がアイツのことを好きだってことを知ったのは、もうずいぶん前のことだったと思う。うちのジュネスでバイトしてるは、店の入り口の方でサボってるその人物を見つけると必ず笑顔で話し掛けに行っていたし、相棒が他愛もない世間話として「この前足立さんが」と話しだすと必ず身を乗り出してにこにこ聞いていた。俺やクマが「あの人ちょっと頼りないよな」って言うと、「そんなことないよ、いい人なんだよ」と頬を膨らませるんだ。女子高生と警察。なんの接点があったんだよって首を傾げたら、「以前、バイト中に知らない男の人にしつこく絡まれて困ってたときに割って入って来てくれた」と照れくさそうに語ってくれた。これ聞いた時「おいおいうちの職場でかよ!知らなかったよ!聞いてなかったよ!店長とか呼べよ!つーか俺呼べば助けたっつーの!」とツッコんだけど、相棒は俺の横で意外そうに、けど感心したように「へえ、足立さんが」と相槌を打っていた。それ以来はその「足立さん」になついて、町で見かけると話すような仲になったらしい。周囲が見ている限り、相手も満更でもなさそうだった。「素敵な刑事さん!」っていうきらきらした目で見られて、得意げだったし。(俺が見る限りな。うん、あの男が腹の中で何を考えていたのか俺は知らない)それで、ある日言ったんだ。「お前、それってさあ、好きなんじゃねえの。あの人のこと」ちょっとからかっただけで、は顔を真っ赤にさせて、否定も肯定もしなかった。俺と相棒は顔を見合わせた。そんで次の瞬間には相棒はグッと拳を握って、大まじめに「応援するぞ」なんて言うから、俺も「おう、頑張れよ」なんて続いた。真っ赤な顔のまま、小さい声で「ありがとう」と言ったに、かわいいとこあんじゃん、って俺は素直に思った。「でも今は、事件の犯人を探すほうが大事だよ!頑張ろうね、二人とも」ごまかされたんだか、本心なんだか、拳を突き上げるに、俺も相棒も「そうだな」って笑った。


12月5日。あの日、直斗が事件の推理を、「犯人」を告げたとき、俺達は思わずの反応を伺ってしまった。それは直斗も一緒だった。里中やりせたちも一緒だった。その人物のことをがどう思っているのか、知らない人間は俺達の中にはいなかった。特に直斗は、言いにくそうで、言いたくなさそうで、辛そうで、見てるこっちが可哀想になるくらいだった。こういうことに鈍そうな完二でさえ、複雑な表情して。

。辛かったら、無理に来なくていい」

最後のダンジョンへ、あの赤黒く哀しい空の下で待つあの人の場所へ向かう時、相棒はにそう声を掛けた。そりゃあそうだろう。追いかけてきた殺人犯が、自分の好きな人だなんてさ。その人と戦う、なんてさ。攻撃したくなんかないだろうし、攻撃されているところも見たくないだろうし、攻撃されたくもないだろう。「見逃してあげてほしい」「許してあげてほしい」「本当はいい人なんだよ」そんなふうにが言い出したらどうしようって、俺達は心のどっかで思ってた。でもは真っ直ぐな目で、「大丈夫。行こう」ってはっきりと告げた。そして、しっかりとした覚悟を持って、戦闘に加わったんだ。徐々に弱っていくその人を見ても、苦しげな声を聞いても、攻撃の手を止めることはしなかった。最後の一撃はの手で決めた。それは本当に偶然のことだったけど、すげえ残酷なことをさせた気がして、俺も相棒も他のみんなも唇を噛んだ。戦闘中にだって「もうやめて」とか、「なんでこんなこと」って、が言い出したらどうしようって思った。足立がの気持ちに浸けこんで、決意を揺らすようなことを囁いたらどうしようって思った。だけどそんなことは一切なくて、連行されるその人の背中を見送るは何も言わなかったし、相手もなんにも言わなかった。ずいぶんあっさりしているとすら思った。マンガやドラマの見過ぎなのかもしれないけど。何か、心のどっかで涙を誘うアクションが起こる気がしていた俺は、妙に、すっきりしなかった。

だけどスッキリしなかったのなんてほんの一瞬で、事件解決の開放感というか、爽快感は、はっきりと俺達の中にあって。俺達が世界救ったんだぜって、顔を見合わせて笑って、ももちろん一緒になって笑うから、ああきっと大丈夫だ、俺達は笑い合えるんだって、安心した。










