Q:誰にチョコ渡す?→A:足立さん


「足立さん足立さん!もうすぐバレンタインデーですね!じゃんじゃーん!チョコレートのお菓子の本買ったんですけど見て見て!うわ〜おいしそうだな〜おいしそうだな〜!ねえねえ足立さんどれが食べたいですか!」
「え、要らない」
「は!!?」
「え、そんな憎しみのこもった顔で睨みつけるほど?要らないってば」
「な、な、なんでそんなこと言うんですか?何強がってるんですか?非モテ男子が何を贅沢なこと言ってるんです?まともに貰ったこともないでしょうに何故…あっ分かった学生時代の『死ねっ!バレンタイン』な気持ちが足立さんの心には今なお根強く残っているのかもしれませんが大丈夫そんな悪いイベントではありません!なんたって今の足立さんには!私が!いま、」
「君ってほんとごく自然に失礼な発言混ぜてくるよね?要らないよ、ホントに」
「な、なんでですか…?」
「え…だって君下手じゃん料理」

 ぴしゃあ!と言い切られて、同じようにぴしゃあ!と自分の背後に雷が落ちた気分だった。何食わぬ顔で、当たり前のように言い放った足立さんは、私のショックなど微塵も気に留めない。頭の後ろを掻きながら、「いや〜べつにくれるのはいいけどさあ、市販の物にしてくんない?ちょっと高いやつ」とか言ってきた。なんて人だコイツ…愛しい彼女ちゃんに言う台詞じゃない…!クズかな…!?クズだな…!!私はぎりぎりと悔しさに歯を食いしばりながらも、その悔しさを必死に鎮めながら、なるべく平静を装った声を絞り出した。

「下手、なのはァ…否定しませんけどォ…だからこそそんな料理下手な私が頑張って愛をこめて作ってェ…喜んでもらおうとォ…」
「(地獄の底から絞り出す様な声だな)いや、いいってば。期待してないから。資源と時間と愛を無駄にするのも可哀想だし。ゴディバのチョコとかにしてよ」
「だからなんでちゃっかり高いやつっていう値段指定はあるんですかクズかよ!?」
「そりゃ君がすごく料理上手くて家庭的で趣味はお菓子作りですっていうくらいの腕と可愛げがあったら手作り貰いたいなーって僕も楽しみにしてたかもしれないけどさあ、そういうわけじゃないでしょ?僕って素直な男だからさあ、ぐっちゃぐちゃで美味しくなさそうなお菓子目の前に出されて『君が作ったものならなんでも美味しいよ』とか白々しい嘘吐けそうにないんだよねえ。っていうか僕が言うと思う?思わないでしょー。だからさ、君を傷付けない為にも?お互いの為にもさ?手作りはやめない?」
「…足立さん…」
「バレンタインくらい、君にひどいこと言いたくないしさ」
「足立さん…」
「ね?」
「……なんでどう足掻いても上手く作れないこと前提なんですか…?」
「しょうがないじゃん微塵も期待できないんだから」

 スパッと言い切った足立さんに再度私が心の傷を負うも、本人は本当、何くわぬ顔だ。え、当たり前じゃん、みたいな顔だ。確かに私の料理の腕は絶望的かもしれない。家庭科の料理実習では周囲の同級生のみならず先生にも「もうやめてくれ何もしないでくれ」と言われるし、飯ごう炊飯では真っ黒焦げでぶにぶにぐにゃぐにゃした何かを作ってしまったし、キャベツとレタスと白菜の区別未だについてないし、この前家でたまには練習しようって頑張ってみたら異臭とボヤ騒ぎで大変なことになったし。だけどそれはそれ、これはこれ、だ。料理っていっても今回のそれはお菓子作りだし?何より、大事なのは愛だ。愛があればなんでも出来る。最初から上手くは行かないかもしれないが、根気強くやればいつか美味しいものが作れると思う。好きな人の為なら頑張れる。だってそういうものだ、バレンタインデーって!

