「えーブン太さっきからそのケーキばっかりじゃんつまんない!」
「他のも食ったけどこれが一番うまいんだからいいだろぃ」
「えー!せっかくいろんな種類あんだから全部制覇しようとか思わないのー!?」
「俺はその中の気に入ったのに絞って腹いっぱい食うんだっての!」
「えーやだー!いろんなの食べていろんなケーキでお腹いっぱいにしたーい」

さっきから「えー」ばっかりで不満たらたらのは、皿いっぱいにたくさんの種類のケーキを載せて、俺の向かい側の席に座った。チョコレート、ショートケーキ、チーズケーキ、タルト、ムース、モンブラン、その他もろもろ。テーブルにずらりと広がっているケーキたちを見渡し、はほうっと溜息を吐く。うっとり。目をきらきらさせて。すぐにはフォークを取らず、まずは鞄からそっと取り出した携帯でテーブル全体を写真に収める。さりげなく俺の指だけ写真に入るようにピースしてやったけど、文句は言われなかった。満足気に頷いて、携帯をしまうと、ようやくフォークを手にした。俺はぱくぱくとケーキを口に突っ込みながら、の様子を観察する。だらしなく口元を緩ませながら、「あーどれから食べようかな〜迷うな〜」と身をくねらせていた。幸せそうな悩みだ。

「食わねーならこっちのチョコケーキは俺のだな。いっただきー!」
「あー!最低!それは大本命だったから最初には食べない予定だったの!残しといたの!」
「あ〜お前好きなもの最後に食べるタイプ?弱肉強食の世の中では常に自分の皿守ってねーとやってけねーよ?」
「バカー!食べたいなら自分で取ってきなさいよ!」
「そーだそーだ、まだまだ向こうにたくさんあるんだから取ってくれば済む話だろぃ」
「取ってくるのはお前じゃー!ぼけー!」

ぎゃあぎゃあいいながらも、結局は諦めて他のケーキにフォークを刺す。さっくりと縦に切り分けて、口に運んで、頬を押さえながら、表情だけでなく使えるもん全部使って「美味しい!」をアピールする。ほんと、美味そうに食べるなあ、こいつ。呆れた表情を浮かべたつもりだったけど、多分ちょっと口元笑ってると思う。

「あ、見て見て、高校生くらいかな?カップルで来てるよ」
「ほんとだ〜!え、でもテーブルにあんなに持ってきて…全部食べられるのかなぁ」

俺達のテーブルの横を通り過ぎていった女二人組が、笑いながらそんな会話をしていた。はケーキを食べるのとその美味しさを身振り手振りで表現するのに忙しくて気づいていないらしいけど。そりゃあ、まあ、そう思うだろうな。はしゃいじゃったカップルが食べきれない量皿に載せて、結局残しちゃうんだろーって、まあ、傍から見ればそう思われるだろう。けど俺とが既に何皿食ってると思ってんだ。たまに横を通るここの店員が青い顔してるの、俺は気づいてる。やれやれと肩を竦めて視線をに戻した時には、奴はもう次のケーキを半分くらい食い終わってた。

「お前味わって食うわりにペース速ぇな」
「だってお腹に入る限りは美味しいものをたくさん詰め込みたいじゃない?あ、ねえこっちのケーキすっごくおいしかったよ!ブン太も一口食べる?あ、でももう一口しかないや。ごめん自分で持ってきて」
「明日には3キロくらい太ってんじゃねぇ?
「あはは確かに〜」
「……」
「あ、これもおいし〜!ねえブン太こっち食べた?」

だめだ、普通の女子だったら多少ダメージ受けそうな攻撃がまるで通じない。まあだからしょうがないか。俺は自分の分の皿がカラになったので、の皿にまだ残っていた手のつけていないケーキにフォークを伸ばした。さっきみたいに文句を言われると思ったけど、チョコケーキほどの恨みは買わないのか、何も文句らしい文句は言われない。さっきから口に含むもの全て、ケーキ・ケーキ・ケーキ。ケーキバイキングなんだからしょうがないけど。生クリームが異常に甘ったるい。もーちょい控えめでもよかったんじゃないか。その方が女ウケもする気がする。は気にしてないみたいだけど。

「お前って絶対甘いものならなんでもいいんだろ」
「え?うん、甘いもの好き」
「味にこだわりねーよなぁ」
「味って…『甘い』って味でしょ?ケーキだし」
「だーめだこりゃ」
「え、なんで?なんで?」

唇の端に生クリームついたが顔を上げてこっちを見たので、思わずぶはっと噴きだした。それすら、頭にクエスチョンマーク出して「なに!何!」と慌てる。俺はテーブルの上に置かれていた紙ナプキンを渡して、自分の唇の端をつんと突付き「ついてる」を示す。顔を赤くするわけでもなく、「まじか」と返事をして、受け取ったナプキンで拭う。

