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「けどなんで俺サンに嫌われてんだろー。なんかしたっけかな〜」 「フン。理由なんて決まっているのだよ」 「え、なになに?」 「お前が馴れ馴れしいからだ」 「なんだよその最初から答えはたった一つだみたいな断定」 「お前の人格の問題なのだよ」 「わーお性格じゃなくて人格って言うところになんだか悪意を感じるのだよ真ちゃん」 性格が問題だと言われるのと比べてなんだか不思議と存在を全否定されている感じがする。俺に負けないくらいイイ性格してると思うんだけどねーこの人。やれやれと俺は肩をすくめて、それから目の前でクラスメートがボールの蹴り合いをしている様子を見る。今日の体育はサッカーで、チームに分かれて試合してるわけなんだけど。相手のチームの人数に合わせるため、俺と真ちゃんは前半戦はベンチ。つーか、見学という名の休憩中。わーわーボールを取り合ってる様子を退屈に思いながら眺めて、やっぱり暇だから隣に座る真ちゃんに視線をやる。こっちはこっちで無表情にじーっと試合観戦してるし。 「俺結構サッカーやんのは好きだけどさー、なんっか暇だよなー。見てるだけって。授業でやる試合とか」 「所詮授業の一環だ。ムキになってやっている馬鹿はいないのだよ」 「そーかねえ。わりとサッカー部の奴らはマジになってね?負けらんない意地みたいな」 「まあ…体育の授業でバスケをするなら俺は例え遊びであっても負けるつもりはないな」 真ちゃん、それがお前の言う「所詮授業なのにムキになってやってる馬鹿」だよ。素人相手に。咬み合ってるんだけどなんか噛み合ってない気がすんなこの会話。まあ実際クラスメートとやるバスケは、部活のときとはまた違う楽しさがあるけど。今フィールド内でボールを独占してるサッカー部の人間も、そういう楽しさを味わってんだろうか。ふーむと顎に手を置いて、目の前をいったりきたりするサッカーボールを視線で追った。そこでふいに、思い出す。 「そういやちょうど女子は今体育館でバスケだっけ」 「…興味ないのだよ」 「暇だし観に行く?」 「人の話を聞け。興味ないと言っている」 「いーじゃん。サッカーよりバスケのほうが好きだろ?バスケ観ようぜバスケ」 俺がへらりと笑ってそう提案したら、真ちゃんは迷惑そうに眉を寄せた。俺だって別になんで見たいかと聞かれたら特に理由なんてないんだけど。それでも無性に退屈になったんだ。サッカー観戦が。じっとしてるのが。なら、適当にぶらぶらしたい。体育教師もまともに生徒の行動に目を光らせてなんかいないし。見ていたとしてもサッカーコートの中だけだろう。だがしかし断固として俺のあとをついてこない真ちゃん。ノリが悪いなーと思っていたら、ちょうど俺達の真横をサッカーボールがすり抜けていった。どうやらコート内で蹴っていたボールが大幅にパスミスされてフィールドを出ていったらしい。「わりい、ボール取ってきてー」ミスをしたであろうクラスメートが俺と真ちゃんのほうを見ながら言う。真ちゃんがしぶしぶ立ち上がった。お、どうやらボールを取ってやるつもりらしい。いつもなら「高尾おまえが拾ってこい」なんて言って自分は動こうとしないのに。俺はゴール脇に置いてあった予備のボールを軽く蹴ってそちらに渡し、「拾ってくるまでこっちのボール使ってろよー」と伝える。それから、小走りでボールの元へ向かう真ちゃんの横に並ぶ。 「ボール、体育館のほうまで転がってったな」 「……」 退屈だったから都合いい、とにやにや笑う俺を見て、真ちゃんは自分の行動を後悔するように大きく溜息を吐いた。 ボールを見つけたらさっさとグラウンドに戻ろうとする真ちゃんをまあまあと引き止め、俺は体育館の様子をひょいと覗く。キュッキュと音を鳴らす体育館の床。ボールの跳ねる音。女子のほうも男子のサッカーと似たようなもんで、人数的にあわなくて見学を言い渡されたメンバーが体育館の壁に背をつけてぺちゃくちゃ喋ってる。試合そっちのけで。まあ、そうなるよなあ。コート内で行ったり来たりしてるバスケットボールを眺めて、俺はぶはっと噴き出す。 「なんかさー、誰かがボール持って動いたらとりあえず後くっついてそっち走る、って子多いよな」 「…だから興味ないと言ったのだよ。素人の下手な試合など見ていてイライラするだけだろう」 「それがまたおもしれーんじゃん。なんか俺らがやってるのと同じ種目だと思えね〜」 女バス部員が混ざってれば多少試合の雰囲気も違うんだろうけど。俺達が目を止めたそのチームはどうやら素人の集まりのようで。運動神経が飛び抜けて良さそうなやつもいない。ボールが右に動けばとりあえずその後を追いかけるけど、追いかけるだけで取りにはいかない。とりあえず「自分もやってます」なアピールだけしてる。ボールが動けば全員で動くんだよな、だいたい。ゴール下に残っていよう、とか考えてないし、ポジションとかも決まってない。まあ体育でやるバスケなんて、そんなもんなんだろうけど。ごそっと固まって人がコート内を行ったり来たりする中、その集団に毎回ワンテンポ遅れてくっついていく女の子にふと目がとまる。 「お。サンだ」 実際コートの中にいれば絶対存在薄いだろうけど、外から見てる側としては逆に目立つ。小走りに人の背中を追いかけているけど、ボールに触るつもりは明らかにない。やる気がない、とか反抗的な様子ではなくて、ただ単純にボールから距離を置いているみたいだ。こっちにボールが来ませんように、とでも祈っていそう。どうせボールがきても自分には何もできないから、回さないで、って。おろおろしてる。落ち着かない。けど、周りから一歩離れてるせいでなんのマークもついてない。ボールを持っていた人間がサンに気づいて、パスを回した。反射的に思わず、といった様子でそのボールを受け取ったサンに、味方チーム・敵チーム全員の視線が集まった。ほんっとに、人の視線ってのが苦手なんだろうな。オロオロは一瞬でピークに達したようで、押し付けられた爆弾を一刻も早く放り投げようとでもするように、ボールをえいと適当な方向に投げた。見ていた俺が思わず笑う。たまたま追いついた味方チームの女子がそれを敵より早く拾ったからいいものの。 「アガリ症ってやつなのかねー。ほんと見てておもしれーよな。つーかアレか、運動神経ゼロなタイプ?まあスポーツ出来るようには見えねーけど。どっちかっつーと勉強出来そうな…あれ?真ちゃん?」 隣を見たら誰もいなかった。あ、ひでえ置いていかれた。 |