「ねえ、よくないこと考えてるでしょ」
「か、考えてないです!わかりました手作りは諦めますよ!でもせっかく買ったから一緒にチョコレートの絵本読みましょう足立さん」
「いやべつにお菓子作りの本は絵本じゃないと思うけど…まあ見るだけなら」
「ほらおいしそうです!どれが一番おいしそうですか?」
「え?うーん…見た目的には僕はコレかな」
「ウワッ『どの子が好み?』って訊かれて『見た目ではあの子かな〜』って言うクズそうな男子だ…」
「なんで。見た目以外でどう決めるんだっての」





「っていうことがあったんだけどさあ」
「はい」
「あの子絶対あの本に書いてあったやつ作ろうとしてるから君からも全力で止めてくれない?」
「足立さん…本気ですね…」

 正しくは、「本気で嫌なんですね」だ。深い溜息を吐く足立さんを横目に、俺は苦笑いする。例によってジュネスでサボり中の足立さんは、憂鬱そうな目で、店内のバレンタインフェアの売り場の方向を眺めていた。

「君だって知ってるでしょ。あの子が壊滅的に料理出来ないの」
「知ってますよ。けどまあ…周りにはそういう女子が多いので感覚が麻痺してます」
「うわ。やだなあ、夢が壊れる。今時の女の子ってみんな料理しないんだねえ」
「けどみんな頑張って練習してると思いますよ。この時期は特に」
「頑張っても結果が伴わないんだよねえ」
「まだ分かんないじゃないですか」
「分かんないと思う?」
「…分かんない…と…思いますよ」
「いや、自信無いじゃん。目ぇ逸らしてるじゃない」

 正直、手料理って怖い。それは俺も十分理解している。天城や里中達の手料理の出来を思い出そうとすると目眩がするし、それに負けないくらい、足立さんの「恋人」の料理の腕も壊滅的だ。以前一度その腕前を見せてもらったことがあるが、俺は一口の試食でギブアップした。足立さんに至ってはあろうことか一口も手を付けなかった。散々ダメ出しをして、しかし口ではそう言いつつ最後には仕方なく食べてあげるのかなと思ったがそういうわけでもなかった。さすがに恋人に対してひどいんじゃないか、可哀想じゃないか、と思ったのだが、「食べられないものを寄越すのが悪い」の一点張りだった。彼女も彼女で、「次は頑張るから!」というポジティブさでめげていなかったが。

「不味くても愛があればイケますって」
「いやいや、他人事だからそう言えるんだよ。愛は胃薬の代わりにはならないから」
「頑張って食べてあげてくださいよ」
「無理だってば。そもそも…」
「なんですか」
「『手作り』って、嫌だね。なんか」
「……え。足立さん、家庭的な女の人がタイプって言ってませんでした?」
「うん、理想だったよ?僕の為に美味し〜いご飯作ってくれる恋人ね」
「じゃあ…」
「でもさあ、思わない?結局、店で買ったり食べたりする物が一番だよね。それが一番、確実に美味しいように作られてるんだから。変わらない味。約束された美味しさ。…好きな人の為ーとか言って、愛情こめましたーって言って、元から美味しいものがまあ通常より何割か増しで美味しく感じることがあったとしても、マイナスからの出発の料理がその『愛情』で『美味しい』にはならないんだよ」
「…そう、ですか?」
「そうだよ。実体験だよ。これ以上の証拠は無いでしょ」
「……」
「愛情なんか無くったって美味いもんは美味いし、逆に言えば愛情がたっぷり入ってたって不味いもんは不味いよねって話」

 元も子もない様な持論をぺらぺらと話す足立さん。そんなに、彼女の料理の腕が気に入らないのだろうか。憎らしいのだろうか。そう思ったけれど、話しながらわざと大袈裟に肩を竦ませる足立さんの表情は、おどけるようでいてどこか、寂しいような、悲しいような、そんな表情だった。何かを諦めるみたいに。何を?彼女の手料理の成功の見込み?そんなんじゃなくて、そうじゃなくて。足立さんはどうしてそんなに悲しいことを言うんだろう。どうしてそんなに頑なに、仕方ないことみたいに、自分へ言い聞かせようとするんだろう。

