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「いつまで寝てるんですか!!起きて!!朝ですよー!!朝日!!起きてー!!カンカンカン!!」 「んん…うっさ…え、なに…うっさいんだけど…僕今日休みなんだけど…」 「休みだから起きるんですよ!!休みじゃない日だって起きるでしょう!人間は毎日毎朝起きるんですよ!」 「いや休みだから寝るの…普通の人間は寝てるの…休みの日は満足するまで寝るもんなのオヤスミ」 「だめです!起きてください!目を閉じない!ドントスリープ!ドントドリーム!ユーアーウェイクアップ!」 「ワタシエイゴワカリマセーン…ぐー…」 「うがー!ユーアークレイジー!かくなる上は仕方あるまい…この手は使いたくなかったが…」 「ん…?」 パアァン!!! 「うっっせ!!!ちょっ、はあ!?なんなの!!?なんで人が寝てる耳元で風船割ったの!?バカなの!?」 「おはようございます!清々しい朝ですね、透さん!」 「何も清々しくないから。最悪な目覚めだよ!」 「何を言うんです!世界が生まれ変わったような朝です!この素晴らしき今日という日に乾杯!」 大袈裟すぎるほどに今日という日を煽て持ち上げてそれはもう幸せなことのようにキラキラした顔でカーテンを勢い良く開けた彼女に僕はそっと口元を引き攣らせた。しかし開いたカーテンの向こうから眩しいほどの朝日が僕の目を焼きつくすわけでなく、窓の向こうに広がるのはどんよりとした曇り空。雨でも降ってるんだろうか。それとも止んだか。「……ちょっと雪がぱらついてたそうです」ああそう。今日は結構冷えるらしい。冬の朝というのは本当厄介なもので、僕はますます布団から出る気が失われた。「全然素晴らしい朝には思えないんだけど」と溜息吐いてもう一度布団に潜ろうとしたらがあろうことか窓をがらりと開けた。 「寒っ!寒いから!!閉めろバカおいコラ!!」 「なんでこんな寒いんですか天気悪いんですか!せっかくテンションアゲアゲな一日にしようって張り切ってる自分がバカみたいじゃないですか!全然テンション上がんないじゃないですか!晴れろ!!」 「だから寒いって言ってるでしょ閉めろ!なんで寒いって知りながら開けたんだよ!こっちからすればもうすでに今の時点でテンション上がりすぎてて迷惑だから!なんなの君の今日のテンション!」 「だって透さんの誕生日なのに!」 はあ?って言ってやろうとしたけど思ったより本気でしゅんとした顔でが振り返ったので、あんまり不機嫌な声が出なくてぐぬぬと唸って引き下がった。いやべつに納得したわけじゃない。べつに僕の誕生日が天気に恵まれなくってもどうだっていいし、そもそもこんな歳になってまで誕生日が特別な日だなんて思ってないし、そりゃあに頼まれて今日は休み取ったけど、普通に昼間で寝て過ごして適当な一日にするつもりだった。なのにこのの無駄にうざいハイテンション。温度差。 「うう〜気が滅入る!この寒さ!天気!全然お出かけする気にならない!」 「いや元から出かける気ないけどね僕は」 「せっかくの透さんの誕生日なんですよ!いいお天気の中出かける予定だったんですよ!」 「だから僕は出かける気なかったってば元から。車出すの僕でしょ?出掛けないから」 「なんで晴れてないんですか!透さんの誕生日なのに!」 「知らないってば」 「透さんの誕生日だからですか!?だから晴れないんですか!?透さんのせいじゃないですか!!どうにかしてくださいよ!」 「なんで僕が怒られる流れ!?…っていうかそもそも、……」 はあ〜、って溜息吐いて視線をふと窓から部屋全体に移したとき、一瞬何が起こってるのか分からなくて固まった。そういえばさっきが何故か風船を持ってたけど、と頭の端っこで思い出して、口元が引き攣る。部屋に何故か色とりどりの風船がばらまかれていた。あとハッピーバースデーと書かれたプレートが天井からぶら下がっていた。あと花紙で作った花が飾ってある。言葉が出なかった。なんだこの部屋。昨晩寝る前にはいつもの部屋だったはずなのに。なんだこの部屋。超馬鹿っぽい。 「……」 「あっこれびっくりしました?えへへ頑張ったんですよ飾り付け」 「あー…え?これ全部自分でやったの…?(引くわぁ)」 「ええもうこの日のために徹夜して準備をしたんですよ!」 「へえ〜、僕が寝てる間に一人で…引くわぁ」 「引くんですか!?」 「おっとゴメン心の声がつい。なんでもないなんでもない。片付けが面倒そうだなって思っただけ」 「感動しないんですか!?自分ひとりの誕生日のためにここまで盛大に準備されて嬉しくないんですか!?