初めて彼女に付き合ってくれと告げたとき、ひどく驚いた顔をされた。どうして私?といった表情を包み隠さずに、俺の言葉の真意を探るような瞳で見つめ返したかと思うと、ただ一言、「ごめんなさい」と言った。たいへん申し訳なさそうに、絞りだすような声で。深々と頭を下げながら、そう言った。「瀬多くんには、もっとふさわしい女の子がたくさんいると思う。私なんかは、君の彼女にはなれないよ。役不足だと思うな。ごめん」
























二回目だった。俺は前回と変わらず、「好きだ。付き合ってくれ」と告げた。10月のことだ。文化祭の準備期間のときに、たまたま二人きりになる機会があったので、俺は二度目の告白をした。はひどく驚いた顔をして(二度目だ)、言葉を選んでいるそぶりを見せたあと、こう言った。「ごめんなさい。瀬多くんには、もっとふさわしい女の子がたくさんいると思う。私なんかは、君の彼女にはなれないよ。役不足だと思う」デジャブだ。
























三回目は、気持ち早めに6月に告白した。雨が降る中、俺は真っ直ぐにを見つめて、言った。「好きなんだ。付き合ってくれないか」言っていることは前回とも前々回とも同じだが、少し言葉を柔らかくしてみた。手に持った傘を取り落としそうになるくらい驚いたは、俺を見つめ返す。しとしと、振り続ける雨の音と、においが、沈黙を後押しする。ようやく口を開いたとき、はこう言った。「ごめんなさい」と。俺はぐっと握った傘の柄をそのまま砕き壊せるんじゃないかと思った。「瀬多くんには、もっとふさわしい女の子がたくさんいると思う。私なんかは」その続きは聞かなくても分かっていた。そうたしか、君の彼女になれないよ。役不足だと思う。とかそんな感じのことをはきっと言う。耳を済ませていたら、一文字も狂わず想像通りのセリフはは吐き出した。デジャブだ。

























懲りもせず四回目は、俺達の「物語」もクライマックスの12月24日に告白した。つい先日、真犯人を捕まえたばかりの俺たちは、浮かれきった気分でその日を迎える。まあ、俺にとっては四回目なんだけど。真犯人を捕まえるのも、この町でクリスマスを迎えるのも。陽介にクリスマスパーティーに誘われたが断った。たいへん心苦しかったが、俺にはやるべきことがあったからだ。俺は前々から約束を取り付けておいたを呼び出すと、告げた。すきなんだ、すごく、すきなんだ、と。結果は、変わらない。ごめんなさいと頭を下げた後、君にはもっとふさわしい子がいるから、と話す。そろそろ頭が痛くなってきた。ひどいデジャブだ。



























五回目。里中に「付き合ってくれ」と言ってみた。千枝は驚いた顔をして、すぐに顔をかわいそうなくらい真っ赤にさせて、頷いた。こんな自分でいいのかな、と照れくさそうに呟く彼女に、俺は初めてに告白した時のことを思い出していた。初めて恋人と過ごしたクリスマスはとても楽しいものになった。に、千枝と付き合ってるんだと話してみた。わあ、と顔を輝かせて、「そうなんだ!ふたりともすごく素敵だから、お似合いのカップルだね!」と笑った。みしみしと、何かの重圧に耐え切れず胸が押しつぶされそうになる。早く「次」に行こうと決めた。



























六回目。に「お前と付き合いたいんだ」と言った。自分でもなんだかおかしいくらい、声が震えそうになった。今の俺は千枝とは付き合っていないし、今のは俺が千枝と付き合ったことがあるなんてこともしらない。そもそも、今の、今回の俺には千枝と付き合った過去なんて存在しない。だってそれは、「前」での話だ。ああもう、自分でも何を言っているのかわからない。とりあえず、俺が好きなのはだった。しかしは、やっぱり、「ごめんなさい」と言った。「瀬多くんには、もっとふさわしい女の子がたくさんいると思う」彼女の言う、俺にふさわしい女の子というのは、千枝みたいな女の子のことを言うらしい。目眩がした。なんだか少し疲れてきた。


























七回目。アイドルのことについて悩み泣き出すりせを見過ごさずに抱きしめてみた。そのままの流れで付き合うことになった。に報告してみると、「あの久慈川さんと?わあ、すごいねえ!おめでとう!すっごくお似合いのカップルだよ!」と笑った。口元が引きつりそうになった。


























八回目。天城に好きだと言ってみた。付き合い始めてみると、それまで見えなかった、雪子の可愛い部分がたくさん分かる。離れるのがさみしいと言ってくれる、その健気な様子がとても好感を持てた。どうせすぐにまた戻ってくるよ、と言いたくなるがやめといた。はやっぱり、「雪子ちゃんすっごく美人だもんね!天城越えだねえ」とからかうように笑った後、「お似合いだね!」と言った。ごくごく自然に笑い返せた。ずいぶんくたびれた笑みだと思うけど。


