「お前、イブにバイト入ってていいのかよ」
「花村だって入ってんじゃん。クマも」
「俺はいーんだよ。クマも」
「あはは。まあ、私達以外の学生バイトみんな休み取りたがってたよねえ。イブですから」
「相棒もよぉ、ごめん陽介、俺彼女と過ごすから…なんつってよお!裏切り者ー!」
「そりゃあ、モテモテですからね」

12月24日。ついこの前まで道でガスマスクしてぎゃあぎゃあ騒いでる人がいたりジュネスに近寄る人がいなかったりしたくせに、世間はすっかりクリスマスを楽しんでいる。ジュネスは今日もお客様感謝デー。クリスマスなのでお休み、なんてなるわけない。親父に泣き付かれて仕方なしにバイトに出たら、も出勤だった。どうせ明日を過ぎたら特価品になるであろうクリスマスグッズやらチキンやらが並ぶ売り場を見て、溜息。

「なんか、気が抜けるよな。つい数日前にゃ世界の危機に立ち向かってたのにな」
「しょうがないよ。倒して、終わったんだから」

誰を、とは言わない。自分の何気ない言葉が失言だったなと頭の後ろを掻いた。下手に刺激するな、思い出させるな。そう分かってはいるのに、つい、だ。

「さみしーよね、花村。私達、すっごいさみしーね」

さみしい。確かにクリスマスという日に自分の置かれている状況を考えれば、「寂しい」だ。だが、の口にする「さみしい」は、俺の「さみしい」とは違うもので着色されている気がしてならなかった。誰がいなくて、何がいなくて、さみしいのか。ふいにの視線が、店の入口の方に向かった。すかさず、「じゃあさ」と俺はわざと大きめの声で言う。なんだいきなり、ってくらい、大きめの声になってしまった。が視線を慌ててこちらに向けて、ほっとする。

「バイトあがる時間、俺と一緒だろ?俺奢るからさ、一緒になんか、食おうぜ」
「…え?」
「ちっちゃいケーキ売ってたろ。アレ、うまそーだったし」

なあ、店の入り口のほう見たって、あの人はいないんだ。知ってんだろ。肩を掴んで揺さぶってそう言ってやりたいのをこらえて、へらへら笑う。ぽかんとしたは、数秒経ってから、ふふ、と小さく微笑んだ。「花村ってさ、イイヤツだよね。彼女いなくて勿体無いわ」なんて言う。なんだよそれどういう意味だよフラグかよ、とときめくべきか。いや俺としてはすげえときめきたかったけど、だめだな、手放しにその言葉をプラスに受け取れない。

「来年のクリスマスは俺もお前もお互いさみしくないといいな」

俺は足立のやったことを許そうだなんて思わない。もきっとバカな女ではないから、許すことはしないんだろう。だけど、揺らぐことはあるだろう。それはきっとしょうがないことで。俺は、「なんであなたが」なんて言えるほど、あの男のことを知らない。は、どうなんだろう。相手のどこまでを知っていて、どこまでを理解しようと思ったんだろう。

「なあ、、おまえさ」

まだあの人のこと好きなの?それとも、本性知って冷めたのか?すぐには他の男好きになれないくらい、失恋のショック受けてんのか?俺さ、小西先輩のことすげえ好きだったけどさ、この先一生もう恋なんかしないのか他の人好きになれないかって訊かれたらさ、それはやっぱり、否なんだよ。俺はきっとこれから、小西先輩以外の人を好きになって、先輩以上に好きになって、先輩のこと忘れちゃうかもしれない。けどふとしたときに思い出して、胸が締め付けられたりはするかもしれない。お前にとってのあの男も、そうなるんじゃねえかな。なったら、それは、はたして良いことなのか悪いことなのか分かんないけど。いやきっと悪いことなんかじゃねえから、だからさ、店の入り口を、切なそうに眺めるのはやめろよ、あの人の影を、声を、待つのはやめろよ、来ないよ、こねえから、だからさ、

「なあに、花村」
「………いや、なんでもねえ。っしゃー!働くぞー!」
「…変な花村〜」

どこか無理して笑ってるような、そんな顔を見てると、神様も俺も、にとても残酷なことを強いている気分になる。さっきは、言えるほど相手を知らないなんて言ったけど、「なんでアンタが」って、俺は今ならあの男に言えるだろう。なんでアンタが、の好きになった人なんだ。