胸下あたりまで伸びていた髪をばっさり切った。べつに、失恋したから切ったとかそんなんじゃない。私には季楽靖幸という生意気かつカッコイイ彼氏がいることだし、別れる気配は今のところない。だから私が髪を切ったことにこれといった理由はなかった。強いて言うなら、気分というか、イメチェンというか。髪の量が多いのでいろいろと面倒だったというか。切ることに特に理由がないように、伸ばし続ける理由も特になかったんだ。だから私はばっさり切った。結構、女友達の間では好評だ。そっちのがいいよ!って言われた。この髪型に文句をつけたのはたった一人。たったの一人。
「長いほうが似合ってたよ」
そんなもん切った後言われてもどうにもならない。私は季楽の不機嫌そうな声に溜め息を吐いた。確かに、切る前に季楽になんの報告もしなかったけど。それはびっくりさせたかっただけだし、きっと彼ならどんな髪型でもなんだかんだ似合うと言ってくれると思ったんだ。なのに季楽はなんで切ったんだよとでも言いたげで。
「でも、友達はみんな似合うって言ってくれたよ」
「へえ、俺は似合わないと思う。長いほうが良かった」
前のほうがいいって言われるよりも、似合わないって言われるほうが傷つく。私は悔しくなって口を結んだ。泣いてやろうか!泣いたら焦るだろうか、彼は。
「切る前に俺に一言いってほしかった」
口をきゅっと結んで黙り込む私に、季楽は言う。小さな声で、拗ねたように。私のほうこそ拗ねるべきなのに、季楽に先回りされると何も言えない。私は短くなった髪の毛先をつまんで睨んだ。切らなきゃよかった。バカ正直にそう思ってしまう自分が、少し格好悪い。
たとえ100人の友達に「似合うよ」って言われても、季楽一人の「似合わない」には勝てないんだ。恋とは多分、そういうもの。