誕生日パーティーなんて開いてもらったことないでしょう透さんのことだから!折り紙で作った輪っかとか憧れて幼少期を過ごしたでしょう透さんのことだから!」 「うるさいよ憧れてないよむしろ馬鹿っぽくて恥ずかしくてそんなパーティー開いてる奴らを馬鹿にしてたよ僕は!」 「うわっ予想通りだ寂しいひとだ」 「おいなんだと」 「とにかく!今日は一年一度の大切な日です!盛大に祝いましょう!」 「いいよ僕は祝ってもらわなくても。ゆっくり寝てたい」 「…そうですか…分かりました。じゃあ本格的な誕生日祝い開始は午後からにしましょうか…」 「ああうん、それがいいよ。午後ね。夕方頃とかでいいんじゃない」 「じゃあそれまでに買い物や準備を済ませなくては!さあ出掛けましょう透さん!!」 「えっ結局起こされるの僕」 「さーて買うものはえっと…あっ透さん何が食べたい?今日は私が腕に塩をかけておいしいお料理を作りますから!」 「なんで塩かけた?違うでしょ、『より』ね。腕によりをかけてもらわないと困るからね」 「透さんの好きな食べものは…あ、キャベ」 「肉が食べたい。肉。僕今日すっごく肉が食べたい気分」 「じゃあオムライスにしましょう!」 「え〜〜?駄目だこの人話通じない〜〜今の会話のどこにオムライス要素あったの」 「私オムライスしか得意じゃないですもん最初からオムライスの予定でした変更は認めません雨天決行です」 「じゃあ最初から聞くなよなんで聞いたのさっき。それにいつも君のオムライス卵ぐっちゃぐちゃじゃん」 「でもテレビでよく見る人気オムライスも卵ぐっちゃぐちゃじゃないですか」 「あれはぐっちゃぐちゃなんじゃなくてトロトロしてるの。君のはぐずぐずしてるの」 「愚図だってトロいってことです仲間です」 「あーいえばこーいう…もうさぁ、出前とかでよくない?君料理下手なんだから無駄に頑張んなくていいってば」 「出前!?だめですよーそんなもう誕生日だからって贅沢は…」 「えー?べつにいいじゃない。お寿司とか食べたいなー」 「むっ。だめですそんな贅沢を…あっ!?ねえ透さんこのお菓子CMでやってた新発売のやつ!リッチチョコ!ちょっと高いやつ!ねえ買ってもいいですよね!?誕生日なんだからちょっとくらい贅沢してもバチ当たりませんよ!買ってもいいですよね!?答えは聞いてない!!」 「ねえ誰の誕生日だか分かってる?数秒前と言ってること矛盾してるんだけど分かってる?聞けよ」 「チョキチョキ…カキカキ…」 「何してんの」 「パーティーグッズを自作しています」 「まだ飾り付けするわけ?後片付けめんどくさくなるからさぁ、ほどほどでいいんじゃない?」 「だめです!手抜きなんぞしませんよ私は!」 「あっそ。で?それは何を飾り付けるグッズなわけ?」 「輪っかです」 「ああ、朝も言ってた折り紙で作った輪っ…え?折り紙じゃないじゃん。でかいじゃん」 「透さんの肩に掛ける輪っかですよ。『本日の主役』って書くやつ」 「ウワッ一番恥ずかしいやつじゃん何が楽しくてふたりきりの空間でそんな浮かれた襷つけないといけないの?」 「あと百均で買った鼻眼鏡とアフロカツラ」 「ねえ僕の話聞いてる?僕と君しかいないんだよ?なんでそんな羽目外す必要あるの?何が盛り上がるのソレで。嫌だから。僕絶対つけないから」 「何が楽しいかって!?誕生日だから楽しいんですよ!!何が盛り上がるかって!?誕生日が盛り上がるんですよ!!絶対似合いますよほらアフロブフーーーッ似合わな」 「(ムカつく)」 「そうそう一番大事なケーキなんですけど!」 「何。また君が作るとか言い出すわけ?言っとくけどね、僕は買ったケーキしか食べたくないから。手作りとか全然うれしくない」 「そう言うと思ってちゃんと買いましたよ」 「…え?どこで?いつのまに」 「あのスーパーとかで売ってる出来てるスポンジのやつ。これに私がクリームを塗って完成です」 「一番やってほしくない手抜きだよ腹立つ」 「何をのせればいいですかね…キャベ」 「ねえしかもこれ何号のケーキ!?でかいんだけど!僕ら二人しかいないのにこの大きさ!?」 「そうですだから二等分です。ホールケーキの2分の1を自分で食べていいだなんて贅沢ですよね!幸せですよね!幸せ!です!よ!」 「いやぁべつに…この歳でそんな…いやぁ?」 「もう〜誕生日迎えて急に年寄りぶるなんてもう〜まだまだ若いですよっ足立さん!いけますって!!」 「あ」 「はい?」 「名前」 「はっ…ちがう、透さん!」 「慣れないなら無理に呼ばなきゃいいのに」 「うーーっ今日こそは今日だけはノーミスでいきたかったのに…朝からいい感じに呼べてたのに!」 