「なんで泣いてるのさ、ちゃん」
「…倫理くん。なんでもないよ」
「なんでもないのに泣くの?そんなに安売りするもんじゃないぜ、女の子の涙って。ここぞというときに同情ひいて人を上手く使うために流すものでしょ」

 とぼとぼと歩く小さな背中に声を掛けたら、めそめそ泣いていたものだから、ちょっとジョーダンなんか言ってみた。ちゃんは隣を歩きはじめたボクの顔を見る。ぐす、と効果音つきで鼻をすすって目尻の涙を拭った。

「友達ができないんだもの。みんな、『ちゃんと遊んじゃいけないって親に言われたから』って」
「へえー、それはそれは」
「だから今日も一人ぼっちで…みんな私の顔見ると、どっか行っちゃう。私、怪物みたい。みんなに嫌われちゃう」
「ばかだなあ。それはちゃんが怪物なんじゃなくって、『熱心な愛教会信者のさんち』と関わらない方がいいから親たちがそう言ってるだけだよ」

 ちゃんがきょとんとした顔をする。「どういう意味?どうして?」そう尋ねるちゃんの足が向かう先は、愛教会の聖堂だ。熱心に祈りをささげる、ちゃんとその家族は、すっかりウチとも家族ぐるみの付き合いになった。ボクも彼女も、母親の言う通り、そして同じ信仰を掲げる仲間を大事にしなさいという教え通り、「仲良く」していた。

「なんでもないよ。でも、本当そんなの気にする必要ないんだ。ボクもキミと同じで学校じゃずーっと一人ぼっちだもの。友達なんてできたことないよ!でもこうして毎日空元気だよ?ちゃんも元気だして!笑った顔もカワイイんだからさ」
「り、倫理くん……ありがと」

 照れたようにはにかんで、遠慮がちな声でお礼を言う。うそじゃなかったよ、笑った顔もかわいいよ。初めて会ったときから、泣いた顔ばっかり見てるからそっちのほうが印象強いけどね。ボクらは並んで、一緒に聖堂へ向かった。ちゃんは初めて会ったときとはすっかり変わった。最初は本当に、見ていられないくらいの「かわいそう」っぷりだった。集会に親に引きずられてやってくるたび、痛々しかった。ちゃんの母親はボクの視線に気づくとサッと青い顔して、ほら倫理くんよ挨拶してきなさいと無理矢理に背中を押した。怯えるちゃんに近付いて警戒を解いてもらうように試みるのは、なんだか人間に捨てられた犬猫の心のケアをするみたいな気持ちだった。そんなことしたことないけど。(だって犬も猫もボクにはなつかないし!)

「倫理くん、あのね、いつもありがとう」

 ゆっくり回想にふけっていたボクの思考を遮って、彼女の二度目の「ありがと」が耳に入る。ボクは隣を歩く彼女を見る。へらりと笑って、「お礼ならさっきも聞いたよ」と言ったら、首を横に振られた。「ううん、それだけじゃなくて、いつもありがとうなんだもん」って。

「私、倫理くんがいるならいいや。ひとりぼっちでも、倫理くんがいるもん」

 それを聞いて、ボクは笑う。ひとりぼっちでも、ボクがいるからいいって。ひとりぼっち仲間だもんな、ボクら。「倫理くんがいるからひとりぼっちじゃないね」とは言ってくれないのが、たいへん的を射ている。その通りだ。ボクらは、ひとりぼっちが集まっただけ。ひとりとひとりがあつまっても、「ふたり」にはなれないらしい。