「……なーんて、もっともらしい理由付けて正当化しときたいだけなんだけどね」
「どういう意味ですか」
「だって君なら本当に不味くても食べてあげそうじゃん。恋人の手作り」
「…善処しますよ、なるべくなら」
「でしょ。そういう事する君みたいな人間のほうが異常で、僕みたいに無理して食べない人間の方が普通だ、って」
「…」
「そう思っておきたいんだよね。僕は」
「足立さん…」
「まあ、でもちょっとは羨ましいかなって。君みたいに、無理してでも食べてあげられる様な人間が。手料理の中の『愛情』っていうの?そういうの、ちゃんと見つけて掬ってあげられるような人間」

 酷い出来の料理に対して、酷いダメ出しを吐いていた足立さんの事を思い出す。頭ごなしに「食べるわけ無いだろ」と突っぱねていたように見えて、本当は、少しは、食べてあげようという気はあったのかもしれない。出来ることなら、そうしてあげたいという気持ちが。だけど足立さんは随分…ひねくれた人だから。難しいのだろう。どうすれば、愛情のこもった料理の、その「愛」を、味わってあげられるのかが分からない。けれど相手の愛情が足りないわけでもない。食べてあげられないのは足立さんの方に愛が足りないと傍からは思いがちだけど、そういうわけでもきっとない。ただ、分からないだけなんだ。不慣れなだけなんだ。間違ったことでは、ないと思う。どっちが悪いとかじゃなくて。

「…足立さん、前に言ってたでしょう。母親の作る煮物嫌いだったけど、本人はきっと知らなかっただろうな、って」
「うん?言ったけど。それが何?」
「それに比べたら、凄い進歩ですよ。誰かが作った食べたくないものに食べたくないって言えるの」
「……それ進歩なの?」
「マシになってると思います」
「どこがどうマシなの」
「だって、相手が食べたくないって気持ちも知らないで、何も分からないままじゃ、きっと悲しいですよ。作った人間も、嫌いだって言えない人間も」
「…」
「俺は、言ってくれた方がいいです。嘘吐かれるより、よっぽど」

 ふうん、と短く、そっけない返事が横から聞こえる。「でもさ、そんな簡単な話じゃないんだよ」とすぐに付け加えられた。首を動かして足立さんの方を見たら、足立さんは俺の方に見向きもしていなかったけど、しばらくして告げられた「僕は君とは違うから」という台詞の「君」は、間違いなく俺のことを指していた。







「もしもーし。足立でーす。生きてるー?ちょっとー」

 コンコンコン、と何度も扉を叩いているんだけど、返事はない。インターホンも勿論何回も押した。携帯電話を開いてもメールの返信は無いし電話をしても電源が切られている。深く溜息を吐いて、やれやれとこめかみを押さえた。どうせこうなるって予感はあったけど、本当にこうなっちゃうんだよなあ。呆れて、ふと思い立ってドアノブを軽く捻ってみると、普通に開いた。鍵は掛かってない。なんだ。いつも掛かってるから今日もわざわざインターホン鳴らしてやってたのに。まあ、返事が無いんだからこういう場合は仕方ないよな、と勝手に家に侵入することにした。どうせ、彼女の居る場所なんて一つだ。迷わずキッチンをのぞこうとして、でも漂ってくる異臭に鼻をつまんだ。ちょっとこの先に進むことを躊躇う。

「…出来れば僕がそっちに行くんじゃなくて君がキッチンから出てきてほしいんだけど」

 そう、キッチンの隅っこでどんよりうずくまってる人影に向かって話しかけてみる。反応がない。その代わりオーブンから「プシュウ」って音がした。なんなんだろう。怖くて見たくないけど。あとなんでの髪の毛にチョコとか何かの生地が飛び散ってかかったみたいになってるんだろう。混ぜてる間にちょっと飛び散ったってレベルじゃない。明らかに何らかの爆発が起こったとしか思えない。キッチンはどこもかしこもぐちゃぐちゃ。壁にも床にも何かが飛び散ってる。焦げたような臭いとまた別の何かの臭いが混じったような変な異臭もする。嫌だなあ、これ、慰めないといけない流れじゃん。

