ん?どした?」 「…綴くん」 少し、どきっとする。いつも、つづるんつづるんって俺に構ってくる彼女が、不意に口にする「綴くん」って名前は、なんだか、特別だ。こうやって、見つめられながら呼ばれると、ちょっと照れる。特別な響だ。「主役」って言葉みたいに、特別。 「ヒロイン枠、あいてる?」 「…え、」 「つづるん主役なら、私ヒロイン立候補したいなあ」 それって、結構、聞いてて照れる台詞だって自覚ある?…のことだから、ないだろうな、多分。ああ、もう、なんでいっつもそういう台詞、言えちゃうんだろうなあ、この人は!(本当なら、俺が言いたかったのに!)もうすっかり、俺にとってが特別なんだ。振り回されるのだって、なんだって、「が主役だから仕方ないな」って思うんだよ。今俺の見てる世界の中で、一番きらきらしてる、ヒロイン。本人は、「主役はつづるんだよ!」なんて言うんだろうけど。俺はいつからかが主演の舞台の登場人物になっているのかもしれない、なんて、思う。ここのところ、しょっちゅうだ。俺の心をぎゅっと掴んで離さないような台詞を、役を、完璧に演じてみせるんだから、敵わない。 「…そうだな。脚本、俺が書いていいなら」 「もちろん!つづるん先生脚本じゃないと!」 「じゃあ、」 「じゃあ?じゃあ?」 「ヒロインには『つづるん』じゃなくて『綴』って呼んでもらうけど、どうっすかね」 目をまんまるにしたが、俺の言葉に一瞬、きょとんとした。俺は俺で、さらっと自分の口から出てきた言葉に、内心ちょっとびっくりしてる。あと、「綴くん」じゃなくて「綴」って言っちゃったことに頭抱えたくなってる。なんでさりげなくちょっとハードル上げたんだ俺。言い間違えた、マジで。いや、でも、呼んでほしくないわけじゃないんだけど。とか考えてたらなんか恥ずかしくなってきた俺今顔赤いかもしんない。こほん、とわざとらしく咳払いして視線をちょっと泳がせたら、がふきだして笑った。一旦笑い出すと止まらないのか、けらけら笑った。「そんな笑うなって」って言いかけたら、聞き慣れた三文字に遮られた。つづる、って。 「綴ー!」 「っ、あー、もう」 「つーづーるー!」 「分かったから、ちょっと」 「好きだぞー!綴ー!超すき!愛してるー!」 「な、ちょっ、声がでかいし!」 「あ。いたいた!二人とも早くおいでー!ケーキ切っちゃうよ〜」 「待って監督!今つづるんに愛の告白してるからー!」 「えっあっごめんね邪魔して」 「ちが、っ!こら!」
僕の為の君、
君だけの僕。 |