▼ ▼ ▼
「誕生日当日は、やっぱりカノジョと過ごす?」
そんなふうにハヤトがそわそわ聞いてきて、オレはちょっと苦笑いする。ハヤトのそれは、からかうものではなくて、ただ興味津々に、オレと「カノジョ」の過ごし方について知りたがっている様子だった。やっぱ付き合ってるとお互いの誕生日って特別じゃん?春名のカノジョって年上じゃんどんな感じ?高校生カップルの過ごし方とは違う?今後の参考にー!みたいな、そわそわ、ワクワクの目。そのワクワクの期待に沿えない気がして、オレは頬を掻いた。「あーえーと、まあ、そのーなんていうか」なんて、ちょっと誤魔化しながら。
★
「え!私はいいよ!春名くん、誕生日はお母さんと過ごしてほしい」
そうやって「カノジョ」に言われたのはつい最近だ。面食らって目をまたたかせたオレに、相手はさらに言う。「だってきっとお母さんが一番祝いたいと思うし、毎年一緒に祝ってきた相手でしょう」って。そういうもん?いや、オレもハヤトほどじゃないけどさ、「恋人の誕生日」って、なんかこう、イベントだと思って意識してた。カノジョがいる奴はカノジョと過ごすもんなんだろうって思ってた。母ちゃんには、「今年はカノジョと過ごすよ」って言うことになるのかなって。
サンはちょっと困ったように眉を下げて笑った。「なんでよー、いいじゃんお母さんと例年通り過ごして。私も母子家庭で育ったからかな、なんとなく」
それから、学生時代自分が連絡を入れずに友達と誕生日に遊び通して帰宅した深夜に冷蔵庫で眠っていたケーキを見たことが忘れられないんだ、とも話していた。
「マザコンだなーとか付き合い悪いなーとか言う人がいても無視だよ、無視!恋人がいたってなんだって、家族と過ごす時間優先したっていいはずだよ。っていうか私を理由に春名くんがお母さんと誕生日祝う時間作れないの、嫌だな!」
そんなことを言う。サンは「オレと母ちゃんの話」を聞くのが以前から好きなようだった。オレが母ちゃんの話をすると嬉しそうにする。目を細めてあたたかく笑う。オレは彼女のそんなところも好きだった。こういう人に好きになってもらえて、こういう人を好きになって、よかったな、幸せなんだよな、と改めて思えてしまう。オレはちょっと照れ臭く眉を下げて笑って、「うん、わかった」と子供のように頷いた。ありがとう、とも言った。
★
「なーに言ってるのよ!!彼女ちゃんと過ごしなさい!これは母ちゃん命令!母ちゃんを理由に恋人と誕生日過ごさないなんて、春名…アンタねぇ~っ」
これは、事の顛末を聞いた母ちゃんの言葉。叱られてるのにオレは笑いだしてしまった。「あのねえ、春名」と、母ちゃんはまっすぐに、しっかりとオレに言う。「春名の大事な人を、ちゃんと大事にして。それで、春名の時間も大事にして」春名の大事な人はいっぱい増えていいんだ、母ちゃんを一番にしなくたっていいんだ、春名の大事な人が母ちゃんにとっても大事なんだと、オレに言う。聞きながら、うんと頷きながら、やっぱりどこかオレは、にやけていた。口元が緩む。ああだってさ、なんかさ、幸せなんだよなあ、と何度でも思えてしまう。きっとサンが言ってくれたことも、こういうことだ。オレの大事な人を、サンの大事なひとにもしてくれるんだ。母ちゃんも同じ。ああやっぱりさ、この人の子供でよかった。あの人を好きになってよかった。ああ、幸せなんだよな、これって。
★
「もしもし!あのさ、もしよかったらなんだけどさ……やっぱり3月30日、オレんち来ねぇ? えーと……オレの、大事な人で、会わせたい人、だから」
欲張りな誕生日をください、幸せな誕生日なんだ、とびきりのわがままを言おう。/240330