日が落ちてからは余計に馬鹿みたいに寒くて、コタツに入って僕はただぼけーっとしてた。料理もケーキも全部一人でやるって言ったんだ、べつに僕が手伝いたくなかったわけじゃない。面倒だったわけじゃない。ほら僕、「本日の主役」だからね。主役はただ待ってればいいってわけ。そうしてはさんざん僕が文句言ったぐちゃぐちゃのオムライスを作ったし、下手くそでセンスのカケラもなくクリームを塗りたくったケーキを完成させた。そして、カツラも鼻眼鏡も掛けなかったけど、せっかく作ったんだ手作りなんだとうるさく粘られたので本日の主役襷は掛けてやってた僕が、コタツでうとうとしている間に、勝手に三角帽子をのせた。目を覚まして顔を上げたらずり落ちてきたので外して床に放り投げたけど。 「さあ起きた起きた〜!食べましょう!今日のオムライスは自信作です!じゃん!」 「あー…うーん…うん…」 「えっ何かコメントをください一番反応しづらい」 「いや…うん…まあ…うん、はい」 「コメント!!コメントは!?」 見た目はいつも通りぐちゃぐちゃ。だけど味は、まあ、普通だ。これといって変哲もない普通のオムライスなんだろう。期待した反応を得られなかったことが少し不満そうに口を尖らせていたも、ひとくち自分の自信作を口に入れると満足気な表情に変わる。 「透さん!ご飯を食べ終わったらケーキが待っていますからね!」 「はいはい。え、あれ今日で全部食べるの?」 「えっ違うんですか」 「僕の半分あげる」 「えっ!?ただでさえ一個の半分なのにその半分がさらに私に…!?ということは四分の三?75%!?幸せ!」 「君が甘いもの好きなのは知ってるけど、ああいう安っぽいスポンジでもなんでもいいんだ?」 「ケーキはおいしいものですから!ケーキはケーキとしてうまれた時点でおいしいという絶対の決まりがあるのです!よって私はすべてのケーキを好きになるに決まっているのです!」 「そういうもんなの?」 「そういうもんです!だからあだ、…じゃ、なくて」 「あだ?」 「あ、…あだだだ足つった痛い」 「無理やりすぎるでしょそれ」 「透さんも!」 「なに」 「透さんも生まれた時点で透さんになるって決まっていたんだから、私が透さんのすべてを好きになるのはきっと必然だったのです!」 僕はぽかんと口を開けて固まる。僕が固まったのお構いなしに、おいしそうにオムライスを食べている彼女。彼女があんまりおいしそうに食べるものだから、今自分の食べているものはそんなにおいしいものだったのか、と素直に感心してしまいそうになった。騙されるな、これは普通のオムライスだ。数秒後、自分だけが動揺したのが馬鹿らしくなって、誤魔化すように皿の上のものを胃へかきこんだ。さっきより美味しく感じたのはきっと気のせい。うん、やっぱり普通のオムライス。 「ねえ」 なんでそんなに僕の誕生日を本当に素晴らしい日みたいに祝ってんの。なんでそんなに僕のこと好きなの。 「どうかしました?透さん!」 「……早くちゃんと慣れてね。『透さん』って。僕だって君のこと、ちゃん付けやめたんだから」 僕の言葉に、「そりゃあもちろん!」と上機嫌に胸を叩いた。表情は明るい。幸せそうな笑顔だ。「慣れないなら無理に呼ばなくていい」って今までは言ってたけど、やっぱり、なんとなく、「透さん」という響きのほうが好きかもしれない。今だって、さっそく「透さん!」と呼んできたに、にやけそうになる顔をどうにか隠してやろうって、無駄に足掻いてる。 「どうですか!ハッピーなバースデーになってますか、今日!今!」 「ん?んー…君はどうなの」 「えっ今日は私の誕生日じゃないです」 「知ってるよ。君の誕生日はまだ先じゃない」 「えへへ!これだけ盛大に祝ったんですから私の誕生日パーティーも倍返しですね透さん!」 「えっ何それが狙い!?今日の鬱陶しいくらいの祝い方それが理由なわけ!?」 「嘘ですよ!」 「あっそ!」 「私はもちろんハッピーですよ。透さんの誕生日祝えて!」 からっぽになったお皿に向かって両手を合わせてごちそうさまをして、僕ににっこり笑う。「透さんが幸せに感じてくれたなら、私はもっと幸せですよ!」って、迷惑なくらい明るい声で言った。本当、迷惑なくらいだ。朝から騒がしい起こされ方するし、天気は悪いし寒いし、食べたいって言ったわけでもないオムライスとケーキが用意されるし、部屋の飾りつけは目に痛いし、変な被り物とか被らせられそうになるし。こんなに迷惑で、騒がしくって、ばかみたいで、うれしい、日だっけ、僕の誕生日って。 「…ああそう、僕もまあ、君が幸せなら、幸せなんじゃない?」 本日、君の主役 |