「だから言ったじゃん。手作りはやめてよって」
「……」
「どうせ今回こそは大丈夫だーとか変な自信持ってたんでしょ。懲りないねえ、君もさあ」
「…」
「いい加減認めなよ。君ね、いっそ感心するくらい本当に料理の才能無いんだよ。頑張るだけ無駄なんだってば。僕もさあ、もう君に上手くなってほしいとか思うの諦めたからさ、君もやめない?それ。悲しくなるだけだよ」
「…、…っ」
「ねえ……あ〜もう、ほらそうやって泣く〜」
「だってぇ…だってぇ〜…」

 なんで泣くかなあ。僕すごく優しく諭してあげてるじゃん。(たぶん僕以外の人間はこんな言葉を優しい諭し方だとは言わないんだろうけど)深く深く溜息を吐いて、しぶしぶキッチンの中に足を踏み入れる。なんか床に零れた変な液体を踏みそうになった。厄介な障害物の数々を避けて、やっとの元に辿り着いた頃には、彼女はすっかりわんわん大粒の涙を流して泣いていて、これを慰めるのは骨が折れるなあって、他人事みたいに考えた。
 きっと僕があの堂島さんとこの甥っ子くんみたいに、優しくってひねくれてない真っ当な彼氏くんだったなら、彼女に優しい言葉を掛けて、優しい顔して、ばかだなあそんなに泣くなよとか愛しいものを見るような目で見詰めるんだろう。けど僕はこういう人間なんだよ。落ち込んでる彼女に追い打ちかけて泣かせてる人間なんだよ。正直ね、泣いてる君を見たってさ、めんどくさいなあと思っちゃうんだよ。そう思わないでいられる方法を知らないんだよ。僕やっぱりその「愛」ってやつが足りてないのかね。君を、愛せてないのかな。分かんないな。(そんなこと考える自分にすら、サムいなあって反吐が出そうになるんだよ)(やっぱ向いてないな僕、君のことちゃんと好きになるの)

「足立さん、ごめんなさい」
「何が」
「ちゃんと作れなくて…」
「期待してなかったからいいよ。寧ろ僕の話無視して手作りに挑戦したことを謝ってほしいくらい」
「今日こそちゃんと、おいしいの、作りたかった」
「うん。そう思ってたんだろうなっていうのはすごく伝わってくるけど。でもやっぱりさ、無理に頑張らなくていいから」
「ごめんなさい…」
「最初からやめとけば、君がこうやって泣くこともなかったんだし」

 いや、たぶん僕の容赦無い言葉で泣いたんだろうけど。…いや、この子のことだから違うかな。ほんとに、ちゃんと作れなくてごめんっていう気持ちだけで泣いてるのかな。

「足立さんのせいで泣いてるんじゃないです」

 考えていたら、心の声を読み取ったように不意にがそう言った。「足立さんが、『泣かせちゃった』って思うことじゃないです。思ってほしくないです…!」そう続けて、しゃくり上げて、ぐすぐす鼻をすすって涙を拭い、が僕の顔を見た。

「なんでうまく出来ないんだろう、愛だけはあるのに…」
「愛だけあっても仕方ないんだよ」
「愛さえあればなんでも出来るって思いたいのに…愛はあるのに…愛が足りなくて失敗してるような気がして…」
「はあ」
「チョコケーキ、爆発するし…」
「ほんとに爆発したんだ」
「そこの、残骸…」
「うん。とりあえず捨てる?」
「鬼かよ…ここは無理やり食べて『あっそんな失敗作たべないでいいのに!』『お前が作ったものなら何でも美味しいよ』ってなるじゃん普通少女漫画では…」
「僕が食べると思う?」
「思ってないです…冗談で言っただけです…」
「でしょ」
「はい」
「でもね」
「はい…」
「今日くらい、本当はそういう台詞を言ってあげたいって思ってるよ。なのに出来ないんだよ。笑っちゃうよね。優しい言葉の一つも出てこない」

