いくらカチカチカチカチ押してもシャーペンの芯が出ない。芯は入っているはずなのに、出ない。もう一本芯を入れてみたけど、やっぱり先端から芯が顔を出すことはない。私はカチカチ、何度も繰り返す。迷惑なくらいだ、今は授業中だっていうのに。さいわい席が後ろのほうなので、先生に睨まれたりはしてないけど。数学の先生は黒板に図形やら式を書くのに忙しい。

お気に入りなのにな、このシャーペン。

管理能力もなければ、使い方も雑なんだろう。しょっちゅうふでばこの中身をなくしたり、ペンを壊したりする。カチリ、音をもう一度出してみたけど、芯は出ない。他のシャーペンを使おう。ふでばこを漁ったけど、見当たらない。そういえばこの間、一本なくしたんだっけ。なるほど、代わりのシャーペンなんかふでばこに入ってないらしい。

かち。かち。手応えのない、音。私の親指は諦めが悪く、繰り返す。

ふと視線を感じて目をやった。隣の席の男の子が、私の方を見ている。ペンを持ったまま固まったように、首だけこちらに向けていた。きょとん、とまばたきを繰り返したら、彼は私の手元に視線を移す。眉を下げて笑った。

「貸してみろ」

彼は一度自分のペンをノートの上に放った。そして手のひらを私に向ける。ほら、と急かされたような気がして、戸惑いつつもシャーペンを彼の手の上へのせる。彼は受け取ると、黙ったまま私のシャーペンを分解し始めた。教室内は静かで、静かだけど、おしゃべりも聞こえている。だけど私は喋り方を忘れてしまったように、口をしっかり閉じて彼を見つめていた。しばらく経った頃、気づけば彼はシャーペンをすっかりまた組立て直していて、かちかちかち、親指でノックした。

「ほら、直った」

はい、とシャーペンを差し出され、私は慌てて手をのばす。受け取ったそれをかちかち、親指で何度か押した。さっきまでなかった手応えを確かに感じ、ちゃんと細いシャーペンの芯が顔を出した。私ははっと顔をあげる。その先には、南くんの笑顔があった。彼は声を出さずに息だけで笑って、さぁ授業を再開するぞという合図みたいに、机に転がってた自分のペンを取った。「南くん、」私はやっと彼の名前を呼ぶ。ん?と目だけで彼が返事をした。

「ありがとう。優しいね」