さん、って呼ぶ声にはっとすれば、私の顔を覗きこんでくる高尾くんと目が合う。いつも、真っ直ぐに見てくるその瞳。なんでも見透かされてしまいそうな、そんな瞳。私の瞳の、奥の奥まで覗いてくる。なんだって見えてるんじゃないかって思ってしまう。人と目を合わせると、後ろめたいことなんか、やましいことなんかないはずなのに、目を逸らしたくなる私。誰かの視線を勝手に怖がる、私。正反対だなあ、って、思う。高尾くんと私では、ぜんぶ。高尾くんは、私と目を合わせて話したいって言ってくれる。目が合わなきゃ嫌だって、思ってくれる。高尾くんとっては、…高尾くんに怖いなんてことあるのか、分からないけど、きっと―…人と目を合わせられないことのほうが、怖いんじゃないかなあ。目を見るから、目を見ればきっと分かるから、怖くないって分かるから、だから、目を合わせるんじゃないかなあ。誰かの目が自分に向けられることは、本当はすごく、幸せなことなんじゃないのかなぁ。人と目を合わせたって、石になんかならないよ、って。なんにも怖がらなくていいんだって、高尾くんが教えてくれた。


今、私の目の前にいる高尾くんも、私と目を合わせたいって思ってくれているんだろうか。覗きこんでくる瞳に応えるように、私は逸らさず、じいっと見つめ返す。しばらく無言で、にらめっこみたいな、見つめ合いっこが続く。けど、ふいに高尾くんがプッと笑い、顔を逸らしてくつくつ笑い出した。可笑しそうに、肩が震えてる。だから、私もつられて吹き出す。両の手で口元を隠すように、ふふっと笑う。にらめっこだとしたら、私たちどっちも負けかもしれない。ううん、高尾くんのほうが先に笑ったから、高尾くんの負け、かなあ。


さん」


肩震わせてたそのままの笑顔で、楽しそうなその声で、私を呼ぶ。私も口元を緩ませたまま、なあに、って高尾くんに向かい合う。その直後、ほんの一瞬、高尾くんの顔が近づいて、ちゅって小さく私にキスをする。まばたきを繰り返す私に、高尾くんが穏やかで、優しいまなざしを向けた。「さん、俺ね」優しい微笑をつくっていた唇が、小さく言葉を紡ぐ。その先が、聞き取れない。だけど、私は気づくと微笑んでいた。まるでその先が聞こえたみたいに、笑ってた。




そんな夢を、見たよ。今朝も。