 嘘は得意なはずなんだ。へらへら笑って適当に慰めてやれるはずなんだ、普段の僕なら。君以外が相手なら。なのになんでか知らないけど、君には出来ないんだ。嘘がつけない、なんて随分聞こえがいいけれど、僕の場合のソレは「優しく出来ない」っていうのと同じ。なんでだろうな、普通好きな子には優しく出来るもんなのにさ。ドラマや映画の世界では、そうだったはず。まあ仕方ないかな、僕は映画の主人公なんかじゃないんだし。優しい人間じゃないみたいだし。
 ごめん、という一言だけでも伝えようと思った。君が望んでるような優しい人間じゃなくてごめんって。でもそんな言葉を言ったところで、多分「でもそんなのはじめから分かってたでしょ」「分かってて僕と付き合ってんでしょ」って余計な一言を続けてしまうんだろうな、僕のことだから。手を伸ばして、前髪に付いた手作りお菓子の残滓を拭ってやろうとしたところ、が声を発した。思わず手を止めてしまう。さっきまでぐすぐす泣いてた人間のものにしては、はっきりとした意志を持った声だったから。

「足立さんに、失敗作を食べて美味しいって嘘ついてほしいわけじゃないです」
「…うん」
「うまく作れないのは私のせいなのに、なんで足立さんがそんな顔するんですか。美味しいって言ってほしいけどそのために頑張るのは私の方なわけでして、足立さんが変わる必要はありません。私を甘やかす必要ありません。いつもみたいにキツイこと言ってくれればいいんです」
「……マゾだね」
「そうですね!」
「でも僕が優しくないだけで僕以外の人間だったら多少は無理して食べてあげてるかもしれないよ。悲しくない?」
「私が好きなのは足立さん以外の人間じゃないからいいんです足立さんです!」

 きっぱりとそう告げた彼女の目にはもうちっとも涙なんか浮かんでなかった。「妥協して言ってもらう『美味しい』が欲しいわけじゃないんです!いつか本当にめちゃくちゃ美味しいの作って心から『美味しい』って言わせます!」ってめちゃくちゃ叶いそうにない野望を声高らかに宣言していた。いや、たぶん叶わないと思うよ、望み薄いと思うよ、っていうかもう手料理やめろって言ってんじゃん僕だってねえ毎回毎回君に酷いこと言いたくないんだよ。言いたくない。のに、さあ。(なんで、それでいいですなんて言っちゃうんだよ、ひとの気も知らないで)
 君が一生懸命作ったものを、「食べられないゴミ」としか認識しない自分の脳味噌が嫌だった。ソレをゴミ箱に入れたところで大して胸が痛まない自分が嫌だった。優しくしたいのに出来ない、と言えば自分が少しはまともな人間になれるような気がしたけど、きっとまともな人間だったらそんなこと考えない。
 気付いたら、もう自分の服が汚れる心配も考えずに、彼女を腕の中に抱きしめていた。さんざんキッチンで格闘していたせいか、彼女自身から甘い匂いがする。もうチョコとかバレンタインとかどうでもいいから、君のことを食べちゃえたらいいのに。

「あ、だちさん、えっえっなに…?大丈夫?もう渡せるチョコは残ってる板チョコしかないけど食べる…?」
「…市販の用意しとけって言ったじゃん」

 いつかやってくるだろうか。僕が彼女の料理を無理にでも食べてあげられる未来じゃなくて、僕が彼女の料理を食べてなにこれ美味しいって驚く未来。どっちのほうが望みあるんだろう。僕ら二人、どっちのほうが愛が足りてないんだろうか。足りないわけではないのかもしれないけど、足りてないってことにしといてもべつに良い気がした。だって僕らきっと、足りない分を知らないうちにいつの間にか、相手に補ってもらっているんだから。こうやって抱きしめるとそれがよくわかる。(ああ大丈夫だ、僕やっぱりこの子の事好きだ)




優しい歌が歌えない
(だけどそれでも、君のための、僕のための、優しくない歌を二人で口ずさめたならきっと、)