「ねえ、ゆかり。また男の子振ったの」

 長い睫毛、つやつやした唇、耳元にピアス、首元にハートの付いたチョーカー、ピンクのカーディガン、制服の赤いリボン、短いスカート。「女の子」を形作るものがたくさん。可愛い女の子の材料をたっくさん詰め込んで出来上がっている美少女ゆかりちゃんは、私の言葉に分かりやすく、うんざりと肩を竦めた。噂の広まる速度に呆れているようだった。いつものこと、だけど。これで何人目だろう。何人の男の子がゆかりに告白して、同じように断られてきたんだろう。数えるのも諦めるくらいだけど、最近は男子も「無理無理」って諦めているっていう話を聞く。それでも懲りずに告白するチャレンジャーは絶えない。

「だってさ、みーんな決まって、『俺、岳羽さんのこと前からイイナって思ってて…』なーんて言ってさ」
「うん」
「こっちは相手の名前も知らないし、知ってたとしても名前程度だし…向こうだって私のこと何も知らないでしょ。なのに付き合いたいとか、意味分かんない」
「そうかな」
「そうだよ。だって同じ立場だったら断ってるでしょ?」
「うーん、そりゃあ、ねえ」
「ほらね?」
「でも、ゆかりは可愛いから」

 そう告げると、ゆかりはまあるい瞳をもっとまあるくして、それから、ぷっ、と小さく吹き出した。「なにそれ、どゆこと?」って笑う。あ、笑った顔、やっぱりかわいいな。つんとしてたり、ぷりぷり怒ってるゆかりも可愛いけど、笑ってるの、すごく可愛いな。うん。「やっぱり可愛い」大きく頷いて納得すると、ゆかりはまだちょっと笑いながらも、「もう、いいってば!」って照れて肘でつついてくる。

「だって私、男の子だったら、ゆかりに、付き合ってくださいって言ってたよ」

 男の子だったら。自分自身の言葉に、私は視線を落とす。ゆかりに誕生日プレゼントで貰ったお揃いのチョーカー、制服の赤いリボン、ゆかりよりはちょっとだけ長いスカート、胸元まで伸ばした髪、昨日お手入れしたばっかりの爪、いちごの香りのリップ。私も負けじと、可愛い女の子を作るための材料を集めていた。ゆかりの隣に並んだ時に、ちょっとでも、ふさわしく見えるように。あんなのとお友達なの、って周りが言わないように。ゆかりは可愛い女の子だ。今時の女子高生って感じの。可愛い物が好きで、ピンクが好きで、スタイル良くって、おしゃれさんで、美人で、男の子からモテモテの人気者。勝ち気で、サバサバしてるけど、可愛いところたくさん。女の子だ。女の子っていきものを代表するような、女の子。でも私だって女の子だ。女の子なの。

 女の子だから、言わないけど。でも男の子だったら、私も、我慢できずに告白していたかもしれないよ。私は女の子だから、付き合ってくださいって、言うことすらできないけど。でも、わたし、自分が女の子でも男の子でも、ゆかりのことが好きなんだ。だからね、男の子だったら好きになってたよ、じゃないの。今でも、だって、わたし、ほんとうはね、

「それを言うなら私だって、自分が男だったら、みたいな子好きになってたかもね」

 笑って、からかうようにゆかりが言う。冗談、冗談。そっか、そうだね、私達、どうやったって、まじわらないね。(だってわたしが好きなのはね、今のままのゆかりなの、今のままでいいの、男の子になって、なんて、望んでないよ)(でも今のままのゆかりは、私を好きにはならないし)

「私、男の子じゃなくって良かった。男の子だったら、ゆかりに振られてたもん」

 女の子だから、振られずにそばにいられるんだね。好きでいること、許されているのか、もっと許されないのか、分からないけど。ゆかりは私の言葉の真意に気付かないまま、笑っている。顔も名前もよく知らないけど、ゆかりに振られた男の子たちの気持ちが少し分かる。ゆかりは、届かない、届かない、ずうっと高い所にいる、可愛い可愛い女の子。