突然の着信に驚いて携帯の画面を見ると、これまた意外な人物の名前に驚いた。たまに他愛のないメールは送ってきても、電話なんて寄越さない、むしろ初めてじゃないだろうか?そんな相手からの着信だった。
「もしも、」
『もしもし!ねえ!外見て!月!』
急な着信であることと、一言目の勢いと必死さに、緊急事態か!?と身構えたその直後、続いた言葉にぽかんとする。
「えっ、月?」
『すっごいよ!やっばい綺麗!でかい!見てよ!早く!』
「あ、ああ、わかった。わかったから」
今すぐ見ないと三秒後には消えるみたいな急かし方に、俺は携帯を耳に押し当てながら部屋のカーテンを開く。すぐには目当てのものが見つからず、窓を開けて身を乗り出した。少し涼しく感じる夜の風を受けながら、その光に目を奪われた。
「本当だ……すごいな」
『ね!?めちゃくちゃすごいよね!?丸いし、でかいし、なんか今日ってアレなんだってニュースで言ってた!……なんとか……名月…』
「ああ、中秋の名月……じゃなかったか?」
『なんかそんな感じ!月見だ!あっ月見バーガー始まったから!?』
思いっきり花より団子な発言に電話越しで俺が笑ったら、相手は小さく唸った。むくれているのが目に浮かぶ。騒がしくて、明るくて、意外なところで恥ずかしがって、忙しいやつだ。月を眺めながら、微笑ましい気持ちになった。
「でもホント、綺麗だな。教えてくれてありがとう」
『うん、綺麗でしょ』
「ああ。……綺麗だ」
同じ言葉を繰り返すだけなのに、その度、うっとりとした声音になっている自分に気づく。電話の向こうの笑い声も、ふふ、と静かで、柔らかいものだった。
『電話したの、用件それだけ!うち、今からご飯だから食べてくるね』
「えっ、夕飯前にわざわざ電話掛けてくれたのか。悪いな、ありがとう。見れて良かった」
『いい誕生日になったでしょ』
顔が見えなくても、上機嫌に笑っているのがわかる。予想外の展開に、俺は言葉に詰まった。
「知ってたのか……」
『知らなかった!千石から聞いた!』
「そ、そうか…」
『学校だったらさ、会えたのにさ。今日土曜なんだもん。言ってよ!』
「いや、自分からは言わないだろ?」
『あははっ!』
気持ちよく笑う声に、俺もつられて口元が緩んだ。用件はそれだけ、って言ったくせに、嘘だったじゃないか。
「ありがとうな。いい誕生日になった」
『うん!……あっ!おめでとう』
「言い忘れてたんだな。ありがとう」
『あっ!待って!もう一個!』
「もう一個?」
『月が綺麗ですね、だ!』
言い忘れたこと、一気にたくさん思い出したみたいな、そんなついでみたいに。また俺は言葉に詰まって、少し沈黙して、やっとの思いで「あ、ありがとう…?」と返す。何度目だ?ってくらいの、ありがとうを。
電話が切れてからも、しばらく月を眺めた。今夜の月は本当に綺麗で、忘れられそうになくて、ああ本当に、忘れられない誕生日になってしまって、困った。//月が綺麗で