ハッとひん剥くくらいに目を見開いて、俺は飛び起きる。ちゅんちゅんと漫画みたいな小鳥のさえずりが聞こえてきたような気がする、くらいの、「朝」だった。これはもうお約束の中のお約束の、夢オチ、というやつじゃなかろうか。笑うしかない。口元が引くつく。笑えない。ふと、下着の中に違和感。急激に頭が冴えていく。あー。他になんも言う言葉がない。ただ、「あー…」って。あーあ。そういえば今日は日曜日だ。




「陽介、今日元気ないね?具合悪い?」


午後になるとが俺の家に遊びに来て、適当なDVDを二人で一緒に見た。その間も、なんっか今朝の夢が頭にちらついて、相手の顔なんかまともに見れるはずがなかった。「はこんなに愛してくれてんのに、お前は全然応えられてない」夢のなかでもう一人の俺が言っていた言葉を思い出す。が隣にいるっていうのに、なんか、ぼんやりした。なんだかな。俺ってつくづくなんかこう、駄目だよなあ。はあ、と大きく溜息を吐くと、隣に寄り添ってたが心配そうに俺の顔を見上げた。


「ねえ陽介、熱でもあるの?」
「! ば、っ触んなっつの!」


の細くて白い指が俺に向かって伸ばされた瞬間、ビクッと大袈裟に仰け反り、その手を払っていた。(あ、やっべ)しまった、と自分の手を引っ込めて、の顔を恐る恐る覗く。相手も相手で心底驚いたようで、目をまんまるにさせて、俺の顔と払われた手を見比べていた。しだいに表情が曇り、眉を下げ泣きそうなくらい悲しげな表情を浮かべる。そんな顔を見ているとずきずきと胸が痛んで、俺は思わずをぎゅうっと抱きしめていた。情けなさすぎる。自分が、そんな顔させたくせに。俺はこんな顔させないって誓ったくせに…、(今朝の夢がフラッシュバックする)(「刺激が足りねーよなぁ」)(違う、ちがう、そうじゃなくて)


「悪い…なんか俺、今日ちょっと、やばいんだわ…」
「…やっぱり体調悪い?私帰ったほうがいい?」
「いや、体調とかじゃねーけど…朝変な夢見てさ…」


あんなの、ただの夢だよな。都合がいいだけの夢。全部俺の妄想。馬鹿みてーに、汚くて、欲望まみれで、最低な俺の夢。実際あんなことしたら普通、どんな優しい彼女だろうと愛想尽かすっつーの。はは、思い出すだけで超幻滅。「どんな夢なの?」と優しく、子どもをあやすみたいに尋ねるの声を聞くと、余計に罪悪感がこみ上げてきて唇を噛む。ごめん、ごめんな、俺お前が思ってるほど、自分が思ってるほど、優しい男なんかじゃないみたいだ。なんかすげえ、くやしいよ。自然と、を抱きしめる腕に力が入る。「陽介…?」やめろ、やめてくれ、そんな優しい声で俺を呼ばないで。「よ…すけっ、ねえ、ってば…」細い体が折れてしまいそうなくらい、自分の腕の力が強まる。なんでだ、優しくしたいのに。優しくしたい、優しくしたい、優しくしたい。(そう唱えるたび、なんでこんなに追い詰められるんだろう)くるしい。


「痛いよ…っ! ようすけ、」


どくん、と体ごと心臓が大きくバウンドした感覚。唇が震えた。耳の奥で何度も何度も再生される、の「痛い」っていう声。切なげに俺の名前を呼ぶ声。大きく脈打つ心臓は、どんどん速さを増していく。吐き出す息がバカみたいに熱い。犬のような荒い呼吸がやけに耳障りだ。ああ、もう、なんで。(痛がってる表情も、苦しそうな声も、もっともっと見たい、聞きたい、なんて)気づいたらの体を勢い良く床に押さえつけていた。頭を打って、二度目の「痛い」がその口から漏れる。ぞくぞくと背筋が震えた。もっと痛くしたい、ひどくしたい、ひどいことがしたい。


「好きだよ、。超好き」
「陽、介?」
「なあ、お前は?俺のこと、好き?」
「…好きだよ…決まってるでしょう」
「そ、か…じゃあさ、俺が何しても、嫌わないでくれんの?」


唐突すぎる質問に、戸惑うようにの瞳が揺れる。どうしてそんなことを訊くのか。どうして自分は押し倒されているのか。疑問がたくさんあってついていけないとでも言いたげに、視線が泳ぐ。けど俺は気長に返事を待つ余裕なんかなくて、急かすように、耳元で「答えろよ」と低く囁いた。息がかかってくすぐったそうに、が身を捩る。夢の中の俺がやっていたように、耳朶に舌を這わせる。こんな行為、ほんと、AVの中だけだと思ってたのに。耳元で囁くとか?俺のがらじゃない。耳朶に舌?そんなん、しようと思ったことが無かったっつの。だけどがぶるりと体を震わせて、はぁ、と息を吐いたとき、ああなんだ耳弱いんじゃんって思って、もっと早くこういうことしてやればよかったって思って。途端に、にしてみたいことがあれもこれもと頭に浮かんで、自然と口元に笑みが浮かんでいた。なあ早く答えて。そうすれば、ほら。
今から「してみたいこと」、全部試してやるから。


「陽介になら、何されても、いいよ」

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