九回目。あいに付きあおうかと訊かれた際、二つ返事で了承した。そのあと千枝とも良い感じになったので、付き合うことにした。二股ってやつになるのかもしれないが、特に問題もなく進んだ。安心したので直斗とも恋人になった。器用だとなんでもできるものだなと自分自身に感心する。そういうこっちゃないのかもしれないが。察した陽介に「うわあ」って目で見られたが、軽蔑されることもなく、友情にヒビが入ることもなかった。に彼氏はいないようだった。今回はあまり彼女とかかわらずに3月の「エンディング」まで過ごした。ときどき学校で目で追ったりはしたけど。何の変哲もなく、いつもどおりのエンディングだった。との仲も変わらなかった。がたんごとんと揺れる電車の中で、俺は目を閉じた。たぶん目が覚めた時には、また4月11日になるのだろう。次は何をしようか。どうしようか。




























××回目。

4月。と出会った瞬間に「俺と付き合ってくれないか」といってみた。予想通り、ひかれた。ドン引きっぽい。もう俺も疲れてきているらしい。

























×××回目。

って、好きな人いるのか?」
「…え?どうして?」
「気になったから」

千枝だって雪子だってりせだって直斗だってあいだって綾音だって結実だって、付きあおうと言ったら付き合ってくれた。好きだと告げれば私も好きだよと言ってくれた。そんな、一つの「当たり前」になりつつある流れを、どうしてかは受け入れてくれない。もしかしたら俺が知らないだけで、恋人がいるのかもしれない。そうすればきっと、俺も諦めがつくだろうと思った。もう×××年も想い続けているなんて、なかなか諦めが悪い。他人事のようにそう分析した。だというのに、は少し気恥ずかしそうに苦笑して、「ううん、今はいないかなぁ」と言う。回を重ねるごとに余裕がなくなってきている俺は、その言葉を聞くと何かがプツンと切れた。頭が真っ白になる。

「なら、俺でもいいだろ」

恨みでもこもってるんじゃないかというくらい低く小さく呟いた言葉に、はわけがわからないといった表情で応える。そりゃあ、わからないだろう。は何も知らない。だって今目の前にいるは、俺に告白されたことなんて一度もない。俺が告白したのは、今のこの×××回目の世界のじゃない。ああ、そうだ、俺が好きになったのは、このじゃなくて、いちばんさいしょの、×××年なんて経つ前の、一番、一番最初のだ。それに気づくと、急に力が抜けて倒れそうになった。ふらついた俺の服を、慌ててがぎゅっと握る。「大丈夫!?瀬多くん、具合悪いの?」心配そうな声、心配そうな顔。覗きこんだその瞳に、どうしようもなく胸がきゅうっと痛んだ。ああ、俺が好きになっただ。俺が好きなのはだ。くらくらする頭をなんとか支えるけれど、もう自分が何を考えるべきかも分からない。ぼーっとする。なにも、考えられない。

「なあ、。俺、お前が好きなんだ」
「え…?」

自分では俺にふさわしくないと言う。俺が好きだと告げれば決まった返事しか返さない。ゲームの中で、特に情報を持っていない村人Aにしつこく会話ボタンを押している気分だった。そのうち「セリフ」が変わるかもしれない、何か違う答えをくれるかもしれない、と期待するだけ。だけど村人Aは村人Aでしかなくて、同じ旅のパーティに入ってくれるわけでもなければ、物語に関わってくるわけでもなければ、恋人になれるわけでもない。そうだ、はそういう「役」ではないんだ。俺の恋人になる役は、雪子か千枝かりせか直斗か、あの子たちだけで。そうか、分かった。だから、だから。

「…ごめんね」

ほら。分かってた。もう「次」を望むのはやめよう。無限ループはここでおしまい。俺はゲームの電源を切った。





エンド





オブ





エンド


































××××回目。


彼女に付き合ってくれと告げたら、ひどく驚いた顔をされた。どうして私?といった表情を包み隠さずに、俺の言葉の真意を探るような瞳で見つめ返したかと思うと、ただ一言、「ごめんなさい」と言った。たいへん申し訳なさそうに、絞りだすような声で。深々と頭を下げながら、そう言った。「瀬多くんには、もっとふさわしい女の子がたくさんいると思う。私なんかは、君の彼女にはなれないよ。役不足だと思うな。ごめん」

デジャブ。けど、これでいい。俺は彼女を想い続けることさえ出来れば。
それでよかった。