「つーか、いっつもこういうとこ、俺のこと誘うけどよ」
「うん?」
「ふつう、女子同士で来てきゃーきゃー言いながら食うもんなんじゃねえの?」

周りを見渡してみても、女性客のほうが圧倒的に多い。さっき隣を通った人らには「カップル」に見えたみたいだが、俺とはただの友達だ。ただ、同じクラスで、よく喋る友達ってだけ。たまにこうやって、二人で、甘いもんが腹いっぱい食えるところへ遊びに来たりはするけど、そんな程度。俺じゃなくたって代わりが見つかりそうな役割。だから俺は、頬杖付いてに尋ねた。女友達と来たりしないのか。は黙りこんでフォークを一旦皿に置くと、あのねえ、と俺の目を真っ直ぐに見て話しだす。

「そりゃあねえ、女の子同士で来ても楽しいと思うよ。女の子は甘いもの好きだからね」
「だろぃ?」
「でもねえ、女の子達はねえ、見るだけでほわーってなるような、かわいいケーキに囲まれることが目的でねえ」
「おう」
「そんな女の子たちの前で、この量のケーキを一人でばくばく食ってみなさいよ」

「この量」と称して、横に積んであった皿と、テーブルの上に並べられたケーキを示す。それは、まあ、なんというか、きっとドン引きだ。一人でもヤバイのに、俺も結構な量を食べているから、二人分の量を改めて見てみると…ドン引きだ。お前らは大食い選手権にでも出てるのかってくらいの食いっぷり。俺は自分の量がコレだし、が甘いものに関してはほんとよく食うの知ってるから、ドン引きもなにもないけど。はハァっと溜息吐いて、視線を落とした。「いくら甘いもの好きーって女の子と一緒に行ったとしても、この量食べたらひかれるだろうなーってなんとなく分かるから、好きなだけは食べられないと思うなあ」と。

「俺はお前以外の友達と来たとしても好きなだけ食うぜぃ?」
「あー、だろうねえ」
「女同士でも気ぃ遣うんだな」
「つかうよー。女の子の世界は複雑なんだからねえ。お砂糖と素敵なものだけで作られてると思ったら大間違いなんですよ」

なんだそりゃ。そんなこと思ったこともないけど。ああでも何かの本かアニメで聞いたことがある。砂糖と…何かで女はできてるって。それに比べて男はずいぶん酷いものでできてるって書いてあった気がするけど、なんだったかな。思い出せない。俺は止まっていたフォークを再度動かし始めた。相変わらずクリームは甘いけど、甘くて美味い。

「まあ、お前普段も結構クラスで他の女子に気ィ遣ってるもんな」
「…そう?」
「そ。甘いもん食ってる時の笑顔のほうがよっぽど幸せそうで、見てて俺は―…」

動かし始めたばっかりなのにまた、ぴたり、とフォークが止まる。自分で言っておいて、その先が出てこなかった。今、自分は何を言おうとしたんだろう。多少もやっとしたけれど、もし口にしていたら、何かとんでもないことに気づいてしまっていたかもしれない。その先を言うのはやめよう。やめよう、って、思ったのに。

「ふうん、よく見てるんだね」

なんてことないような声でが口にした言葉に、俺は息が詰まる。せっかく人が、考えないようにしようって思ったのに。そうだ、なんで俺いっつも、のことこんなに見てんだろう。甘いもの食ってるときの幸せそうな顔も、俺はいつだって、思い浮かべることが出来るんだ。なんでだろう。その笑顔で、こっちまでにやけちまうのは、なんで。

「けどさすがに彼氏に気ぃ遣うのも嫌だから、私がどれだけ甘いもの好きでもひかない男の子と付き合いたいなあ」
「…俺にしか見せてねえの?」
「ん?あー…うん、ブン太の前でしか、こんなに好きなだけ食べたりしないかな。だから嬉しいよ、楽しいよ、ブン太といられるの」

うひひ、と歯を見せてちょっと照れたように笑うを、じっと見つめる。ふうん、俺しか知らないんだ。俺しか見てないんだ、のあんな笑顔。俺しか気づけてないの表情、もしかしたら、たくさんあるんじゃないかって、少し自惚れる。そう考えたらなんか少しこっちも照れてきて、誤魔化すように口の中に突っ込んだケーキはやっぱり甘ったるい。さっきよりもっともっと甘さが増した気がした。

「なあ、俺は」
「うん?」
「お前がうまそーに食ってんの見るの、好きだけど」
「そう…なの?」
「だからさ、これからも俺にしとけばいいんじゃねーの」

こういう場所に誘うのも、幸せそうな笑顔見せるのも、俺にしとけばいいんじゃねーの。俺だけにしとけば、いいじゃん。が目をぱちくりさせて、それからみるみる顔を赤くした。視線をばっと逸らし、さっきの俺みたいに、誤魔化すようにケーキをぱくぱく口に運んだ。「なんか言えよ、」「これおいしいねブン太」「またクリームついてる」「!?」「うっそー」さっきはちっとも恥ずかしがらなかったくせに、おもしろいくらい動揺した。それを見て小さく笑う。こういうちょっと可愛らしい部分を見ると、女が砂糖で出来てるかもしれないって話を、信じてもいい気がする。甘ったるさがくせになってく。テーブルの横を通った女二人が、「あのカップルさっきの量もう全部食べちゃってるよ!」と囁き合っていた。カップルじゃないです、これからなる予定だけど。



昨日のあくびの数を知ってる
(それくらい近くで、それくらいずっと、見てたわけで。これからも、見てるわけで。)