「あ、幾月さんだ!幾月さーん!おかえりなさーい!」「ってばホント幾月さんのこと好きだよね」「うん、仲良しだよね」 寮の玄関が開く音を聞いてソファーから飛び起きる私に、ゆかりと風花がくすくす笑う。予想通りの人物がそこにはいて、「いやあ、僕も嬉しいよ。君みたいな子に慕ってもらえて」なんて穏やかに微笑んでいた。紳士的な佇まい。空いていたソファーに腰掛けると、最近はどうだい、何か変わったことは?といつもの世間話を始める。順平や湊はお出かけ中だし、先輩たちは作戦室だ。幾月さんも私達との雑談の後、そちらに混ざる予定なのだろう。他愛もない話ばかりして、ちょうどいいタイミングで「あ、桐条先輩なら作戦室ですよ」とゆかりが切り出すと、「ああ、ありがとう。じゃあ私もそっちに顔を出そうかな」と立ち上がる。「私もついてっていいですかー?」と挙手すると、ゆかりたちが呆れたように笑う。けれど幾月さんはにっこり微笑んで、勿論、と頷いてくれる。バンザイをして立ち上がり、幾月さんのすぐ傍にくっついて階段を登る私。ふと幾月さんが、ところで、と私に小さく呟く。眼鏡の奥の瞳は見えない。どんな色をしているのか分からない。 「君は大人に媚を売るのが下手だね、君。そんなのじゃ騙されてあげられないよ」 それを聞いて私は吹き出して、けらけらとお腹を抱えて笑った。あー早く死なないかなこの人。 |