「わーっ!見て、みて!ここウサギの耳の形になってる!かわい~」
そうはしゃぐ声が、いつになく「女の子」だなと思った。デート、という単語を口にするのもようやく気恥ずかしくなくなって慣れてきた頃。定番の行き先となっていたショッピングモールの一角で、期間限定でやっているらしいその店には、可愛らしい雑貨やアクセサリーが所狭しと並んでいた。なるほど、一つ一つ凝ったつくりをしている。動物や花、リボン、ピンク。勝手なイメージではあるが、「女の子が好きそうなもの」で溢れていた。店内のあちこちを、アレも可愛いコレも可愛いと指をさしながら歩き、俺のことを興奮気味に手招きするテンションの高い彼女を見て、苦笑する。
「けど、あんまりアクセサリーとかつけてるイメージないな。こういうの使わないのか?」
ウサギのモチーフのくっついた指輪やネックレスのコーナーを、目をキラキラさせながら眺めている横顔にそう声を掛けると、こっちに向き直りキョトンとされた。デートのたび、いつも何を着ていくか迷って前日に部屋をめちゃくちゃにする(本人談)らしい彼女は、確かに毎回「おお、かわいいな」とこっちが照れるくらいの気合の入った服装で現れるが、指輪やイヤリングやネックレス、そういった装飾をつけているのはあまり見かけない気がした。
「すっごく可愛いって思うよ。欲しくもなっちゃうけど……でも絶対なくすもん」
「え、そうか?気に入ったものなら大事にするだろうし、絶対なくすってことはないんじゃないか?」
「ううん、南は私のだらしなさを分かってないね。甘いよ、本当のダメ人間っていうのはね、そんなもんじゃないよ」
「そんな自信満々に言うなよ……」
「私、もらって困るプレゼントってこういうのかも。特にリングだね。嬉しくってつけて出かけても、一回外したら絶対どっかにいっちゃう」
予想以上に真剣に、本当に真面目なトーンでそう言われて、俺はちょっと面食らう。彼女は手元のテーブルに並んでいる指輪をただ見下ろしているだけなのに、しゅんと俯いているようにも見えてしまう。
「自分でも最低だって思うよ。なくすってことは大切にしてないってことだろって、思われても仕方ないし。でも本当に、そんなつもりないのにな。なんでなくしちゃうんだろ」
ぽつりと呟く声は、独り言に近いくらい小さく弱々しい。きっと過去に、気に入ったものや誰かに貰って嬉しかったものを、なくしたことがあるんだろう。探さなきゃと焦るあまり部屋中をデートの前日以上にめちゃくちゃに荒らして、余計に物の置き場なんか分からなくなってしまうのが目に浮かぶ。その度に、自分を責めて、そんな自分が嫌になって。こうやって諦めて、自分なんかつける資格もないと、失くして悲しくなるのがオチだって決めつけて。
想像がつく。だから、納得いかなかった。
「よし、俺がお前に買うよ」
「……え?」
「このウサギの指輪でいいんだよな?」
一番気に入ってそうだったものを一つ彼女の目の前からつまみ上げてレジに向かおうとしたら、「ワアッ!!」と突然叫ばれた。焦った様子で必死に俺の手から指輪を奪い取ろうとする。力が強い。必死すぎる。照れ隠しとかじゃない。かなり本気で拒否されている。
「南!バカか!バカだ!なんでこの流れで!?貰っても困るプレゼント第一位ってさっき言ったじゃん私!フリじゃないよ!『買うなよ買うなよ絶対買うなよ~?』って意味で言ったんじゃないよ!!」
「そ、そんなに必死になって止めるほどのことか!?そんなに嫌がられるとは思ってなかったぞ!?」
「南わかってない!やだ!だって南からのプレゼントとか、そんなのめちゃくちゃ嬉しいに決まってるもん!やだよ!絶対やだ!」
「嬉しいのに?」
「嬉しいのになくすもん!絶対どっかいっちゃう!どれだけ気をつけてもきっと絶対だめだもん!私本当にバカだし!だらしないし!なくしたくなくてもなくす……それがすごく悲しいんだって……わかってよみなみ……」
いっそ泣きそうな顔でそう言われて、俺もずきりと胸が痛む。相手を想えば想うほど、貰って嬉しいなら嬉しいほど、なくしたときの悲しみは大きくなるんだろう。自分が傷つくんだろう。でも俺だって、悲しませたくて言ってるわけじゃない。
「あのな……お前に喜んでほしくて何かをプレゼントするやつはみんな、お前のこと、あげたものをわざとなくすようなやつじゃないってわかってるよ」
「……でも」
「なくしても、そのときはそのときだ」
「そんなのやだあ……」
「また買ってやるから。気に入るものを一緒に探そう」
白状してしまえば、本当に、そんなに気負うほどのものじゃなかった。何故かって、プレゼントする手前こんなふうに言ってしまったらカッコつかないけど、本当にちょっとした、安い値段のものだったから。きっと探せば似たようなものがどこかで売っていると思う。だけどそんなちょっとしたものさえ受け取るのを拒むくらい、こいつはきっと、俺を傷つけたりがっかりさせてしまうことが嫌だったんだ。
俺の言葉に、言いたいこと全部引っ込んだみたいな顔で固まった隙に、レジへ向かう。プレゼントだけど、ラッピングは頼まない。会計を済ませて、立ち尽くしていた彼女の手を取り、一緒に歩き出す。店から少し離れて、ここならいいかなというタイミングで買ったものを取り出す。
「えーと……つけてみるか?」
「えっ、く、薬指?左手?」
「え!?あ、いや、人差し指でもいいし……右手でもいいんだが……」
そういうことを言ってるんじゃないとは思いつつ、うまくその冗談にのっかることもできなかった。そのまま手渡してしまえばよかったのに、流れで、気づけば彼女の手を取っていた。俺が、指にはめてあげる流れ。ああ、しかも、今自分がとった彼女の手は、左だ。
なんか、ドキドキしてきた。ちょっとした指輪、本当に深い意味なんてもたない指輪だ。わかってるのにな。
「だ……大事にする、ぜったい……」
「ああ、……いや、だからお前はそうやって気負わなくていいんだって」
「わたし、南のことっ!大事にするから!!」
「……、……っえ!? それ言うの普通俺の方じゃないか!?」
大丈夫だよって指を繋ぐ