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きみには笑顔が似合うよ、だなんて、漫画みたいな台詞を簡単に綾時は口にする。私が、怒っていたって、泣いていたって、つまらなくたって、死にたくったって。彼はいつだって笑って、綺麗なお花を差し出しながら、わらって、と言う。愛しい、と言う。私だけじゃない。誰のことも。何のことも。花のことも、空のことも、街のことも、全てが輝いていて、綺麗だと言う。愛しいのだという。ずるい。ずるいのだ。私にはこんな世界、綺麗になんか見えないのに。汚くって冷たいものだって思うのに。私ばっかりが、真っ黒なの、ずるいわ。だから私は綾時の胸をドン、と押しやって、拒絶して、こう言ってやった。「そんなの、綾時は世界の綺麗な部分しか見ていないからじゃない!」綾時は私を抱きしめられなくなって行き場の無くなった両手を宙に浮かばせて、きょとんとしていた。だけどすぐにこう言った。 「当たり前だよ。だってそうじゃないと、滅ぼしてしまいたくなるもの」 私は一瞬息を忘れた。けれどその一瞬が過ぎると、綾時がいつものように笑って、「なあんてね」と言って、抱きしめてきた。私は初めて、綾時の腕の中が怖いと思った。 (世界は願うよりうつくしいから/ |