「高尾ってやっぱサンのこと好きっしょ」
「どこ情報?」
「昼休み一緒に自販から帰ってきたじゃん」
「……」
「……」
「は〜、やれやれ。向井はすーぐそっちに持って来たがるんだから子どもだよなー」
「あたし協力してあげるよ?なんか面白いじゃん。高尾とサンってなんかミスマッチカップルで」
「…面白さ重視か…」
「当たり前じゃん。面白さ第一でしょ」
「お前ってつくづく俺と似たタイプな」
「やだぁキモイこと言わないでよ」
「っつーか、マジでサンはそういう対象じゃねえって」
「じゃあ何さ」
「見てて飽きないっつーか、つい構いたくなるっつーか…」
「好きなんじゃん」
「ちげえよ。好きっていうより、あれだろ、癒しアイテムだろ」
「アンタらラッキーアイテムだの癒しアイテムだの好きだね〜」
「あんだよその目は」
「べえっつにい」
「ふーん」
「……」
「……」
「さっきサンが英語で使うCDプレイヤー英語教師に運ばされてたなー」
「…」
「重そうだったなー」
「へー」

「おやおや高尾クンどこに行くんですかぁ?」
「トイレだよバーカ」












サン!」

後ろから呼ばれた声に、びっくりして大袈裟に肩が跳ねた。聞き覚えのある声。その声を聞くだけで、その声の主の顔を思い浮かべるだけで、どうしようもなく心臓がうるさくなる。だけど、普通にしなくちゃ。昼休み、彼が私にしてくれたこと、優しい言葉を思い浮かべて、平常心平常心と胸の内で唱える。意を決して振り返るより先に、高尾くんが私の隣に姿を現した。声が緊張で上擦らないように注意深く、声を発する。「ど、どうしたの?高尾くん…」ああちょっとどもってしまった!はずかしい!

「あれ?英語のCDプレイヤー運んでるって…」

私が手ぶらなのを見て、高尾くんが首を傾げた。だから、「うん、運び終わったよ。次の授業で使うクラスに運ぶだけだったから。今教室に戻ろうとしてたところ」と説明する。プリント類で手が塞がってしまった先生が、誰か運んでくれないかなあとぼやいていたので、私がお手伝いした。ただ、それだけ。この前みたいに職員室まで運ぶわけじゃなかったし、すぐ終わるお仕事だった。…それが、どうしたんだろう?今度は私が小首を傾げたら、高尾くんが一瞬黙りこんで、顔を逸らして、ぼそりと何か呟いた。

「向井のやろー…」
「え?」
「や、なんでもない。あー…俺も教室戻ろっと」
「?…えっと…」

それだけ聞きにきた、だけなんだろうか。用が終わったので教室に戻る、という様子の高尾くんを見上げて、私は頭にはてなマークを浮かべる。なんで、私が英語の先生のお手伝いをしていることを知ってたんだろう?いやそもそも、私がお手伝いしてるから、どう、だったんだろう?もしかして、もしかしてだけど、手伝いに来てくれた、とか…。そこまで考えて、いやいやそんなわけない私なんかが運んでるからってどうだっていうんだ、と首を振る。そんなわけ、ない。たぶん。何か別の用事があって廊下を歩いてて、私をたまたま見かけて。「教室、戻んないの?」ふいにそう声を掛けられて、慌てて高尾くんの隣まで駆け寄る。…あれ、なんだか流れで一緒に教室戻ることになっちゃってるけど、いいのかな。迷惑じゃないかな。や、でもそういえば昼休みも一緒に教室まで戻ったんだっけ。二人きりになるとどうしても脳裏に浮かんでしまう今朝の夢が、私の頬を熱くさせる。

「…あ、そ、そういえば」「そういえばさあ」

「ごごごめんなんでもないです!!どうかいたしましたかたかおくん」
「あ、俺のは大した話じゃねーから、サンどーぞ」
「ううん私のほうが全然たいしたことないっていうか喋ろうとしてごめんねどうぞ、あの、どうぞ」

ばっくんばっくんとジェットコースターに乗る時みたいにうるさく音を立てる心臓を押さえながら、高尾くんにぺこぺこと謝る。ああもうさいあくだはずかしい!調子に乗って喋ろうとなんてどうしてしまったんだろう図々しいぞわたし!聞き役に徹するのが私の通常運転なのに。何か喋らなきゃ、って思うとだいたいの場合失敗するんだ!口をきゅっと噤んで背筋を伸ばして高尾くんの言葉を待っていると、高尾くんが何か思案するように顎を指でちょんちょんと叩いて、それから、ニッと笑った。あのいつもの、いいこと思いついたような顔で。

「じゃあ俺から、ね。でも俺の次はサンだかんな?」
「へっ?…あ、う、でも、」
「俺、話したいし聞きたい。いいっしょ?」
「…う」
「ダメ?」
「だめじゃ、ないです…」
「お。じゃあ決まり!」

だめ?とうっすら笑いながら尋ねられて、それだけでかあっと熱が顔に集まってきた。夢のなかで、私の顔を覗きこんでくる高尾くんと重なる。(それで、いつも、そのまま、顔が近づいて…)こんなときにそんなの思い出すなんて、も、ほんとう最低だ迷惑だ、はずかしい、へんたい。だけど嬉しそうに「きまり!」と微笑まれれば、なおさら、とくんと心臓が音を立てる。ああもう、いそがしいなあ、私の心臓。…でも、そっか、順番に話せば、いいのか。話すのをやめるんじゃなくて、お先にどうぞって、言えばいいんだなあ。

サン、知ってた?今日のホームルームで、久しぶりに席替えするってさ」
「え!う、うん!…っていうか、私も、話そうとしてたの、それで…その…」

さっきたまたま先生に聞いたから、他の生徒は知らないのかなと思っていた。だから、ちょうど、話題に困ったときに口から出た(出そうとした)話。た、高尾くんもすでにご存知だったとは…。そうだよね私だけが知ってるわけないよねちょっと私思い込み激しいなはずかしい。それにせっかく高尾くんが次はさんが喋って、って言ってくれたのにもう話題の引き出し尽きてしまったしほんとだめだなわたしつまんないやつだ申し訳ない。ごにょごにょと口ごもっている私を、高尾くんはキョトンとした顔で見つめて、それから、ぷは!って噴き出す。いつもみたく気持ちよく、けらけらと笑った。

「ははっ!なーんだ、俺たちって結構気ィ合っちゃうじゃん。なーんて、」

笑いながらがらりと教室の引き戸を開いて、すぐ傍の机の上に座り足をぶらぶらさせていた向井さんと顔を合わせる高尾くん。足をぴたりと止める高尾くん。その横からおどおどと顔を出し、私も向井さんのほうを見る。目があったら、いつぞやのバスケの時みたいに、ブイサインを送られた。私になのか、高尾くんになのか。目をぱちくりさせている私と、口元を引くつかせる高尾くん。状況はまったく掴めないけれど、なんとなく、向井さんはきっとすごいひとなんだなと、直感した。