足立さん、あのね、ずっと聞きたかったんです。どうしたら、こうならなかったと思いますか。どこで止められたんだろう。あなたが小西先輩のこと殺す前に私があなたに会えてたらさ、いやまあお顔の可愛さで私は勝てないかもしれないけど、好みではないかもしれないけど、同じ高校生ですし、小西先輩の代わりにほら、私で妥協してくれてたら良かったのに。女子高生と遊んで欲求不満解消できてたなら、もうちょっと足立さんの気持ちって違ってたんじゃないですか。私はいいですよ、私は小西先輩と違って拒まないです。足立さんと関係をもって、好きなようにしてくれてよかったのに。私だったらよかったのに。足立さんの目に留まったのが、私だったら
そんなことが書かれた手紙を、引き出しの奥に見つけた。ぐちゃぐちゃな文字は、これを書いた人間のこのときの精神が明らかに異常であると訴えていた。多分。いや本当に、確かに、あのときの私はおかしかったのだ。同じ高校に通う先輩を殺した犯人を、殺人犯を、たぶん、好きだった。いや殺人犯だなんて思ってなかった。わかってたら好きになんてならなかったはず。事件の犯人を仲間たちと追って、追って、辿り着いた真実が「そう」だった。酷く身勝手な理由で女性二人を殺した犯人。案外近くにいた、犯人。
引き出しの奥に手を突っ込めば、もうあと何通か手紙が出てきた。どれも全部書きかけで、字が汚くて、きっと泣きじゃくりながら書いたんだろう、なんか文字自体が泣きじゃくったような文字だもの。ぐちゃぐちゃで、自分以外には読めそうもない、ラブレターなのか恨みつらみなのかもよく分からない手紙。ぐちゃぐちゃでよかった。自分にしか読めなくてよかった。あの人に届かないままでよかった。届かないのだ。どんなに考えたって願ったって届かないのだ。あの人が人を殺す前になんて時間は戻せないし、あの人が人を殺す前に私はあの人と出会っていない。覆せない。もしもの話はもしもでしかない。
「ばかみたいだな」「若気の至りだ」「女子高生ってなんか大人の男に騙されがちだし」
独り言をつぶやいて、手紙に指をかける。卓上のカレンダーに視線が走った。二月一日。あの人は今何をしているんだろう。殺人犯って何年で刑務所から出られるんだろう。それを知ったら何か、悪いことを考えそうで、調べたくなかった。悠くんにも聞きたくなかった。手紙を破ろうと指に力をこめる。どうしたらこうならなかったんだろう。考えたって仕方ないことを、毎年この時期に考える。指が震える。あの人の笑った顔をまだ思い出せる。どうしたって救えない誰かのことを考える。救われるべきなんかじゃない男の顔が浮かぶ。ぐしゃりと手紙を握り潰して、乱暴に引き出しの奥に追いやる。きっと来年の今頃また取り出される紙屑。誰にも届かない。身勝手で最低で馬鹿みたいな手紙。