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「おいしそう!ケーキ!、作った?ボクのため?」
「う、うん…」
あまり味にも見た目にも自信が無くて、ぎこちなく俯くように頷いたら、そんな私の申し訳なさを吹き飛ばすみたいに、ピエールの表情がぱあっと明るくなった。目を輝かせて、きらきらに笑って、「うれしい!」と飛び跳ねるように私に抱き着く。深い意味はなく「おもわず」の行動なんだろうけど、私はカーッと自分の体温が一瞬で上がるのを感じた。ただでさえ暑いこの日本の夏。ぶわっと汗が噴き出た気がして、「ちょ、ちょっとまってピエール!」と一旦距離を置こうとする。ぎゅっとくっついていた体を離しながらも、まだ完全に腕は離さずに、私の顔をきょとんとした顔で覗くピエール。いつもBeitの中で他のふたりに囲まれると小さい子供みたいに見えるけど、身長は私より上で、目線が私よりいつもちょっと高い。ああ子供じゃないんだなとか、ああ男の子なんだよなとか、思う。最近、こうしてぎゅっと抱きしめてくれるようになってからは特に。
「、ぎゅーってされるの、キライ?痛かった?」
「ううん、ううん、そうじゃなくて…えと、その、ケーキ…おいしくなかったらごめんね」
「ううん!ボク、前にもの手作り、食べた!すっごく嬉しかった!だから、今日もうれしい!」
うれしいとおいしいはまた別問題なんだけど…いやピエールにとっては別問題じゃない、ってことだろうか。おいしいかどうかじゃなくて、うれしい、が一番の感情なんだろうか。ピエールは変わらず満面の笑顔だ。でも、だって、そのぅ、とごにょごにょすると、ピエールは「なに?」って耳を寄せて、聞き洩らさないようにじっと私の言葉を拾う。
「あのね、ピエールは…その、みんなに愛されてるし、王子様でしょう?本当だったらほら、誕生日だって国を挙げて祝われるような存在…ですし、そのー…私、こういうちっちゃいお祝いの仕方しかできなくて…」
ごめんね、と言いかけたら、ピエールが人差し指をつん、と私の唇に押し付けた。可愛らしい、けれど、はっきりとした制止。
「、『ごめん』ばっかり、だめ。ボク、『おめでとう』、聞きたい」
ね?とお願いするように小首を傾げて私の瞳を覗き込む。そんなことを言われたら、そんなことをされたら、どきっとして心臓が落ち着かない。でも、顔を背けるのもそれこそダメだ。恥ずかしさをなんとかこらえて、この距離の近さのまま、ピエールの目を見て、小さくこくこく頷く。
「…、…おめでとう」
口にした声が緊張のせいで思ったよりか細くて、あわてて何か付け足したくなって、「だいすき」と内緒話みたいな声の小ささで呟いた。ピエールの目がまあるくなって、またきらきらと輝く。気付いたらもう一度、ぎゅうっと、さっきよりぎゅうーっと、抱きしめられていた。「ボクも、だいすき!」ゼロになった距離で聞こえるその声は、幸せそうで、私もうれしくなる。
「バースデー、大好きな人がボクに、おめでとうって、笑顔くれる。ハッピーな日!」
「…わ、私も、ハッピーになる日…だよ。ピエールの誕生日は」
「ホント?ボクのバースデー、もハッピー、なる?」
「うん。なる。すっごく嬉しい日」
「じゃあボク、もっと好きになるね、今日のこと」
遠い国からやってきた、かわいくて、かっこよくて、やさしい王子様。出逢えてうれしいよ、って。きみのことを知れて幸せだよ、って。大好きだよ、って。生まれてきてくれてありがとう、って言いたい日。いくら言っても言い足りない日だ。ぎゅっと抱きしめてくれる背中に、そっと腕を回して抱きしめ返す。ケーキの出来が、どうだったっていい。二人で笑って食べられることを幸せに思う日。しょんぼりした顔なんていらない日だ。だって、ピエールの誕生日なんだから。世界で一番、笑顔があふれる日になればいい。
そう願いながら祈りながらしばらくぎゅっとしていたら、ふいにピエールが「あっ!」と声を上げて、何かを思いついたように一旦顔を上げて私を見た。
「あのね、。よくばり、ダメ…けど、今日のボク、ちょっとだけよくばり、なる。ダメ?」
「えっ!だめじゃないよ。誕生日なんだし、いっぱいよくばりになっていいよ?」
「やふー!じゃあ、あのね、ボク、来年のバースデーも、にお祝いしてほしい。いい?」
「もちろん!こちらこそお祝いさせてほしい」
「もう一個!よくばり。いい?」
「いいよ、何個でもきいちゃう!」
「ボク、欲しいプレゼント、ある!」
「わ、私が用意できるものなら!」
「ほっぺに、ちゅ!ほしい!」
「えっ!?」
「だめ…?」
「だっ、…えっ、ちょっ、ちょっと…ちょっとまってね…!?心の準備が必要だね…!?」
「うん!ボク、待つ!わくわく!どきどき!」
ハッピーバースデー!だいすきな王子様!/180801